なんて理不尽、略してNTR

 さて、寿司も堪能させてもらって、おなかは満足。

 ジョーンズさんはまた出て行った。まだいろいろめんどくさい会合があるらしい。


 狭いアパートが少しだけ広くなった。

 ま、とはいってもアンジェがいる分いつもより狭いんだけど。


「……やっと、兄妹水いらずだね」


「なんだかおばさん臭い言い方してるな、アンジェ。どうした?」


「……べっつにー」


 どのみちあとは風呂に入って寝るだけ。

 さすがに夜はこれから、とはならん。


「ま、いいからとっとと風呂に入ってこい、アンジェ」


「はーい」


 アンジェを夜更かし大好きっ子にするわけにはいかん。生活の乱れは性活の乱れに直結するからな、直結だけに。

 というわけで風呂を勧め、向かわせる。


 プルルルル。


 アンジェがバスタイム突入し、しばらくしてからスマホに着信が入ってきた。


 ……光秀かよ。


「はい、こちら本能寺」


『雄太! おまえ何度も何度もメッセージ送ってるってのに既読スルーしやがって、てめえの血は……』


「やかましいわ! 裏切者め、なんで奥津に余計なこと言いやがった! おかげで奥津が俺の大学までおしかけて来てめんどくさいことになったんだぞこのキンカン頭! 落ち武者満喫中に農民に刈られて地獄へ落ちやがれ!!」


『……すまんかった』


 通話開始わずか十秒で俺の勝ちが確定した。


「つーかな、なんなんだよ奥津のバカは。溜まってたってのはサルでもわかるが、本当に面の皮もチソコの皮も激厚じゃねえか。ずうずうしい」


『ああ……ということは、奥津のやつ、暮林さん……だっけ。やっぱり彼女に迫りに行ったのか?』


「そーだよ。無関係な大学内まで押しかけてきて、ちょっとした騒ぎになったんだぞ。見事に撃退されたがな」


 そんな予想もつかなかったんか光秀は。あのようすからして、奥津の顔から性欲駄々漏れ、亀の頭からは先走り駄々漏れなのは間違いないだろ。9センチの先走り砲。


『そうか……いや、それで奥津のやつ、今どうしてる?』


「は? 知らねえよ。いまごろ失意の自家発電でもして、漏電したあげくあの世に行ってるんじゃね?」


 いっそテクノブレイク起こしてくれたほうが俺の平穏には多大なる貢献となったってのに。精子脳はむだに生命力高いから嫌いだよ。


『……まあ、自死を選ぶような度胸はないだろうが……あれから、こっちの大学にも戻ってきてないんだよ、あいつ』


「……は?」


『奥津のアパートにも人影はないし……メッセージは未読、通話すらつながらない始末だ。なんかあったのか、ひょっとしたら雄太なら知ってるかもと思って連絡したが……手詰まりだな』


 やっぱり予想してやがったろ光秀。


「どっかのヘルズブラックウィッチに拉致監禁されて拷問受けてる可能性もある……かもしれない」


『マジかよ……あいつ、いなくなる前に俺に金貸してって頼んできたから、五千円程貸したんだよな。このままいなくなられたら困るぜ』


 光秀ざまぁ、と内心思ったが口にはしなかった。俺を裏切るからそんな目に遭うんだよ、わかったか。

 しかし、失踪かい。そこまでショックだったのか、それともマジで暮林オカンに拉致られてるのか、わからなくなってきた。こんど暮林オカンに会うことがあったらさりげなく聞いてみよう。


 …………


 もし拉致られたりしてなければ……なんか、また小めんどくさいことが起きそうな気もする。



 ―・―・―・―・―・―・―



 さて、俺も風呂に入ってきれいな体になった。あとは寝るだけ。

 いちおうアンジェを寝袋に寝せるのは忍びないので、ベッドを貸してやることにした。


「お兄ちゃん、本当にいいの? もしよければ一緒にベッドで寝ても……」


「シングルベッドに二人寝るなんて御免だ。アンジェに蹴飛ばされそうだからな」


「むー! アンジェ、そんなに寝相悪くないもん!」


「はいはい。ま、もう寒くはないし、寝袋でも十分快適だ。俺のことは気にせず好きなだけ寝ろ」


「……はーい」


 俺はそう言いつつ部屋の電気を消す。


 部屋が暗闇に覆われ、さあ寝よう、と思った時。

 アンジェが小声で話しかけてきた。


「……お兄ちゃんはさ」


「ん?」


「アンジェが、有名人になったりしたら、嬉しい? それとも……」


「なんだ、きょう剣崎さんに言われたこと、考えてるのか?」


「……」


 ま、兄の欲目を除いたとしても。

 もしアンジェが芸能界デビューしたら、人気が出る可能性は高い。そのくらいのポテンシャルは持っていると思う。


 だからといって、俺の鼻が高い、なんてことにはなりはしないが。


 アンジェの本心がわからないので、兄としての本音と建て前をミックスさせた言葉を発しておこう。


「ま、アンジェがどういう道を進もうが、俺にとっては死ぬまで可愛い妹だよ」


「……そっか」


「ああ」


「なら、どうでもいいかな。アンジェはお兄ちゃんに直接『おやすみ』って言えればそれで充分」


「なんだそりゃ」


 わが妹ながら、本当に可愛いやつめ。


「じゃあ、おやすみ。お兄ちゃん」


「ああ、おやすみ……ふぁああ」


 アンジェのおやすみを聞いたら、いきなり眠くなってきたな。


「明日は……スマタバックスでコーヒー飲もうね」


「……わかった……」


 記憶はそこで途切れた。



 ―・―・―・―・―・―・―



 そうして次の日。

 アンジェとお出かけし、約束通りスマタバックスコーヒーへと立ち寄る。


 日曜だから混んではいるな……


「どれにしようかなー、あ。新メニューだ……『フェラエチーノ』? 生バナナと生クリームのフラペチーノ、かぁ……アンジェ、これにするー。お兄ちゃんは?」


「俺は奇抜なのは勘弁してほしいな……スペルマキアートでいいよ」


「おっけー」


 さて、注文はアンジェに任せて席を探そう……


 …………


 なんで小島さんが、一人でスマタバックスにいるのよ。余計なもん見つけちゃったわ。


 あ、目があっちゃった。

 これがご都合主義ってやつか。理不尽。



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