渡る石鹸はビッチばかり

 というわけで、俺はジョーンズさんに電話した。

 ちなみにジョーンズさんはまだ、俺たちの実家があるF市と少し離れたK市に住んでいる。同じ県内で、家から家へ行こうと思えばすぐ行き来できる距離ではあるが。

 もうすぐこっちに引っ越してくるからまた近くに住むことになるという。


『はい、こちらデリヘル『床ジョーンズ』です。当店のご指名ありがとうございます!』


「詐欺電話殺しやめて。忙しいの?」


『冗談だ。特に急を要する何かはない。どうした雄太、とつぜん電話してきて』


 ジョーンズは訝しんだ。

 まあ、忙しいだろうし、とっとと用件を切り出そう。


「あのさ、あずささんのことだけど……訊いてもいい?」


『おう、あいつに『さん』とかつけなくて別にいいぞ。というかいきなりなんだ』


 ちょっとだけ気を遣ったが、ジョーンズさんはそれなりに割り切れてる様子。

 産まれてきた子が自分に髪の毛一本ほども似てなかった、と知ったときは本当にヤバかったけどな。そのとき湧きあがってきた感情を恨みに全振りしてあずささんを追い込んだからこそ、かもしれない。

 それなら話すのも少しだけ気楽になる。


「あずささんが浮気してた相手って、その後判明したの?」


『いや、まだだ。残された証拠らしきものはあのハメ撮りだけで、それすらも顔が写ってないからな。あずさに教えてた名前や住所、通っている大学も全てうそだったし、手掛かりらしきものはいまだに……』


 おっと。やっぱりそうか。佳世っている大学まで嘘つかれちゃそりゃ特定は難しいよね。


 ……誤字った。コイビト・スワップじゃねえからなこの話。大雑把な意味では間違っていないけど。


「もしさ、いま浮気相手が判明したら、間男に慰謝料って請求できるもんなの?」


『ん? あ、ああ、浮気の時効は三年と言われてるが、相手の素性が知らなかったわけだからな。多分可能だと思う。それに離婚する際いろいろ揉めたし、正式に離婚してからはまだ三年経ってないぞ。しかしなぜそんなことを?』


 予想通り! よっしゃ!

 まあまだ確定ではない。Dカップを揉むがごとく、ちょっとやんわりといこう。


「……俺の知ってるやつで、あずささんの浮気相手に似ている人間がいたのよ。だから確認してもらいたいんだけど、その浮気相手の顔を知ってる人ってあずささんくらいしかいないの?」


『なんだと……そうだな、たぶんあずさしか詳しくは知らない。だがあずさもあずさで探したみたいだが見つけられなかったらしいから、まさか雄太の知ってる人間がそうだとは思えないが……』


 うーむ。

 そうなるとあずささんにさっきの写真を見せて確認しないとならないわけか。


「つーか、あずささんって息してるの? 逃亡しようとして慰謝料払い膨れ上がっちゃったんでしょ?」


『おお、一応生きてはいるようだぞ。実はな、そっちに行くことになった理由の一つに、あずさがちゃんと慰謝料を払うよう監視するため、ってのもあるんだ』


「……は?」


『田舎の石鹸ランドでは知り合いに会ってしまう可能性もあるうえに、年齢も年齢で客が少なすぎて思うように稼げないみたいでな。稼ぐために上京してるんだよ』


 マジかー!!

 じゃああずささんに会おうと思えば会える、ってこと?

 これは詳しく聞かねばなるまい。


「え、じゃ、どこに住んでるかわかる?」


『そこまでは詳しくは知らないな。なんせ一家総出で引っ越してしまったようだし』


「ああ……そうだった、あずささんのご両親が住んでた家って、ジョーンズさんが建ててあげたんだっけ……そりゃ住めんわなあ。じゃどうやって探せば」


『勤務先ならわかるぞ。大衆ソープ、【ようじょの母親】ってとこだ。妊娠船橋にんしんふなばし駅近くにあるらしい』


 なんちゅうネーミングだ。

 もし母親がこんなところに勤めてると知ったら、子供はきっと泣いちゃうな。


 ま、泣くだけならいいけど、もし女の子だった場合、母と同じ道程を進んだとしたら将来の彼氏がかわいそう。ジ・エンダァァァァ……


 ……いや、膜があろうがなかろうが、ひみつのアソコちゃんレベルの女子などどうせ瞬殺なのが世の常。


 と、それは今はいい。大事なところはそこじゃなくて。


「あのー、勤務先が分かったからといってどうやって会えというの。まさか客としていくわけにいかないでしょ」


『ああ、もしそうなら受付ででも『ジョーンズの代理で、木村あずさに言伝ことづてするよう頼まれた』と言えば大丈夫だと思う。いちおうそこのオーナーに話はついてるからな』


「木村……?」


『あずさの今の名字だ。旧姓に戻ったんだよ』


「……」


 なんだろう。偶然の一致ってこわい。世の中にはたくさん木村さんがいるはずなのに、たった二人のせいで俺の脳内に風評被害が生まれそうだ。全国の木村さんごめんなさい。


 しかし、あずささんの所在がわかったはいいが、果たして俺はどうするべきか。


 …………


 って、決まってるわな。

 あの不感症女のことはついでとしても、ジョーンズさんが慰謝料請求できる相手を増やすことは有意義に違いない。


 腹くくって、会ってみるしかない。いってみよう、夢あふれる石鹼の国へ。


 …………


 石鹸の国だけに、出てくる嬢ガチャはたとえお歳を召されていてもSRソープレア以上は確定なんだろうか。事後ガチャにSR性病レアだけは怖すぎるとしても。


 …………


「って、やらんわ!!」


『どうした雄太、突然リビドーあふれる叫び声をあげて』


 あずささん美人なんだよ。

 なんだけど、たとえ金があったとしても、ジョーンズさんはもろちんのこと、最悪の場合まりもっこり男とも一緒にま○こ三兄弟とかマジ勘弁。

 しかも醤油ダレどころか潮ダレかかってるとか。ぜったいにまずいわ。


 掛詞。




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