種付け未遂
「これには、こういう使い方もあるんだよ」
冴羽さんは慣れた手つきで、マイナスドライバーを窓枠に挿しこんで、くいっと。
ピシッ。
「割れやがった……!! しかも音もなく!!」
なんという手際の良さ。というかこんな使い方があるとは全く知らなかったぞ。細かく説明すると悪用されそうだから説明しないけど。
「さ、あとは崩せるよね。養生養生」
またしてもどっから出したのかわからない養生テープで、ひび割れたサッシのガラスに細工をする冴羽さんとそれを手伝う槇村さん、どっちにも迷いが見えない。だからいろいろと手慣れすぎてんだろ、もういいやこの二人は裏の住人で。
というわけでサッシの鍵を開け、中に入ると同時にカーテンをめくりあげると、ちょうど布団のところで正常位の体勢(未遂)の上側にいたキモホクロマンこと竜一義兄が驚いて顔を横へと向けてきた。押し倒すのと抵抗するのとのせめぎあいで、俺たちがいろいろ小細工してたことに気づかなかったらしい。アホだな。
横からだから顔がはっきり見えないが、どうやら覆いかぶさられてるのが小島さんだろう。あ、キモホクロマン改めレイプマンの下半身のズボンが半分脱げてらあ。
「……な、なんだ! おまえら、泥棒か!?」
「だーかーらー、けーさつだっつってんでしょうが。居留守使われたから仕方なくベランダから訪問しただけだって」
「うそつけ! けーさつかんがそんな訪問のしかたするものか!!」
はい、狼狽いただきましたー!
まあでもこの場はホクロマンの言うことのほうが一理あるようにも思える。さっきまでの激情がおさまってちょっとだけ冷静になったわ。
などと考えつつ、状況判断のため冴羽さんの肩ごしに部屋の様子をうかがう。
横たわったまま、一瞬、何が起きたか把握してなさげな小島さんだったが、俺と目が合うといきなり表情を悲し気に変えて。
ぶわっ。
「のわっ!?」
冴羽さんが突然びっくりしたかのように声を上げた。小島さんがとつぜん涙を流し始めたからだろう。
「……雄太、ゆうたぁぁぁ……」
ふり絞るかのような声をあげ、小島さんが。
「……たすけて」
助けを請う。
それを受けた俺は突然スイッチが入ってしまった。激情ふたたび。
反射的に前へダッシュし、いまだに小島さんの上からどこうともしないホクロマンの顔面へ。
「……てめええええええ、いつまで覆いかぶさってんだよ!!」
げしっ!! と横から蹴りを入れちまった。反射的にだからちかたないね。
「ぐえっっ!!」
食らったホクロマンはそこでようやく小島さんの上から離れた。ゴロンと横にずれた感じではあるが、仰向けになったら股間のテントがやたら目立って仕方ない。
ルパンダイブを失敗したかのようにズボンが半脱ぎなので、うまく起き上がれないというね。
「ざけんなこの性欲クズがぁ!! これみよがしにおっ勃てながらいやがる女にムリヤリ襲い掛かりやがって!! そんなにすっきりしたけりゃ金払って性戦士だか性器士だかのオーラルバトラーにでも咥えてもらって来いやぁぁぁ!!」
「はいはい手出しはだめよー。ま、ゴーカンマ相手ならそのくらいは見逃してあげるけど。豹変するの怖い怖い」
興奮冷めやらぬまま追撃をしようとしたが、冴羽さんに腕をつかまれて止められた。
まあ確かにこいつを殺してしまっては慰謝料ももらえなくなるし、冴羽さんと槇村さん相手にはなんとなくかなわない気がする。抵抗するのやめよっと。
というか、小島さんが急展開についてこれないのか、いまだに震えてるのが弱弱しい。上着がはだけて下着が見えているのも目の毒というかなんというか。
「……ほれ。とりあえず」
黒の下着とはやりおるなあ、と思ったが、視姦してたら後ろのケー殺漢を名乗っている裏の世界の住人たちにしばかれそうなので、しかたなしに上着を脱いで小島さんにかけてやった。
くっそ、どうせならこういう真似はネトラレアじゃない相手にしたかったわ。まあいいや、どんなにきざな真似をしたところで、小島さんが今さら俺に惚れ直すことなんてないだろうしな。
誰も言ってくれないので、自分で言う。とりあえず俺カッケー。
「う、うっ……うぁぁぁぁ……」
一方で、俺の心の中などわかるわけもない小島さんは嗚咽を漏らす。下半身は漏らしてねえよな? とか確認しちまったよ。
ふむ、まあ慰める言葉など残念ながら持ち合わせていない。小島さんが落ち着くまで少し待つついでに、キモホクロマン拘束しとこ。
……ところで、ウチに持ってくるつもりだったのって、小島さんが押し倒されてたこの布団かな? 正直借りたくねえなあ。
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