いとなみいとなめレズ

 その後結局、駅まで美沙さんが迎えに来てくれたんで、車に同乗し暮林家へ到着。

 家を見る限りでは割と上流な家庭のようだ。家が立派。

 そりゃこんな家なら小島さん一人くらい保護してもなんともないわな。


 少しだけ『玉の輿』という言葉が頭をかすめた。ま、暮林さんは腰の玉にほんろうされてたわけだけどな! いや、ほんろうというか本望というか。


 快楽堕ちって怖い。


「……美衣の部屋は、こちらです」


 いけね、くだらないことを考えてたせいで記憶が飛んでる。いつの間に俺は靴を脱いだんだろうか。

 まあいっか。いつの間にか服を脱いでいた、なんてビッチによくある前後不覚とは比べ物にならないレベルの些細なことだ。


 ……ちょっと緊張してきた。女子の部屋に最初に入るとなれば、相手がたとえNTRネトラレアだとしても、ドキドキするのは仕方なかろうもん。


「……突然ですまないけど、お邪魔します」


「あ、い、いらっしゃい、雄太、くん……うそでしょ、本当に……わたしの部屋に……雄太くんが」


 そして部屋の扉を開けると、暮林さんもなぜか頬を赤らめつつキョドってた。

 なーによ今さら、奥津とあーんなことやこーんなことまでさんざんやってたくせに、なんでシャブ漬けされる前の生娘みたいな反応を見せてんの?

 轟でも渡辺でも坂上でもなく今さらジローだわ。


 ……ま、昔は昔、今は今なのかもな。このご時世、パンツ脱ぐよりマスク脱ぐほうがはずかしいなんて女子までいるから。


「あ、あの、とりあえず座って、ええと、ごめん、ここでいいかな」


「……ベッドに座れと?」


「あ、ち、ちがうの、間違えた。そうだよね、ベッドはもうちょっと後でもいいよね、あ、あはは」


「……いや、椅子もないみたいだし、別に俺がベッドに座っても暮林さんがいいなら座るけど」


「え!? じゃ、じゃあ、話す前に……その……」


 なーに期待してんだこのビッチッチ。暮林さんの主戦場はベッドの上じゃなくて音楽室とか体育倉庫だったろうがボケ。


「……早く本題に入らせてもらいたいんだけど?」


「ご、ごめん!」


 焦れた俺は、先ほどまで感じていたドキムネ感すらも吹っ飛ばすような低音で言葉を発した。するために来たんじゃねえっつの。それともなんだ、今まで男が部屋に尋ねてくるときは、全部ヤリモクだったのか?


 所詮ビッチってのは改心してもビッチなままなんだな。つき合ってられるか、黒柳〇子よろしく、窓際に座ってトットと用件を済ませよう。


 ............


 まあ、合コンのことは伏せるとしても、ストレートに言った方がいいよな?


「実は、今度の春祭のことなんだけど」


「う、うん」


「KYOKOさんが来るって、知ってるよね?」


「……」


「で、だ。その時、KYOKOさんが暮林さんに会って、謝罪したいんだってさ。それを伝えに来た」


 およ、険しい表情の暮林さんを久しぶりに見た。悔しいけどこんな表情しても美人は美人だし、かわいいのはかわいいんだよな。これが生まれついた格差ってやつよ。


「……なんで、雄太くんが飛鳥姉のこと知ってるの?」


「え?」


 なんだ、その部分が気になったから、こんな険しい表情してんの?


「いや、一応同郷人なんだし、それは知っててもおかしくないでしょ」


「……うそだ。だって接点なんてあったの……? 高校も違うし、中学時代は話したことすらもなかったはずでしょう?」


「うっ。い、いや、知り合ったのは確かについ最近だけど」


「……やっぱり」


 おお、暮林さんの背後に怨念らしきものが渦巻いておる。何か逆鱗に触れてしまったのだろうか。


「いつもそうだ……いつも飛鳥姉は、わたしのものを横からかすめ取っていくんだ……」


「はあ?」


「親切なふりして……わたしに近づく人をことごとく奪って……」


 いや待ていろいろ言いたいことはある。


 まず俺は暮林さんのものになってないからな? だから横からかすめ取るってのは言い方がおかしいぞ。

 それにおそらく……暮林さんに近づく人をことごとく奪う、ってのは、たぶん好意を持った男のことなんだろうが。あのサイコレズのことだ、『美衣に近づく害虫は駆除だ!』みたいな理由だろ。

 そして一番大事なことは、自分が奥津になびいて俺を裏切ったせいでそう行動せざるをえなかった剣崎さんを、自分のことは棚に上げてワルモノにしてるという部分だ。


 が、もうめんどくさいからスルーする。


「あのさ、そんなことはないと思うよ。実際、KYOKOさん──いや、剣崎さんは暮林さんを傷つけたことを謝罪したいって、そればかり気にしてたからさ」


「……うそだ」


「だから嘘じゃないって。ね? 春祭の時に剣崎さんと会って、話してくれることを約束してくれるだけでいいからさ、お願い」


「どうせ……どうせ、雄太くんも飛鳥姉の方がいいんでしょう? 飛鳥姉に頼まれたから、こうやってわたしのところに来たんでしょう?」


「だから」


「そうだよね……飛鳥姉の方が美人だし、スタイルも完壁だし、非の打ちどころなんてないもんね……」


 あかん、動揺どころか勝手に鬱になって、暮林さんの自虐モードが発動だ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうところだったが、『カンペキ』じゃなくて『カンカベ』になってるくらい沈んでるな。

 このままでは剣崎さんに会ってもらえないかもしれない。そうなると当然合コンの件も流れてしまう。絶対回避だ。


 だいいち見た目に関して非の打ち所がないとしても、あんなクレイジーサイコレズはもうその時点で恋愛対象どころか女として論外だっつの。


 というわけでひねらず素直にいこう。


「俺は剣崎さんにそんな魅力を感じないけど。まだ暮林さんの方が可愛いと思うよ?」


 正直、俺を裏切った浮気女と絶対百合主義、どっちも激しくお断りしますではあるけれど、建前ってのは重要。

 そんな気持ちが、という言葉をつい口から出させてしまった。


 ちょっとやばいかな、と思ったが、やはりこういう人種は自分に都合のいい言葉しか拾わないようにできているらしく。


「ほんと!?」


「あ、ああ」


「じゃ、じゃあ……雄太くんは飛鳥姉より、わたしの方が好き、てことに……なるの?」


 だからそこだけが聞きたかったんかい。

 正直なところ、大好きかそうでないかではないので、ほぼ同着もしくは微々たる誤差、くらいしか違いないんだけどさ。

 ここでも建前ってのは大事だよな、俺にとっての最重要は合コン、そのためなら泥水でもすするくらいの覚悟を持って、事に対峙せんと。


「……まあ、剣崎さんのことは別に好きではないから……」


 言葉にするのも嫌で、俺はそう言って濁し、首を軽く縦に振る。

 はたしてこの行動選択は正しかったのか、それとも──


「じゃ、じゃあ、雄太くんが、わたしとデートしてくれるなら……春祭で、飛鳥姉と、会っても、いいよ……」


 ──間違いだったのか。


 なんちゅう卑劣な交換条件出してきやがる、ベラボービッチめ。




────────────────



いつもいつも間が空いてごめんなさい。もう少し頑張る。

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