ハニートラップ・ネトラレア
「はじめまして、ミス・コジマ。よろしく頼む」
「え、ええええと……こちらこそ、ミスター、ジョーンズ?」
あの後。
俺に連れられ、小島さんは俺の隣の部屋に陣取るジョーンズさんのもとへやってきた。
相変わらず人見知りな小島さんは挙動不審も甚だしい。なんで疑問形だ。
まあいい。時間がもったいないから、説明開始。
「でね、小島さん。簡単に概要を説明するけど、このジョーンズさんは俺の義理の叔父で、離婚した元奥さんが小島さんの義兄と不倫したんだよ」
「はい……?」
「どうやらマッチングアプリで知り合ったようなんだけどさ」
「まいっちんぐあぷり……?」
「マチコ先生と知り合うアプリじゃねえよ。マッチングアプリってのは、異性と知り合うためのアプリだ」
小島さんの空耳レベルは間違いなくマックスなんだろう。
はい続き。
「小島さんと俺が形だけでも付き合ってた時、小島さんの義兄も誰か違う人とつきあってた時期があったって以前言ってたでしょ?」
「うん……」
「おそらく時期的にその時だと思うんだよなあ、マッチングアプリで小島さんの義兄さんとジョーンズさんの元嫁が知り合って不倫してたの」
「ああ。雄太の言ってた時期と、あずさが不審な行動をしてた時期は重なるな。あ、あずさというのはワイの元嫁だ」
「は、はあ……」
理解できてるかな。まあ唐突な話でもあるから仕方ないにせよ。
「ほんでね、小島さんの義兄は、その元嫁を妊娠させておいて、責任も取らずに逃げたんだよ」
「……」
「というわけで、それが発覚してジョーンズさんは離婚することになったから、損害賠償請求をするつもりなんだけど」
そこでようやく小島さんが理解したようだ。顔が青ざめたのも一瞬のことで。
「……つまり、竜一義兄さんが不倫して、ミスタージョーンズの奥さんを妊娠させたから、それで……?」
「そゆこと」
「……ほんと、しょーもない人……」
どちらかというと軽蔑っぽい感じで吐き捨てる小島さんの心中やいかに。
ま、しょーもない人が誰か、なんて野暮なツッコミはしない。
そこでジョーンズさんが、珍しく真剣な態度で小島さんに問いかける。
「というわけだ。ひょっとすると、損害賠償請求をすることで、ミス・コジマの家族に激震が走ることは間違いない。そうなると家庭崩壊の危機も一緒にやってくるかもしれないのだが、かまわないかね?」
そう訊かれた小島さんはジョーンズさんに目も合わせず、ただただ下を向いてしばらく黙っていたが。
「……もう、壊れてるし。どうせならとことんまで壊れてほしいし。あたしは別に、どうなろうがかまわない」
少しばかりヤケクソ気味に、そう吐き捨てた。
「ふむ……ミス・コジマ。できれば、キミには協力してほしい。キミの協力があれば、いろいろとスムースに物事が進められるからな。もちろんお礼はする」
「……」
「だが、キミは、自分から進んで家庭を壊すことに、抵抗はあるだろう?」
「……そんなの、ないよ」
ここでもヤケクソ気味な態度が気になる。
今後の生活どーすんだ、と思った俺は、思わずそこで割って入った。
「小島さん。自暴自棄は良くないぞ」
協力してほしいので、少し下手に出てみる。
が、小島さんは相変わらず厭世的な態度を崩さない。
「だって、もう何も守るものなんて、守りたいものなんて、ないもの……」
「……」
「ないもの!!」
その自暴自棄の果てに、俺を裏切り傷つけたってことを失念してんのかこの女は。
結果泡堕ちとか自死とか選ばれたら、俺だって寝覚めよくねえぞ。
ああもういらだった。
下手に出るのやーめたっと。
「ふざけんなよ!!」
「ひっ」
俺にちょっと強く言われただけでひるむくらいなら最初から
そうは思ったが俺は止まらん、止められん。
「小島さんがそういう態度で
「そ、そんな人、いな……」
「いるだろうが目の前によここによ!! 自分を大切にしなかった結果、脅しにも似た義兄の言いなりになって俺に消えない傷をつけたやつはどこの誰だ、ああん? 小島さんが自分を大切にしてたら、俺は傷つかなかったし小島さんも不感症になってなんかいなかっただろうがよ!!」
「……」
「人間ってのはなあ、不幸な中でもなんとかして幸せをつかもうとしてあがいて生きていくもんなんだよ! 他人が気遣ってくれないならば、自分自身だけでも幸せになるために、やけくそになる前にやることはいっぱいあるだろうが!! せめて自分を大事に、大切に扱いやがれこんちくしょう!!」
息切れした。
なんか魂の叫びみたいになっちゃったがまあ気にしない。ジョーンズさんは「おー!」というような表情で手拍子しそうな感じだしな。さすがサレ男仲間。
これで響かなかったら、小島さんが前向きになることはもう不可能だろう。
どうせなら、自暴自棄で協力してもらうより、小島さんが希望を見出せるように変わってほしいんだからさ。
そこで補足するべく、ジョーンズさんも口を開いた。
「……ミス・コジマ。キミが置かれている立場は、悪いが雄太からざっくりと聞いている」
「!?」
「ただな、キミはある意味被害者だ。そんなキミに対して、ワイも雄太も何とかできないかと思っているんだよ。制裁に関して協力を求めている以上、百パーセントの善意でないかもしれないが、そんな気持ちは否定しないでほしい」
「……」
「ワイも雄太も、キミの味方だ。思ってることは、何でも言ってくれ」
さすが人生経験の長いジョーンズさん、言い方が違う。
「う、ううう……ああああぁぁぁぁ……」
それを受け、まるでぼっちの泣き方の見本のように、小島さんが哀れな嗚咽を漏らした。
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体調不良でいろいろ休んでたらどこまで書いたかわからなくなってきました。
頑張ります。
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