春祭は波乱……いや淫乱の予感がする

 とりあえず、アンジェをベッドに寝せて、夜は更けた。

 オカンも寝息を立てている。寝てりゃ静かだ、害はない。


 一方、俺は俺で、なんとなく寝付けないでいた。考えることが多すぎて、何か忘れてるような気がしてしょうがない。

 おまけに明日から春祭が始まるが、これもなんかトラブル真っ盛りなにおいしかしないし。


 …………


 小島さんはいったいどうなるんだろう。

 まだ推測の域を出ないが、あのキモホクロマンがもしも怪しいクスリなどをいろいろ行使して小島さんをマンキツしていたとするなら、多少同情すべき点はある。

 ま、使い込まれてるようだから、マンキツどころかガバガバかもしれんが、それも二次被害と言えよう。


「……はは、いまさらなにを考えてんだ、俺は」


 無意識に出る、夜の静寂にやたらと響く独り言。らしくねえ。

 それでも、小島さんが自分の意思で抗えないような状況に置かれてると知ってれば、俺はもう少しぶつける言葉を選んだだろう。


 後悔先に立たず、ってな。もう遅い、仕方ないんだ。

 まったく、なんつー彼女ガチャだよ。


 とりあえず、小島さんがなんとか一人でも生きていけるように、陰から支えるくらいはやってあげてもいいな。せめてものお詫びに。


 あとは、ジョーンズさんに連絡を入れて……ぐぅ。



 …………


 ……



 目が覚めたら、朝六時五分前。

 ふと傍らのスマホを見ると、ランプが点滅していた。


 誰からだろうと思ったら二件あった。

 一件は、案の定剣崎さん。

 まあなんというか、待ちきれなかったんだろう。


 あのあと、実行委員長から渡された春祭のタイムテーブル最終決定版を見る限り、剣崎さんの出番は午後一時から二時間ほど。ステージはリハーサルなしの一発勝負らしいが大丈夫なのか、といらぬ心配してまうわ。


 咥えて、もとい加えて、リハーサルをしないかわりに、余った時間分をなぜか『万葉大学ミス春祭コンテスト』の審査員として費やす、なんて変更がなされている。

 しかしさぁ。今どき、しかも一応総合大学とはいえこんなローカル大学のミスコン審査員に、今現在飛ぶ鳥を落とす勢いのゲイノージンだかレズノージンだか持ってくるの、KYOKOの無駄遣いじゃねえの。


『十一時にはそっちに着くから、二時間くらい余裕はあるよね。どこかで美衣と対面できる場所を用意しといて』


 いろいろくだらないことを考えながらチェックした剣崎さんからのメッセージは、非常にシンプルなものであった。


 どこかで美衣と対面できる場所、ったって、ねえ。

 普通の場所とかじゃ、どこに行ったって目立つだろ、KYOKOの存在は。


 まあいい、さて、もうひとつのメッセージは……ん? 暮林さんからか。


『飛鳥ねぇと、どこでおちあえばいいのかな?』


 すっかり忘れてた。そうだよ、そのことに関して暮林さんと打ち合わせしてなかったじゃん!

 ま、ゆーて、ふたりとも場所を知ってて、他人の目を気にせずに対談とか猥談とかできるようなとこ、一か所しか思い当たらないんだよなあ。


 というわけで、二人に同じメッセージを返す羽目になった。


『じゃあ、十一時くらいに、誰にも気づかれないように俺のアパートに集合ってことで』


 はぁ。

 美人がふたり自宅にやってくるという、普通なら動悸息切れめまいを起こしそうなシチュエーションだというのに、俺の口からため息しか出ないのはなぜ。


 …………


 しかしそうなると、オカンとアンジェはこのアパートからどこかに行ってもらったほうがいいのかな。


 あと、アンジェはお願いした『ICレコーダー』をちゃんと持ってきてくれただろうか。

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