金と性欲は紙一重
いろいろあった後に用事を済ませ、わが城のワンルームへ帰宅すると、すでに日が暮れる時間になっていた。
帰宅してすぐに、ジョーンズさんより『今から向かう』と連絡が入る。
アンジェを引き取りに来るのであろう。
「今からくるってさ、ジョーンズさん」
「……ん」
アンジェが寂しそうな声で返事をするが、どうせまた春祭の時に来る気満々なんだろ。兄妹の縁が切れるわけじゃなし。
あと、そろそろ俺の腕放さねえか?
…………
……
「雄太ー、アンジェー。お待たせ! この世はすべてがハッピートーク!!」
「お疲れ様ジョーンズさん。仕事は全部終わったの?」
ジョーンズさんはいつもハイテンションなのだが、今日はまた輪をかけて上機嫌である。
「ミセス・クレバヤシがありとあらゆる手配をしてくれて、ワイのすることがほとんどなかったでござるよー! はっはっは」
「……あ、そう。よかったね」
「おお! これもすべて雄太の人脈のおかげだ! ベステンダンク!」
「いつものことだけど、ジョーンズさんって
ちなみにウチのオカンもジョーンズさんも父母はアメリカ出身だが、エルサルバドル経由からの移民である。ふたりとも日本に来てから生まれたから日本語ペラペラだけどさ。
「はっはっは! ワイは江戸の生まれよ! まごうことなき江戸っ子だ!」
「寿司が大好き、ってところは認めるけどさ。宵越しの金すらも持たないってのはちょっと」
「明日死ぬかもしれないのだから今日を全力で生きるんだよ。まあそれはそれとして、雄太、もし雄太が良ければなんだが。会社が立ち上がったらバイトしないか?」
「へっ? 何の仕事?」
いきなり真面目に切り替わったジョーンズさんに呆れつつも、俺ってばジョーンズさんが何の会社を立ち上げるのかすら知らないままだったな、と改めて思った。
「具体的な言及はまだ秘密だが、いわゆるパブリックリレーションに関する事務所なんだ。やってもらうことは雑用だが、時給は弾むぞ」
「……すこし考えさせてもらっていい? とりあえず大学生活に慣れることから始めたいんで」
「おお、わかった。雄太ならいつでも大歓迎だからな」
ふむ。バイトは確かに今後の生活の上で考えなければならない要素ではある。ジョーンズさんのところなら安心もできるし。
少なくとも、処女苑の焼肉一発で膜が破れるかのように生活が破綻することは、今後避けたいもんな。
―・―・―・―・―・―・―
そうしてアンジェとジョーンズさんは帰っていった。俺は一応駅までお見送り。
アンジェはやはり『帰りたくない』とだだをこね始めたが、どうせまた春祭に来るんだろ、となだめすかして帰らせた。
ひとりさみしく過ごしてるオカンのことも少しは考えてやれよ。
ま、それはそれでいい。さて、帰宅すっかな……
…………
……夜のせいか、やはり駅前ってのはそれなりに怪しい雰囲気である。
あ、こんなところに風俗街が。
やばいやばい、こんなところに用はない……
……はずなのに、ああ、ついつい好奇心でふらふらと……
―・―・―・―・―・―・―
というわけで、少しだけ大人の階段をのぼるつもりで、ついつい風俗街に足を踏み挿れてしまった。
そうそうこれは間違いの誤挿入。全裸で男女が風呂に入ってて、石鹸ですってんころりんしたはずみで結合しちゃうような事故だ事故。自己の意思などは存在しない。
おまけに当然ではあるが、ついでに体験入店するような金などナッシング。
なんとか呼び込みを避けつつ、どのような店があるのかいろいろと見て回るだけ。
こんなご時世だけど、やっぱり人の欲望というのは抑えきれないもので。
金と性欲が入り乱れるこの場所はそれなりに賑わいを見せている。
いつか、ジョーンズさんのところでバイトして金に余裕ができたら、こういう店にも来てみたいものだ。もちろん社会経験としての意味で。
「ま、その前にDT捨てなきゃならんけどな。素人童貞を守る生活だけは勘弁した……」
なんて独り言を言いつつ歩いていると。
「……時給、五千円……うそでしょ……丸一日働いたら、それだけで十二万五千円……」
とあるお店前で、どこかで見たような後ろ姿を発見してしまった。
いや、つぶやく声もまさしくどこかのスマタバックスで聞いたような声なんだが。
やや遠目からそっと様子をうかがうと、どうやら小島さんをその場に引き留めているのは、お店前に貼られている、『フロアレディ募集』という求人の内容のせいらしい。
しかもなぜか一日二十五時間計算になっている。あまりの時給の高さに気がふれたか。
きっとお金に困ってるんやね。そういや『家にはもう帰りたくない』みたいなこと言ってたから、経済的な自立のために、だろうか。
ま、俺に直接的な関係はないし、ここはスルーすべきだよな。うん俺は何も見なかった、不感症の十代女子などいない。ではさような……
「ようねえちゃん暇なのか? 暇ならオジさんと遊ばんか?」
「……! ちょっと、手をはなしてよ……」
「いいじゃないか、なんや見たところ金に困ってるような顔だなあ? 援助したるぞ?」
「や、やめて! やめてったら!!」
あらー。なんか小島さんが酔っぱらいに絡まれちゃったじゃないですか。
ま、夜に女一人でこんな場所にいたら、腕をつかまれるくらいはよくあるよね。
……はぁ。
しゃーない、助け舟くらいは出しますかね。叫ぶだけならタダだし。
「たすけて、おさわりまーん! ここで酔っぱらいがビッチ女子に絡んでるの!!」
「……呼んだ?」
「本当に出てきやがった!? マジか!?」
おいおい。シャレで呼んだら、本当にあの時のファンキーポリスが出てくるとは思いもしなかったぞ。しかも二人そろって。
……仲いいのかこの二人?
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