ようじょにはようじょのじじょうがある
あ、ありのまま、起こったことを話すぜ。
アンジェのコスメを買いに行くはずが、なぜか近くの公園でようじょと遊ぶことになっていた。
なにを言ってるかわからないと思うが、大丈夫だ俺も分からん。
きゃっきゃうふふと楽しそうな声を上げるゆきちゃんがかわいくて癒されるから、俺は別に良いとしても。
「ごめんなさいね、肩車までしてもらっちゃって」
ゆきちゃんと一緒にいたばーばが申し訳なさそうにそう言ってきた……まあ、ゆきちゃんの祖母であることはもう明らか。
「あ、いいえ。こんなのお安い御用ですし」
とりあえずこれだけは断言できるが、自分になついてくれる子供は本当にかわいい。天使。アンジェの小さい頃を思い出すわ。
この気持ちは、断じてペドに片足突っ込んだ危ない人のそれではない。
「……ほんと、小さい女の子大好きだからほっとけないんだよね。相変わらずというかなんというか」
「おいアンジェ聞き捨てならないことを言うな。危ないお兄ちゃんみたいに聞こえるじゃないか」
悪態をつくようにアンジェはそう言うが、自分の小さいころを思い出したのか、ほほえましい目でゆきちゃんを見守っている。
「まあ、小さい女の子のことが大好きなんですね。ゆきも『おにいたん』のことが大好きみたいですし……」
「あのー、ばーばさん。知らない人が聞いたら誤解されちゃうのでその言い方はちょっと……」
ゆきちゃんの祖母もなぜかご機嫌である。天然かこの人。
「あ、ああごめんなさい。そうよね、お兄様はいっさいがっさいいかがわしい欲望をゆきに持たないでそれでも親切にしてくれる、とてもいい方です」
「……なんかそう言われるとそれはそれでうさん臭く感じるなあ……」
ま、なんにせよゆきちゃんが楽しそうならそれでよしなのだろう。お孫さん思いの祖母らしい。
「……ほんと、ゆきがこんなに笑ってくれるなんて久しぶり。この子、滅多に人になつかないのに」
「そうなんですか? 割と人懐っこいような感じもしますけど」
「あなたにだけは、ですね。本当に……いつもゆきが笑っていられたらいいんだけど……ねえ」
「……」
しかし、ばーばの口から、一抹の憂いを混ぜたような言い回しが出てくる。
なにやらゆきちゃんにも事情があるんだろう。そこはあえてスルーで。
…………
そういえば、この前もじーじとばーば、きょうはばーばと一緒だ。ゆきちゃんのご両親はどうしたんだろ。ひょっとして日曜も働いてる系かな。
そんな疑問を抱えつつゆきちゃんとしばし戯れていたが、ちょっと疲れたので、いったんゆきちゃんを肩車から降ろす。
「ありがとー、おにいたん! たのしかった!」
その後に出てきた言葉がこれだ。ふつうなら『もっとして!』って言ってくるだろう、このくらいの年齢の子供なら。それなのにきちんとお礼を言ってくるあたり、ほんとよくできた子。育て方がいい証拠だな。
「どういたしまして」
こどもに対してはきちんと礼儀正しく接しなければならん。そうしないと、ちゃんとした対応ってもんをおぼえないから。
大人の行動を見て子供ってのは大きくなるのだ。
「ゆきちゃん、次はおねえちゃんと遊ぼうか」
「……」
アンジェも黙ってみていられなかったのか、うずうずしながらそうゆきちゃんに話しかける。
だが、ゆきちゃんはしばしアンジェを見て固まった。
「……おねーたん、きれーい! がいじんなの?」
「ちがうよー。あのおにいちゃんの、妹なの」
「そうなの? おにんぎょうみたいできれい! ゆきも、おおきくなったらおねーたんみたいになれるかな?」
おおっと、アンジェが苦笑い。純真な子供には、たまにどう対応していいのかわからなくなる時もある。
──と、その時。
「……義理の妹さん、なんですか? てっきり彼女さんかと……」
ばーばさんが訝し気にそう訊いてきた。
ま、そらそうよね。髪の色がまるで違うし。
「半分ですけど、ちゃんと血のつながった妹ですよ。申し遅れましたが、俺は上村雄太、あっちは妹のアンジェリーナです」
「あら! そうなの、失礼しました。こちらこそ申し遅れましたが、私は
再会する可能性が低かった前回はまともに名前すら伝えなかったが、偶然が二度続けばこれは縁かもしれない。悪い人じゃなさそうだし、名前くらい伝えてもいいだろう。
木村さん、か。えーと……
……まあ、よくある名字だよな。
一方、ゆきちゃんとアンジェの攻防戦は続いている。
「ねーねー、おねーたんみたいになるには、どうすればいいの?」
さっきから繰り返し繰り返しそう尋ねてくるゆきちゃんにどう答えればいいのかわからなくなったアンジェは。
「ゆきちゃんのおかーさんに聞いてみると、わかると思うよ」
結局第三者に丸投げした。ありがちな、逃げのことばだ。
だが、その言葉で。
「……」
「……」
ゆきちゃんだけじゃなく、ばーば……久美さんも表情を曇らせてしまう。
そのあとにゆきちゃんが放った一言で、その理由が分かった。
「ママはね……ゆきのこと、きらいなの。だからおしえてくれないとおもう」
「……」
「……」
やべえ、まさかようじょの放つセリフで俺たちまで沈黙することになるとは思わなんだ玄界灘。だんだだん。
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