越後屋、おまえも悪よのぉ
「小島さんの義兄、とんでもないクズだよなあ」
『……』
「因果応報くらい、あってもいいよなあ」
『……』
「そう思わない? 小島さんは」
というわけでわざとらしくネタ振り。誘い受けって難しい。
当然のように小島さんは返事をしない。
ま、別に同意が必要なわけじゃないんだけどね。
だから、俺が好き勝手しゃべっていいよな。
「いやね、小島さんの義兄、詳しくは言えねえけどあちこちそちこちで悪さしてるみたいだよねえ。いつか天罰くだりそうな気もするんだけどね、俺の予想では」
「……天罰、くだれば、いいのに……」
おっとぉ。
はい、言質いただきました。
「天罰くだったら、小島さんの家庭も壊れちゃうかもしれないよ?」
「……もう壊れてるよ」
「あっそ」
まあそりゃそうか。逃げ出したくて仕方ないんだもんな。
「じゃあまあ、それなら天罰が下ってもいいのかな。小島さんは、少なくとも今より酷い状況にはならなさそうだし」
「……」
無言は肯定の意味だよね、これ。
とりあえず、それだけ確認出来ればいいや。
「……なら、『何とかしてやる』とは言えないけど、何とかなるかもしれない。だから今日はもう休めばいいさ。少なくとも暮林家にいるうちは身の安全は保障されてるも同然だし、まだ義兄襲来までには時間あるだろうし」
そんな俺の言葉なんかで安心できないとは思うけど、別に安心させようと思って言ってるわけじゃないからそのあたりはどうでもいい。
それから美沙さんに代わってもらって、いろいろお願いして通話終了と相成った。
美沙さんが言うには、俺と通話して小島さんもお
……言っとくけど誤字じゃないぞ。
さて、次は当事者へと……連絡だ。
―・―・―・―・―・―・―
「雄太ー、隣に引っ越してきたジョーンズデース! これ引っ越しそば、どーぞ食ってチョーダイ」
「早っ!!」
「兵は神速を貴ぶ、ってやつだよ雄太」
「ジョーンズさんが
あれから。
ジョーンズさんにあずささんの間男の存在を知らせていろいろ話していたら、なぜか三日後にさっそく、ジョーンズさんが今空いている俺のアパートの隣の部屋に引っ越してくることになった。
何を言ってるかわからねーと思うが、案ずることはない、ただの急展開ってだけである。
「いいんだよ。ただでさえ前準備に時間がかかるんだから、とりあえず情報共有だけはすぐできる状況に身を置かないとな。しかし、そのクサレチソポの間男の義妹が雄太の知り合いっていうのは、世間の狭さを感じるな」
「んー……まあ、どちらかというとご都合主義……ま、それはいっか。でも軽く説明した通り、割とひどい目に遭ってるみたいだし、家庭崩壊しても構わないって言質はとってあるから、とことん追い込んじゃおうよ」
俺の提案に、ジョーンズさんはサムズアップを返してくる。
「あたりまえだ! そのくらいサレ男の当然の権利だろ? 受けた屈辱はきっちり倍返ししてこそ真の男だ」
「倍返しなんてちゃちいこと言わないで、再起不能になるまで追い込んじゃおうぜ」
「……越後屋、おまえも悪よのぉ」
「いえいえ御代官様にはかないませんって、ほっほっほ」
「ははははは!!」
ノリのいいジョーンズさん相手なら三文芝居も成り立つ。
ま、あとは──
「あずささんにも、協力してもらわないとならないね」
「ああ、まあそれは大丈夫だろう。少し制裁を緩めてやるといえば、おそらく食いついてくるはずだ」
「……そっかー」
どこまで追い込まれていたのか、俺は表面的にしか知らないが。
元の夫がそういうなら、たぶん間違いはないんだろう。
「……ま、会った時あずささんも真剣に後悔の念を吐露してきたし、そうかもね」
なので、深く考えずついしんみりと、俺はそう漏らしてしまうのだが、失敗だった。
「……」
「あ、ごめん」
俺の余計な一言を耳にして、ジョーンズさんはいきなり身をこわばらせる。
つい反射で謝る俺。
「特に意味はないんだ。ごめん、余計なこと言って」
「……いや、いいんだ。そりゃ、あれだけ追い込まれたら、『ようやく』だとしても普通は後悔するだろう」
「……」
「最初から慈悲を見せずにとことんまであずさを追い込んでおけば、よかったのかもしれないけどな……」
「……」
もう浮気発覚から三年以上もたつというのに、子宮口よりちょっとだけ深く突っ込んだらいまだにジョーンズさんが割り切れない気持ちを見せる事件である。こんな感じで調子の狂った叔父の様子は滅多に俺の前に出さないわけで。
なんせ今まではたいてい笑い話にしていたからな。
冗談で済まされない、複雑な思いってのは、こういうことなのか。
「今さら……もう遅いんだよ。あずさのクソビッチが」
だからこそ、復讐は必要なんだ。
少なくとも、今のジョーンズさんには。
──さて、春祭まで、時間はあるようでないぞ。予習復讐をいろいろ頑張らねば。
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