クイズ・ネトラレア
「ん? キミは……確かこの前」
「覚えてたんか」
「そらそうだ。あんな悲惨な体験を自虐ネタの如く笑い話にするようなイカれた男を忘れられるわけないだろう」
「新聞の勧誘員みたいなまねをするおさわりまんもたいがいだと思うんですが」
「……五十歩百歩だな」
駆け付け三杯、ならぬ三人での駆け付け漫才。
小島さんの腕をつかんでいた酔っぱらいのオジサンは、俺の声と間髪を入れずにやってきたおさわりまん二人にビビって酔いが醒めたのか、小島さんの手を放しそそくさと人波の中に消えていった。
そして小島さんは。
「た、逮捕しないで……」
おさわりまんの姿を見て、今まで以上のビビり具合を披露。
だーかーらー、そんなに悪いことしてたのかって。
「ま、金銭授受してなければ自由交際の範囲だろ、合意の上ならな。逮捕される要素がどっかにあるんか」
声だけではわからなかったのか、そう言って俺がしゃしゃり出たとき、小島さんがようやく俺の存在に気づいた。
「雄太……なんでここに」
小島さんはバツが悪そうな顔をして、俺にそう言ってくる。
気遣いなど無用。
「それはこっちのセリフだわ。なんで即日体験入店、レバニラッ! の仕事探してるんだよ、不感症のくせに」
「……」
「お、なんだ痴話ゲンカか?」
「空耳もたいがいですね」
今すぐ稼げるアルバイトの募集に反応するくらい追い詰められているのだろうか、小島さんは。もちろん資金的な意味で。
おさわりまんに対しては、いちおう助けてもらった感謝の気持ちくらいはあるので、横槍に深くツッコまないようにしておく。ツッコんだところで不感症だったらやだしな。
ま、小島さんのほうの事情は割と深刻なようで。
「……もう家には帰りたくない、って家族に伝えた。いろいろ揉めた。そしてもう帰ってこないなら一切援助はしない、って言われた」
おちゃらけ要素など皆無なまま、そう漏らす。
「奨学金とか、いろいろ方法もあるんじゃね?」
「……割と切羽詰まってるってのに?」
「……」
こちらは食費を捻出する俺よりも深刻な話のようである。
ま、そこまでして爛れた環境から抜け出したい、ってとこだけは百歩くらい譲ってもいいか。
駄菓子菓子。
「そういう仕事は、不感症のほうをまず何とかしないと務まらんと思うぞ」
「……べつに、接客だけなら関係なくない?」
「おさわりとか、性的なことが無関係だと思ってるの? んなわきゃないでしょ」
「……じゃあ、どうすればいいっていうのよ……」
そこで悔しそうに、小島さんは涙を浮かべた。
この女なりにもがいているさまはわかれども、俺にできることなんてたかが知れてるし、無責任にうかつなことは言えねえわな。
「お嬢ちゃん、なにか訳アリみたいだねえ。いっそのこと、一回けーさつに保護されちゃってみるー?」
「……は?」
「いろいろ面倒な手続きはあるけどー、どうにもならなそうなことが意外とうまくいく、程度にはなるかもよ?」
俺たちの会話をきいていたおさわりまんが軽そうにそう言ってきたのにはびっくりした。
けーさつだからってできることは限られるだろうけど、いちおう善意なんだろうな。このおさわりまんを見直したわ。今度からちゃんとおまわりさんって心の中で言ってあげよう。
だが肝心の小島さんは。
「た、逮捕するの……?」
だめだこりゃ。家族不信だけじゃなくけーさつ不審にまで陥っている。
―・―・―・―・―・―・―
で、いちおうおまわりさんたちは去っていった。
必要ないとは思ったけど、名刺を渡された。何かの役に立つことはあるのだろうか、わからん。
そして小島さんのほうは。
このまま夜の街に消えていった挙句にシャブ漬けとかしゃぶられ漬けとかノーパンしゃぶしゃぶ漬けとかになられて、噂が立った挙句にうちの大学学部が変な有名税を払う羽目になってしまっては困るので、いちおう保護した。
やだろ、ノーパンしゃぶしゃぶ学部とか言われるの。まるで大学内乱交があったかのように誤解されちまうもん。
…………
そういや、卓也のやつ元気かな。今度連絡入れてみよう。
ふと、以前同じ空手道場に通っていた男の名前を思い出しつつ、説教開始。
「……だいいち、右も左もわからない世界でぼっち気質の小島さんが上手くやっていけると思ってんの?」
「で、でも……手っ取り早く稼ぐには、そうするしか……ないでしょ。なんなら個室サービスの……」
「そっちの考えの方が甘いわ!! 俺の元・知り合いで泡堕ちしたアワレだかアラワレだかしらん女の人がいたけど、心病みながら光すらない明日のために働いてるぞ。死んだ目をしながらな。不感症のくせにそんなことも想像できないのか」
「……」
ま、誰のことかって言えば、ジョーンズさんの元・奥さんだけどな。あの浮気してガバガバな托卵計画を立ててた人。
かなりえげつなく追い詰められて、いろいろ慰謝料を払うために泡堕ちしたけど、まだ生きてんのかな。
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