勝手にせえや……と言いたいんだよ、本当は
まあ、ビッチはビッチなりに苦しんでいることはわかった。だからと言って俺にしてきたことをすべて許すなんてことは出来んが。
結局、名ばかりの家族、という関わりたくないものに常に追われてるような感覚は、きっとひとりでは消せないのだろう。
ひょっとして、そんなのに追われてるっていうことがトラウマだから、あれほどまでにおまわりさんを恐れていたのかもな、なんて。
まあいい。
問題は、迷惑をかけないとか言っておきながら、今現在こういう願い事を要求してくる時点でいやおうなしに俺に迷惑が掛かってるってことだ。
さすがに
…………
なんだろうな。
いろいろとマヒしてるような感覚があって、違和感バリバリだ。迷惑をかけられてるというのに、責めるような気になれない。
俺の怒りが薄れているのか、それともいろいろと後悔し自分を責めて必要以上に憔悴している
……たぶんどっちもだとおぼろげながら思う。
うん、確かに俺は暮林さんにも小島さんにもすごく傷つけられたけど。
今の俺が、この二人よりも幸せな状況に置かれていることもまた確かで。
同情というよりは──勝者の余裕、と言った方が正しいかもしれない。
ここにはいない義兄の影に追われ、おそらく自分が許されてないだろうと知りつつも、俺に頼らざるを得ない小島さんの
…………
ここでヤケのヤンパチになって、俺を殺して自分も死ぬとか、
まだ現世でやり残したことがあるのに、異世界に転生とか勘弁してほしいし、心中せざるを得ないならせめて相手は選びたいし、ダメ押しとしてかっこいい遺影も残してない。
死ぬのにも最低限の準備が必要なんだよ。
「……泊めてもいいが、条件がある」
「な、なにかな? 今晩泊めてくれるなら、ひとりにしないでくれるなら何でもするから。アタシみたいな不感症女を抱いても面白くないかもしれないけど、雄太にされるなら奥まで激しく突かれても構わないし、なんだったらお口でも……」
「不感症であるなしにかかわらず奥地もお口も断固お断りだ。簡単な条件だよ、寝ている間に俺を殺して自分も死ぬとか、心中ムーブをかまさないこと。それだけ」
「……」
およ、なんでそこで黙る。
まさか本当に心中とか考えていやがったのか。追い出すぞコラ。
「なんで何も言わない。まさか本当に……」
「……雄太は……お見通し、なんだね」
「は? やっぱりそうか!! ふざけんなよ!?」
大迷惑だぞこのビッチ!! 同情したのが間違いだったわ。らしくもなく仏心出してもろくな目に遭わない。
「……ごめん」
「謝って済む問題か!! いいか、自分だけじゃ飽き足らず、他人である俺まで巻き添えに……」
「……そうだよね。雄太は、『死ぬときは俺にひとこと言ってからにしろ』って言ってくれたのに……明日になったら、今日の雄太の優しさを胸に抱いて誰も知らないところで死のうかな、なんて考えてちゃ……いけないよね」
「……ん?」
なんか会話に齟齬があるような。どゆこと?
「雄太は、死ぬなんて最悪な選択をせずに済む未来を探せ、とも言ってくれたけど……何もかもが最悪で、死ぬことでしか楽になれない未来しか浮かばなくて。それでも何とかあがいてみようとしたけど、やっぱりどうにもなりそうになくて。せめて、唯一あたしを気遣ってくれた雄太の一番そばにいて、この世の未練をなくしてから死のうかな、なんて考えてたの」
「おい……」
ちょっとだけ理解した。そこまで追い詰められてたなんてこれっぽっちも気づいてなかったわ。すまんな。
だが俺は空気を読める男、特に言葉は挟まない。挟むのは巨乳のねーちゃんだと相場は決まってるので。小島さんは残念ながらちょっと足りないな。
「ごめんね、ごめんねえ……雄太のやさしさ、踏みにじるようなこと考えて、ごめんねえぇぇぇぇ……」
いや、遺書に俺のことを書かなければまだいいんだよ? 書く気満々じゃないの? 今の心境吐露を聞く限り。
「だけど、どうすればいいの……? あたし、もう逃げられないの……?」
どこかに家庭の事情を暴露するくらいしかできねえだろう。とはいっても、それでどうにかなるなら以前自殺したときにうまくいってるはずだ。やるだけ無駄か。
「やだよ、もうやだよ……こんなあたしを好きになってくれる人を、また傷つけるような人生……送りたくないよ……」
俺は特に、今現在好きって感情をもってないけどな。
というか、小島さんと義兄の始まりはどうだったんだろう。快楽堕ちしてたあたり、無理やりレイプというわけではなさそうだが。ほのぼのレイプ、くらいだったのか?
「ねえ、たすけて……たすけて、おねがい、雄太ぁぁ……」
…………
ああこの野郎! 必死で冷静さを保ってたというのに。
恨みつらみはいったん置いといて、ここでこの哀れな不感症女を見捨てたら、アンジェが他人に自慢できるような『俺』じゃなくなっちまうじゃねえか!
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