人脈のふしぎ
目的地の灰砂台二丁目、関東ローム荘。地図アプリで調べれば、場所くらいはわかる。
「……うげ、地図を見る限りじゃ、結構距離あるじゃねえか。本当にタクシーでワンメーターの距離かよ、これ」
ひとりごちつつも、特に意識しなくても、自然と早足になる。そして少しだけ息切れもする。
身体なまってるなあ、受験勉強ばっかしてて鍛錬怠ってたから仕方ねえけど。と、ふがいない自分を反省しつつ地図アプリ頼りに徘徊していると、不意に声をかけられた。
「……おや、ひょっとして、ネト・ラーレン少佐じゃないかな? どうしたんだい、こんな夜更けに」
「んあ?」
いつの間にか少佐に階級が上がっていたが──そんな呼び方をするのは、明らかに一人くらいしか心当たりがない。おさわりまん一号だ。
「ああ、スカトロ大尉ですね」
「えーと、その呼び名は第三者にあらぬ誤解を与えそうだからやめてくんないかなあ?」
「先に言ってきたのはどちらですか。というかさーせん、俺あなたの名前知らないんですけど」
ちょっとだけ目を細めて声のした方を向くと、おさわりまん一号二号が並んで立っていた。なんだかんだ言ってこの二人仲がいいんだよなきっと、またコンビで登場だもの。
「ああ、そういや名前言ってなかったっけ。僕は
「……どうも。槇村です」
「なんですかあなたたち街の掃除屋さんですか」
きっと万葉駅前の掲示板に『WXY』とか書くと依頼とかできるに違いない。
親切に縦書きしてみよう。
W
x
Y
ってな。ヒワイだ。歩くワイセツ物だ。存在自体にモザイクかけとくか。
「あはは、よく言われるんだけど全くの偶然なんだよね。で、なにしてるの上村くん?」
「悪いんすけどお二方にかまってる暇ないんですわ。ちょっと一刻を争う……」
「ひょっとして、小島亜希ちゃんをさがしてるのかなー?」
「……なんでそれを」
無視して灰砂台方面まで向かおうと思ったら、おさわりまん……じゃなかった、冴羽さんから小島さんの名前がフルネームで出てちょっとビビる。
「いやねー、頭の上がらない人から小島ちゃんの身柄を拘そk……じゃなかった、身の安全を確保してほしいって突然お願いされちゃってさー。で、僕ら二人で灰砂台の関東ローム荘へと向かってるってわけ」
「……なんでパトカー使わないんですか」
「ま、急に舞い込んできた依頼……じゃなかった、お願いだからね。このまま直接向かった方が早かったし」
冴羽さんが状況を説明してくれた。なんという親切設計。
しかし、頭の上がらない人って、まさか……
……まあいい。今はそんなことに気を取られてる場合じゃない。
「じゃあ、おまわりさんなら場所正確に知ってますよね。道案内お願いしてもいいですか?」
「おおっと、一般市民に道を聞かれちゃったぞー。そりゃ
「けーさつかんの響きがなんかちがう。やっぱスイーパーでしょあんたら」
「細かいことは気にしない。さ、早く行こうか」
「あ、ごまかした」
心強い味方なのかそうでないのかはわからんが、美沙さんの人脈の広さに対する畏怖の念がカズノコ天井知らずで増幅中。
今後、美沙さんに逆らうのはやめとこう。決めた。
―・―・―・―・―・―・―
そうこうするうちに、なんとか【関東ローム荘】前まで到着した。
が、ここで再度問題勃発。
「……どこが小島さんの部屋なんだ……?」
振り返っておまわりさんふたりに視線で尋ねてみるも、首は横に振られるだけである。
「そういや聞いてないなー」
「……このご時世、表札みたいなものなど設置されてるわけもないしな」
アパートは二階建て。部屋数は全部で8つ。さあどうするべきか、なんて悩むまでもない。
「ならば、毛ジラミつぶしに行きますか……」
「うん、それしかないだろうねー」
「……ちょっと待て」
と、そこで槇村さんがしゃがみこんで、なにやら地面をまじまじと見始めた。
「どうかした、槇ちゃん?」
「この足跡……おそらく階段前の濡れ土を踏んだんだろうが、半乾きで残ってる」
「おー、本当だ。二階のほうへ続いてるね。どれどれ……」
とりあえず三人で足跡らしきものをたどると、それは203号室前で途切れていた。部屋の明かりはついているようだ。
ここかな、と思って耳を澄ますと。
『……めて……』
「!」
もう聞きたくないと過去に思った、だが聞き覚えのある弱々しい声が、かすかに聞こえてきた。
「……たぶん、ここで間違いないすね」
ビンゴ。
だが当然、ドアにカギはかかってるんだろうな。
ノックしたところで返事はないだろうし、どーすべ。
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次回、たぶん制裁。引っ張ってすみません。
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