自覚しろ、ターコ

 とりあえず、生暖かい目で小島さんが落ち着くのを待つ。

 しっかしまあ、ぼっちの悲哀さってのもちょっと理解できた。なかなかに哀れな泣き方であるよ。


『……あーいうタイプはね、悩み事とかあっても、誰にも相談できないタイプだよ』


 ふと、おさわりまんの言葉を思い出す。いや言いえて妙。

 だがその結果誰も幸せになれないという最悪の状況だ。


 ま、このくらいの年齢で、誰も頼れる人がいないとなったら。

 よほど精神的に強くなければ、自死を選ぶか、ヤケのヤンパチとかヤケのヤンママとかヤケのヤンデレとかになるくらいしか選択肢なさげ。


 ……どれも死亡フラグだわ。自分か相手かの違いはあれど。


 それでも、いろいろバイト先とかを探していた様子からして、前向きな何かは残っているものだと思いたい。


 泣きやむのを待っていたジョーンズさんであったが、一向に泣きやまない小島さんにじれたのか、それともこれ以上みじめになく小島さんが哀れで耐えられなかったのか、嗚咽が響く中で重要案件をしゃべりだす。


「……ミス・コジマ。もしキミが前向きに今後生きていくつもりであれば、制裁に協力してもらう代わりに、ワイがキミの生活をささやかながら援助しよう。具体的には、居住と収入に関してだ」


 少しだけ、小島さんの嗚咽が弱まった。


「ただし、ワイの立ち上げた会社で、働いてもらえるならばね。時給はそれなりに弾むし、雄太も同じところでバイトする予定だから、心細くはないんじゃないかな。家庭崩壊の危機がやってきて住むところにも困るようなら、この部屋を会社の寮として、大学在学中は貸し出してもいい」


 小島さんの嗚咽が止まった。


「あと、義兄への制裁に関して、慰謝料請求の際に、ミス・コジマに有利な条件を提示して交渉してもいいと思っている」


 小島さんが顔を上げた。


「……そ、れは……」


「はは、そのくらいお安い御用だ。雄太とも話し合っていたんだよ、何とかできないかと。それでワイにもできることを提示しただけだ。キミにだって、幸せになる権利くらいあるんだからね」


 やだ、ジョーンズさんったらイケおじ。違う意味で小島さんの目がウルウルしてんぞ。下半身のほうもウルウルしてたりして。不感症も濡れる街角。

 これらがうまくいけば、ひょっとすると小島さんが抱える問題全部解決すんじゃね?


 ……ま、まあ、もしもジョーンズさんの提案通りに物事が進んで、アパートの隣部屋に小島さんが住むとなると、何か別の問題が勃発しそうな気もするけど。

 多分それは、デッドオアアライブの選択に比べれば些細なことだ。


「雄太……」


 いろいろ考えて、しばらく固まったままの小島さんだったが。

 どうやらひとつの結論に到達したらしく、そこで俺のほうへ確認にも似た視線を投げかけてきた。


「なに?」


「雄太は、それでいいの……?」


「悪かったらこんなことジョーンズさんと話し合ってねえし、小島さんをここに連れてきたりしねえよ。いろいろ難問題があることは確かだろうが、いいかげんに、自分ひとりで悩んで斜め上の行動することだけはやめてくんねえかな。変な心配事ばかり増えちまうから」


「……」


「さっきも言ったが、自分だけじゃねえんだよ不幸になるのは。多かれ少なかれ、まわりもそれに巻き込まれるんだ。だから変われ。投げやりな態度捨てて、幸せをつかめるように変われ。せめてまわりを巻き込まないように変われ」


 なんかエラそうな物言いだけど気にしない。

 すべてを水に流すほど時間が経ってはいないけど、俺を裏切ったことを責めきれない部分があるのも確かだし、少しくらいはね?


「……あ、ありがとう、ございま……」


 今度は伏せったりせず、顔を下に向け、涙を流す小島さん。


 だが。


 実はジョーンズさんと、『慰謝料が手に入ったら、雄太にも協力金を与えよう』なんて話をしていたことは、小島さんは知らない。

 そのくらい悪どくなったっていいだろ、俺も。


 というわけで、俺の臨時ボーナスのため、小島さんも頑張ってくれ。小島さんが俺を裏切ったことへの慰謝料代わりだ。



 ―・―・―・―・―・―・―



 とりあえず、小島さんはこれからジョーンズさんと一緒に、休みで誰もいないであろうオフィスへ向かうこととなった。弁護士も召喚しているとのことなので、依頼するうえでいろんな打ち合わせもあるだろう。


「雄太、ありがとう……」


「俺は何もしてねえよ、すべてはジョーンズさんの厚意だ。ま、こうなったらもう運命共同体みたいなもんだし、くれぐれも自分一人で抱え込むことだけはやめてくれよ」


 礼を言われてもむず痒いだけだが、最後に念押し。

 小島さんは、今までとうってかわって、素直にうなずく。


「うん。約束する」


「ならよし。ま、とりあえずジョーンズさんに協力してくれ」


「……まかせて」


 再会してから今まで、見たことがないくらい、小島さんの表情は晴れやかだった。

 こういうタイプは、多少強引に押し切らねばならぬということも合わせて理解。


 車に乗り込んだあと。

 窓越しに俺に手を振る小島さんのキャラが変わりすぎてて、戸惑いつつも。


 これで小島さんが自死を選んだり、泡堕ちしたりする可能性が薄くなったことに、俺は安堵した。NTRネトラレア相手に気をもむくらいなら、パイオツ揉んでた方が精神状態に数百倍いい影響を与えるってな。


 …………


 ジョーンズさんから協力金もらったら、パイオツ揉むためにつぎ込もうかしらん。

 なんか今無性にパイオツ揉みたい気分だ。揉みたい、って叫んだらかわいい子が彼女になったりしないかな。


 まあいい、今は合コンに期待しよう。


 …………


 ふと思った。

 俺はなんで、彼女が欲しかったんだろう。単に揉む権利を得るためか? それともやるためか?


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