わたしが行くよ、いやあたしが、じゃあ俺が、どうぞどうぞ
「デートって、なんだ……?」
至極まっとうな疑問を口にする俺。
いやだってさ、デートってもんは付き合ってる、もしくは付き合う意思のある男女がするもんじゃない?
少なくとも俺は暮林さんと付き合うつもりはないし、今後付き合う予定もない。
だからこそ、デートという定義に疑問しかわかないのだが、暮林さんはそのあたりをすっ飛ばして先走る先走る。
「で、デートっていうのは……もっと仲良くなるために……」
「……」
「あ、あの! だ、だから、わたしは雄太くんとデートしたいな、って……」
「……」
「だ、ダメ? だめ、なの……?」
すまん、頭の中で利害関係っていうものがぐるぐる回ってるわ。
例えば暮林さんとデートしたとして。
まず、このことが知れ渡ったら、俺は暮林さんと付き合う意思があると周りに、イヤ本人にも誤解を与えてしまうかもしれないこと。
特に暮林さんは思い込みが激しい傾向がある。深く考えずに安請け合いしたら、勘違いが終盤加速してノンストップガールまで到達してしまう可能性が高い。せめて垂れウマ回避くらいでおさえてほしくはある。
あと。合コンに到達するために払う犠牲がデートとして、それは充分にペイできる程度のリスクなのか。ほかの人間にこのことがバレたら、果たして平穏な合コンはやってくるのか。そのあたりも問題だ。
損して得取れ、みたいな進み方をすればいいんだが、なんとなく今までの流れからして不安材料しかない。
特にアンジェ。なーんか暮林さんに釘刺ししてたりしてたよなあ、おにぎり事件の時。バレたりしたら拗ねられそうで怖い。アンジェが厄介な状態は怒りよりも拗ねてるときだから。
というかさ。
暮林さんとデートして、俺は楽しめるのか?
そこにお互いの意思があるからこそのデートだろ。俺が楽しくないのに暮林さんばかり楽しむようなものをデートと呼びたくはない。
ここまで思考時間0.69秒。
…………
なんで泣きそうになってるかなあ、暮林さんは。ふと目を向けたら罪悪感がわきそうな顔に。
そんなに俺に断られるのが悲しいの?
…………
ああ、もう!
なんかさ、さっきはさっきでしおらしくしてる剣崎さんの顔も見ちゃったし、今回は今回で暮林さんがまた闇堕ちしそうな顔してるし。
確かにこの二人は忌まわしき
こんな顔させるのもなんか違うんだよ。
…………
うん、ヤバかった。男としてブレてた。
俺の最優先事項は合コン。それは揺るがないわけで。
「……わかった。デートっていうわけじゃなく、二人でどっか出掛ける。それでいい?」
ちょっとしたダチョウ……じゃなかった、妥協をして、そう提案してみた。
とたんに暮林さんの表情が明るくなる。
「い、いいよ!! じゃ、じゃあ、どこに行く? どこがいいかな?」
食いつき良すぎ。思わずほだされそうになるくらい、いい笑顔ですねえ。
……暮林さんって、こんなふうに笑うんだな。今さらだけど。
いや、まあ、なんでこの笑顔を俺と付き合ってた中学時代に見せてくれなかったのか、なんて言い出すともう不毛痴態、じゃなかった不毛地帯まっしぐらな争いが始まっちゃうから、抑えろ俺。不毛痴態はパイパンのみでいい。
「突然だから、何のプランもありゃしません。だからそのあたりは暮林さんに任せる。そんなに金がかからないところでお願いしたい」
「う、うん! もちろんだよ!」
「……あと、このことはほかの人には言わないでほしいかな。ふたりの秘密ってことで」
「わかった! ふたりだけの……秘密の花園、だね! うふふ……」
不思議だな、なぜかNTRさんがそう言うと、性子ちゃんの歌のタイトルに聞こえる。まあそれはそれとして。
「ねえ、いつにするいつにするいつにするいつに擦るちつにする? 早くイキたいねー!」
「たのむからおちついてくれないか。だよねー、なんて言わんから」
……やっぱり不安材料しかない。もうビッチ化しとるわ。きっと根がそうなのね。
まあ、気を取り直して。
「とにかく、剣崎さんと春祭の時、会う時間作ってくれよ?」
「……うん。雄太くんも、わたしが謝罪する機会を作ってくれたんだもんね。それなのにわたしが飛鳥姉と会わないなんて言えないから」
いちおうミッションだけは遂行しとく。これで合コンも安心。
ま、どこでどうやって二人を会わせるかは、またおいおい考えよう。
おいおい考えるのは、それだけではないけれど。
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ようやくラブコメらしき何かがアップを始めました。
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