その他の動向
「ところで雄太」
ジョーンズさんがいきなり話題を変えてきた。
「ここのアパートに引っ越してくる途中で気づいたんだが、なんでこのアパートの周りにパパラッチが多数いるんだ?」
「……へっ?」
「こんな寂れたところに、ほら車が数台停まってるだろ。中にいる男どもはみんなカメラを抱えてるしな、バレバレだ」
玄関のドアを開けつつジョーンズさんがそう言ってきて、初めて気づいたわ。
そういえば確かに、路駐してる車が最近目立つよな……
……まさかね。
まあいいさ、もうこんなところにKYOKOさんが来るわけもないだろうから。
しかしどっから漏れた。
まさか、コウイチくんとその彼女が腹いせに言いふらしたとか、か?
その可能性がじゅうぶん考えられるのがちょっと鬱。
あーあ、春祭はいろいろイベントが目白押しになりそう。
マックイーンとかパーマーとかドーベルとかブライトとかライアンとかいるが、俺は実在馬ではパーマーが一番好きだ……
……メジロ推ししてどーする。
―・―・―・―・―・―・―
さて、春祭に意識を向けても、大学の講義はなくならないわけで。
いちおう学生としての本分を全うするために大学へ来た俺は、正門を過ぎてから思わぬ二人連れに遭遇した。
「あ、おはよう、雄太くん!」
「……おはよう」
暮林さんと小島さん、まあ事情を知ってれば納得のツーショットである。
いちおう挨拶くらいは返してもいいか。
「二人ともおはよう。それなりには仲良くなったみたいだな」
何も考えずただ思ったことを口にした俺だが。
その言葉を受け、暮林さんは苦笑いし、小島さんは俺から顔をそむけた。
「……そういうわけじゃないよ。ライバルだし、ね」
そう答えて暮林さんは、俺から隣にいる小島さんへと目を移す。
ようわからんが、まあそりゃ同じ家に住んでれば、いろいろ話して分かり合える部分もあるだろう。
女の友情らしきものを邪魔するつもりはない。
「つーか、小島さんは大丈夫なん?」
「……まわりに誰かいたほうが、いいから……」
「ああ……そう。ま、無理すんな」
小島さんは小島さんで、この前の取り乱した様子と比べればだいぶ落ち着いてはいるようだ。それにしても、ぼっち気質の小島さんがまさか入学してすぐ誰かと一緒に歩く姿を見られるとは、この海のリハクの目をもってしても予想できなんだ。
「……ありがと」
「ほ?」
「心配してくれて……ありがと。雄太」
「あ、ああ、まあ……」
しかし、素直にそう言われてちょっと面食らう。
なんだこれ。しおらしすぎ。
「……本当に、迷惑ばかりかけて、ごめんね」
そんなしおらしい、というからしくない様子の小島さんは、それだけ言ってからやや早足で俺から離れていった。
「あ、ああ、待ってよ亜希! じゃあ、またね、雄太くん」
「お、おう……股な」
慌てて後を追う暮林さんである。
おおっと、下の名前呼びですかい。というかそこまで仲良くなったんだな、一つ屋根の下の効力なめてたわ。まさか舐めあって仲良くなったとかか?
…………
いや、まあ、二人ともビッチッチだから、同性同士では満足できねえよね、たぶん。
純粋な友情ってことで。
…………
同性同士と言えば。
KYOKOさんの件、いちおう暮林さんやオカン様に対して、話を通しとかなきゃなあ。
この際、馬鹿正直に『春祭の時にKYOKOさんが来て、暮林さんと話をしたがってるから、時間作ってくんない?』って言った方がうまくいくかもしれん。回りくどいことしても全部バレそうだし。
隠すのは『俺が合コンに参加する権利を得るため』っていう理由のみでいいだろ。
そこで、ちょっとだけ考えこんで足を止めていた俺の胸ポケットが揺れる。
アンジェからのメッセージか?
『お兄ちゃん、春祭もうすぐだね! 愉しみ!』
たのしみ、の漢字に違和感。
まあ誤字だろうな、と思って俺は『そうだな。待ってるぞ』と返す。
即レスが来た。
『予定通り、その時はアンジェ、安全日だからね!!』
はいはい既読スルー。
今はアパートの隣にジョーンズさんもいるんだぞ、何考えてやがるんだあの妹は。
それにしても女ってのは性に目覚めたらリビドーを抑え込めないんかねえ。
周りを見てるとそう思う。
……そういう道を歩んだなれの果てが小島さんや暮林さんだとアンジェに教え込まないと、いつかとんでもないことになりそうだ。
ちょうどいいから、春祭でアンジェの反面教師になってもらおうかな、あの二人に。
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