どこにでも種をまくタンポポ男

『この前、ナンパされたって言ったじゃない。その時と同じ大学生の男ー! もうしつこくてしつこくて逃げてきたけど……』


「逃げたけどなんだ!? まさか捕まって草むらに連れ込まれて……」


『お兄ちゃん以外にそんなことされたら、アンジェ舌噛んで死ぬよ』


「いやそこはむしろ俺にされても死ぬ、ってのが正しいんじゃないのか?」


 なんだかアンジェのおませさん度が最近アガってきた! 気がする。なんでだ。道中でNTRネトラレアどもを追い抜いたからなのか。


『だいいち、お兄ちゃんはそんなことしないもん。でね、『この近所で最近かわいい子をナンパしまくってる要注意人物がいる』ってお姉ちゃんから教えてもらったことをみんなに注意してたクラスメイトがいてね。注意喚起のために出回ってた写真を見せてもらったら、同一人物だった』


「あうち。アウトよりのアウトだな、大学生が中学生をナンパするとは世も末」


『節操ないよね! ナンパでひっかかるならアンジェじゃなくてもいいとか、断固お断りだよ!』


 ヘタすりゃ警察沙汰になってもおかしくないってのにようやるわ。

 しかしそのアンジェの言い方もひっかかる。じゃあアンジェだけを狙い撃ちしたナンパならば断固お断りじゃないのだろうか。


 ……まあいい。アンジェもそこまで馬鹿じゃないとは思いたい。


「しかしさすがだな、そんな情報まで共有されるセキュリティの高さは。さすがエスカレーター私立中学だ」


『そのあたりは早いよ。なんかBBSとか意識してるくせに似合ってなくてキモかったしー、おまけに大きなほくろがあって目立つから、みんなから『キモほくろマン』って呼ばれてた』


「陰であだ名までつけられてるのか、気の毒に……ん? ほくろ?」


『うん、左耳の下に結構大きいほくろが』


「……」


 ちょっと待て。

 どこかで最近、そのほくろに関する何かを見たような気がする。


 ……確か、ジョーンズさんの持ってた羽目鳥写真での、相手の男だったか。


 ああ、あの写真アンジェに見せてなかったからな。ピンとこなかったんだろう。

 ひょっとすると、ジョーンズさんの元嫁が浮気した相手って、そのほくろ野郎だったりして。ははは。


 …………


 さすがにそんなご都合主義ないよな。

 だがちょっと気になる。


「アンジェ、そのほくろ男の写真持ってるか? ちょっと見てみたい」


『え? あ、うん。要注意人物リストで流れてきてるから、あるけど……なんで? アンジェがナンパされて怒るのはわかるけどだめだよ、殺したりしちゃったら』


「いやいくらなんでも殺したりはしない。ひょっとすると俺の知ってるやつかもな、なんて思ったからさ。念のため」


『そこは殺しても飽き足りない、くらい言ってよ!!』


「お、おう……まあとにかく送ってくれ」


 突然怒鳴られて面食らった。アンジェのやつまだ情緒不安定か。ホルモンバランスのせいだろう。気にしない俺は兄の鑑。


 というわけでいったん通話を切ってアンジェからのメッセージ待ち。


 ……お、届いた届いた。どれどれ、どんなやつだ……


 …………


 ……


 これ、小島さんの義理の兄貴だよ!!

 間違いない、俺も数回しか見たことねえけど、このまりもっこりのような目をしたやつがそうそういるわけねえじゃん!! 


 こんなんでも髪型とかビシッとキメれば、わりとみられるようになるのが不思議だ。イケメン入門はまず髪型から、ってか。ま、たしかあの義兄、タッパもわりとあったし、ごまかされる女子も一定数でいそう。

 俺がナンパしたところで誰もごまかされることなんてなさそうだというのに、この世はNTRなんて理不尽なんだ。直でマントルの熱さを教え込んでやりてえ。


 あ、ちなみにマントルって聞いて卑猥な妄想すると歳がバレるから気をつけろ。


 しかし急展開。

 これは、ジョーンズさんにいろいろ伝えなければなるまいよ。証拠らしきものが顔のうつってない羽目鳥だけじゃ薄いかもしれねえけど。


 俺がいろいろ策略を脳内で巡らせていると、アンジェから追加メッセージが届いた。


『知ってる人だった?』


 おう、ヤバいくらい知ってるわ。これはアンジェにも伝え……いや、ちょっと待て俺。ここは冷静になってメッセージを返そう。


「まだよくわからないが、ひょっとすると今後大騒ぎになるかもしれない。その時はアンジェも協力してくれるか?」


『いったい何があったの……?』


 アンジェは訝しんだ。ま、そりゃそうだわな。

 しゃーないのであたりさわりなく説明だけしとこう。当てたりさわったりしたらそれはもう痴漢だからな。実の妹に痴漢はできん。おしりペンペンは兄妹のスキンシップなので除外対象とする。


「ナンパだけじゃすまない可能性が出てきた、ってこと。まあ、はっきりしたら伝えるから、ナンパ男排除の方針が決まったらよろしく頼む」


『ま、まさか犯罪者なの……?』


「当たらずとも遠からずというか」


『……わかった。ナンパ男が消えるのならアンジェも安心できるし、できることは協力するから』


「ああ。まあ、純潔だけは奪われないように気をつけてくれ」


『もちろんだよ! 誰かに奪われるくらいなら、お兄ちゃんがいっそ……』


 はいはいここから先は既読スルー。ありがとなアンジェ。


 しかし、これは思わぬ展開になってきた。たしか、ジョーンズさん、所在が分からなくて間男相手に慰謝料請求はしてねえんだよな。


 ……ここに小島さんの件も絡んでくると、ごちゃごちゃになって楽しい未来が見えてくるかもしれん。


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