ようじょにモテるのは自慢していい
しっかりしろ俺。
こんな状況になったとき、以前にもあるはずだ。
いじめられてたアンジェが落ち込んで同じようなセリフを言ったじゃないか。
『みんな、アンジェのこと、きらいなのかな……』
そうだ、その時俺はなんて言った──
「──だいじょうぶだ! おにいちゃんは、ゆきちゃんのことが大好きだぞ!!」
俺はそう言って、ゆきちゃんを抱きかかえる。
「それにな……」
そのまま一回転し、ばーばさんの隣におろして。
「……ばーばだって、ゆきちゃんのことが大好きだぞ!」
目線を合わせるようにしゃがみ込み、ゆきちゃんといっしょにばーばを見上げた。
しばらく呆けていたゆきちゃんは、ばーばを見上げていた視線を隣にいる俺のほうへ移し。
「……うん! ゆきも、おにいたんとばーば、だいすき!!」
ようじょらしい天真爛漫な笑顔を見せてくれた。
そうそう、これでいい。子供のころから、あんな悲しそうな顔をする必要はない。
誰からも愛されないなんて、そんなわけないんだから。
な、アンジェ。
という感じでアンジェのほうを見ると──なぜか、アンジェは複雑そうな顔をしていた。
―・―・―・―・―・―・―
「じゃあ、俺たちはそろそろ。ゆきちゃん、また遊ぼうね」
「うん! おにいたんもおねーたんも、またね!!」
あれから、ゆきちゃんの機嫌を取るべく、いろいろ振り回された。が、それはそれでかまわん。子供の笑顔に勝る癒しなどない。
前と同じように、ゆきちゃんはばーばにつながれた手と逆のほうを、俺に向けぶんぶんと振り回してバイバイしている。
そのわきで深々と頭を下げているばーば……いや、久美さんの心境はいかなるものか。
何か深い事情があるのだろうとは推測余裕だが、だからといってそんなところまでうかつに踏み込むわけにもいかない。結果としてそれは正解だったはず。
俺にできることなんて、たかが知れてるしな。
「……さ、時間もないし、行こうよお兄ちゃん」
「ん」
後ろ髪を引かれるかのように何度も何度も振り向きながら、俺たちは公園を後にする。ゆきちゃんは、見えなくなるまでただただ手を振ってくれていた。
「……ほんと、相変わらずだねお兄ちゃんは。ようじょに大人気」
アンジェの口調は、俺を褒めてるのかそれともけなしてるのか。正直分からん。
「いいじゃないか嫌われるより。ま、ようじょにしかモテないけどな」
──なんせ彼女ガチャが
そんな自虐を含んだ俺の言葉を、脇腹への肘うちでアンジェが否定する。
「何言ってるの。ようじょだって女の子じゃない」
「……ま、それはそうだが」
「むしろ、ようじょにモテない男がオトナの女にモテるわけない、って思わないの?」
「……」
「ようじょだからこそ、お兄ちゃんの本質を見抜いてるのかもしれないよ?」
その発想はなかった。じゃなんだ、俺は全力でようじょガチャを回すべきなのか?
「なるほど……今度から、泣いてるようじょを見たら全力で甘やかすことにしよう」
「それはいつか捕まりそうだからやめて」
「なんでだよ。もしかすると、十年後なんかに恩返しとかで『お嫁さんにしてください!』とか来るかもしれないだろうが」
もちろん冗談である。俺は光源氏のように気は長くない。ガラスの十代のうちにできれば彼女を作りたいし、願わくば1マンコーネン先にある性的なパラダイス銀河まで到達したい。
「ようじょは十年後でも未成年じゃないかな……」
そんな俺の思惑など理解せずに。
アンジェはネタにマジレスという一番やっちゃいけないことをしながら、俺の腕に絡みついてきた。
「どうした、いきなり」
「……十年後の恩返し、のつもり」
「なんだそりゃ」
妹に恩返しなんか求めちゃいねえよ、バーカ。
ま、これ以上妹ガチャ回すつもりもないしな。
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