おさわりまんの助言

 というわけで、ちょっと遊びに繁華街まできた。気晴らし気晴らし。

 久しぶりにゲーセンに寄って、クイズ・マジカルネトラレアカデミーでもやっていこうかな……


 と思ったら、ゲーセンに入る前に誰かから声をかけられた。


「あっれー? キミは確かネト・ラーレン少尉じゃない?」


 忘れもしない、このファンキーボイスはファンキーポリス。おさわりまん1号だ。

 というか誰が少尉だこんちくしょう。


「なんすか、スカトロ・ヴァギーナ体位、じゃなかった大尉。俺は特に用事ないんですけど」


「あっははー、ひどいいわれようだねえ」


「先に喧嘩売ってきたのはどっちですか」


「じょーだんだよ、若さゆえの過ちってやつさ。気を悪くしたらごめん」


 振り返って隣を見ると、おまわりさん2号もいた。この二人は遭遇するときいつも一緒だな。なんか決まりごとがあるのか、それともそこにあるのは愛なのか。


「ども」


 ま、いちおう軽く挨拶だけはしとく。


「ああ、キミの探してる人は、さっきそこの裏道を東口方面に走って逃げてったよー」


「……は? 探してる人?」


 しかし、そのあとに何やら意味不明な言葉を返された。わけがわからなかったので思わず聞き返してしまったわ。


「あれ? この前、ここらへんで絡まれてた、あのなんかわけありそうなカノジョを探しに来たんじゃないの?」


「……なんでそう思ったんですか?」


「いやだってさ、そのカノジョ、なんか前の時とおんなじくらい思いつめたような顔してたからさ」


「……思いつめた顔?」


 ……どうやら、小島さんで間違いないみたいだな。


「そ。なーんか事情があるんだろうねえ。偶然会ったから、『はろー。ひさしぶりだね、なにしてるの?』って尋ねたら、青い顔のままダッシュで逃げられちゃったから、詳しくはわからないけどさ」


「……それ、タイーホされると勘違いしたんじゃないですか?」


「はは、かもねー。まあ、何かを悩んでるのは間違いないにしても。んー……」


 そこで少し考えるような態度を見せるおさわりまん。


「……あーいうタイプはね、悩み事とかあっても、誰にも相談できないタイプだよ。で、結果一人で抱え込んで、あさっての方向へ向かっていっちゃう。わりと抑圧されてたんじゃない? 家庭とかで」


 俺は面食らった。

 こんなにまじめな顔できたんだ、この人。なんだかんだ言っても、いろいろな人を見てきた人なんだろうからな。


「でもね、自分から積極的にかかわれないだけで、誰かに心配されたら安心すると思うな。そういう相手には、こっちから根掘り葉掘り聞いていくくらいでいいんじゃない」


「……そういう、もんすかね」


「キミは、今までカノジョにあれこれ尋ねてみたりしたことないの? その時、ロクに答えてくれなかった?」


「……いえ」


「じゃあやっぱり聞いてほしいんじゃない? それを待つだけしかできないんだよ、あーいう娘は」


 そーいうもんなのか。

 うーむ、まあ確かに境遇からして誰にでもいえるもんじゃないけどさ。


 なんかまた新しい事案でも出てきたのかな。一応探してみるか。


「ありがとうございます、ちょっと探してみます」


 このおさわりまんに心からのお礼を言うことになるとは思わなかった。

 深々とお辞儀をしてそう言った俺に面くらいつつも、おさわりまんは公務員としての責務を果たそうと俺に追加でアドバイスをしてくれた。


「んー、まあ本当に、困ってたら頼ってよね。相談しても何も変わらない、なんてことは稀なんだから」


「……あんた、本当に他人の家で靴先を扉に挟んだ人間と同一人物ですか。双子の兄とかそういう設定とかなしですか?」


「ひどいいわれようだねー。ふざけるときとそうでないときとの区別くらいつけているといってほしいね。ま、後を追うなら早く行った行った。取り返しがつかなくなる前にさ」


 良くわからないが、感謝だけして。

 俺はおさわりまんにあおられるがまま、小島さんを探しに向かった。



 ―・―・―・―・―・―・―



 とりあえず奥の方へ向かうと、あっさりと小島さんに遭遇した。まーたどっかのコンパニオン募集、みたいな求人の張り紙見てやがる。


「即日体験入店……時給三千円から……これも即日なのね、どのくらい働けるんだろ……」


「これ以上人生でさらなる闇を抱えたくないならやめとけ」


「!!」


 とつぜん独り言に割り込まれて、小島さんが振り向く。

 俺の顔はそこまで恐れおののかれるようなこわもてじゃないぞ。


「こりずに高収入の仕事探してんのか。プライド切り売りしてまで稼ぎたいんかよ」


「……」


 学業のついでにアルバイトならば、価値観がぶっ壊れそうなバイトは避けるべきだと思うんだが、小島さんはとりつかれたように高収入にこだわっている。


「だって……もう、美衣のところにお世話になることもできないし……」


「……もうあの家、出たん?」


 問いかけに小島さんはうなずく。


「さすがに……そこまで、厚かましくないよ」


 まあ、たしかに落ち着くまで、という約束ではあったが。

 しかし、来週になれば小島さんの義理の兄貴も襲来するんだろ。可及的速やかに引越ししないと危ないんじゃないか。


 …………


 そういえば、小島さんの義兄をカタにハメるための打ち合わせをしてなかったな。


「ちょうどいい。小島さん、こんなところに仕事探しに来てるくらいだ、暇なんだろ。ちょっと提案があるんだが、打ち合わせしないか?」


「……なんの、打ち合わせ?」


「ま、いいから黙って俺について来いって」


「あっ……」


 というわけで、強引に小島さんの手を引いて、わがアパートに戻ることにした。


 俺、なんでこんなことしてんだろ。


 ま、間男義兄だけはきっちり償わせないと気が済まないから、追い込みを失敗したくはないし。


 ……おさわりまんの言葉も気になるし、な。


 うん、ジョーンズさんも今日は休みなはず。小島さんに対して、いろいろ話があるだろう。





────────────────────



脳内プロットはいつもギリギリ。

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