ひとりざまぁと呼ばないで

 あろうことか、こういう時に限ってNTRネトラレア二号近くの席しか空いてない。

 ま、視線が合ってしまったので、無視するのもアレだし、軽く社交辞令くらいはかわしとこう。


「こんちわ小島さん。奇遇だね、なに飲んでるの?」


「……ホットミルクセーキ」


「……」


「……」


 しまった、うかつに話しかけるんじゃなかった。小島さん相手じゃ話題がないと会話が弾まないことは過去の経験から知ってるはずなのに。

 第一印象では無愛想に思えた小島さんの話し方もなつかしい。


 小島さんお茶派だから、スマタバックスにいるってこと自体、珍しいっ茶珍しいんだけどね。ネトル茶とかネトラレ茶とかを飲んでるならまだわかるけど、しかしホットミルクセーキか。


 …………


 現在過去未来において、ホットミルクを出す性器はおっぱいかティムティムしかないってのは自明の理。

 しかし『おチ〇ポミルク』とか最初に言い出した奴は誰なのか。判明したらイグノーベル平和賞を送ってやりたいメモリアル。


 弾まない会話に見切りをつけ、しばしそんなどうでもよいことを思考していたら、アンジェが後ろから飲み物をもってやってきた。


「お兄ちゃん、まだ席取ってなかったの? どこでもいいから適当に……」


 俺の視線の先を追ったのだろうか。どうやら、アンジェも小島さんの存在に気づいた模様。

 両手に飲み物を持ったまま、じっと小島さんのほうを見る。


「……」

「……」


 あ、小島さんがアンジェから目をそらした。弱い。

 アンジェの目力が勝ったとでもいうべきなのだろうか。


「……お兄ちゃん、あそこの席空いてるよ。いこ」


「お、おい」


 アンジェはそう言って、小島さんを気にしないかのように、斜め向かいの席に陣取った。

 俺も仕方なくアンジェの後を追う。


 座席に着席し、フェラエチーノを前にしたアンジェはわりとごきげんだ。


「じゃあ、いただきまーす」


「はいはい召し上がれ」


 期待感マックスで嬉しそうにフェラエチーノを眺めるアンジェ、そのアンジェをチラチラ気にする小島さん。

 けっこう鬱陶しいが、まあ実害がないのでスルーしてアンジェと世間話するのがよかろ。


「昨日は楽しかったねー、お兄ちゃんは?」


「ああ、俺も楽しかったよ」


『……きのうはお楽しみでしたね……!?』


 ……とか思ってたのに、なんだろう、誰かのつぶやきが微かに聞こえてくる。


 というか、ぼっちのやつって、独り言をついつい口に出しちゃう癖があるやつ多いよな。誰も聞いちゃいないってのに。


「でも本当に感動したよー。回らない(寿司)なんてアンジェ初めてだった」


「あ、ああ、俺も久しぶりだったな。かなりお高いことは間違いないにせよ」


『回らない……のが、初めて……ひょっとすると、ベッドのことかな……え、でも、回るベッドなんて今どこにもないのに……なんてマニアックなの…… 』


 回らない、ときいてすぐさまベッドのことを連想するヤバいJDがおるよ。おまえはどこの昭和からタイムスリップしてきたんだ。まあまだ実害ないけど。


「……まあとにかく。もう洗わないのは勘弁してくれよ。また今度やったらお尻ペンペンじゃ済まさんぞ」


『お尻ペンペン!? スパンキング……なんて高度なプレイを……というか洗わない? 洗わないで舐めさせられたとか……?』


「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、恥ずかしいからわざわざ口に出さないでよ」


『口に出す!? 恥ずかしい!? きちんと飲み込むのかな……』


「ばっかやろ、吐き出さなかった自分をほめてやりたいぞ」


『あ……吐き出さなかったんだ……でも、自分? ま、まさかヨガを習得して自分で自分のを咥えて……なんて地球にやさしいエコな自慰行為なの……』


 おいコラ黙って聞いてりゃ勝手に勘違いしやがって大迷惑だよこんちくしょう! 独り言口に出してないで脳内で済ませろや!!


 ……と怒鳴りたかったけど、ここで突っ込んだら負けのような気がするので、黙った。


 一方、アンジェは特に何も聞こえていないのか、我関せずな状態である。


「うん、ごめんねお兄ちゃん。お詫びにまた今度、アンジェがおいしく食べられるものを作ってあげる」


「そう願う。もう食べることでアンジェに折檻せっかんするのは俺も避けたい」


「あはは。まあでも、お兄ちゃんだったら……何されても許せるんだけどね、アンジェのことを嫌わないでいてくれたら」


「……嫌うわけねえだろ」


「そっか……うん、そうだよね。うれしい……な」


 スペルマキアートの粘り気が増しそうなくらいに仲の良い兄妹の会話をしているうち、いきなりにゅっと小島さんが席を立った。

 前触れがなかったんでちょっとびっくりして反射的に小島さんの顔色を見ると、なぜだか知らんがちょっと青ざめている。


 どこか具合が悪くなったのかと慌てたが。


『……兄妹で折檻したあと、兄妹でセックスするのね……やっぱりわたしを食べて(はぁと)なのかな……これが、信頼関係で結ばれた兄妹の絆……それに比べて、あたしは……』


「何言ってんだこいつ」


 心配して損した。いつまで誤解してんだよ。


 そのままふらふらと小島さんが退店してったので、スマタバックス内での心の平和が返ってきましたとさ。




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カクヨムコンももう終わりですね。

たくさんのフォローや★、ありがとうございます。

連載は今後も続きますので今後ともよろしくお願いします。

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