ラブコメ的伏線を回収する主人公
あの後、いちおう事務所の後輩と合コンする段取りをつけてもらえるよう、飛鳥さんにはお願いしといた。
ま、そのためにはこっちも何かしら有益な情報なり機会なりを飛鳥さんに提供する必要はあるのかもしれない。
モデルが所属する事務所の後輩と合コン。
これはひょっとすると一世一代のチャンスかもな。
なんて、いろいろヨコシマな妄想をしていたら、大学の講義がオワタ。
頭に入ってないけど、まあ初日だしいいだろう。さ、帰宅だ帰宅──
ポロンボロンポロン♪
ん? この音はアンジェ専用ホットラインのメッセージか?
珍しい時間にメッセージが来たな。どれどれ……
『お兄ちゃんの部屋に、アンジェの下着、忘れてなかった?』
忘れてったことに今まで気づかなかったのか、あの色気のないぱんつ。
ま、おかげで一部の人間に誤解を招いたかもしれんが、それは別に誤解されてもいい相手だったので問題はない。
『あったぞ。縞パンが』
『やっぱり。近いうち取りに行くから保管しておいてね。あ、触ったりにおいを嗅いだりしないでよね!』
『おまえは兄を何だと思ってるんだ。というか洗濯してそっちに送ってもいいぞ』
スメルプライバシーは守っといて正解だった。ということはあれ、使用済みのものだったんだろうか。
…………
顔写真付きで売れるかもしれない。アンジェに焼き肉おごったせいで新生活始まったばかりだというのに食費もヤバいしな、いざとなったら……
……いやいやいや兄としてそれはいかん。思いなおせ俺。
ま、アンジェを知らないやつの慰み者にするのもむかっ腹立つし、やめとくか。
『大丈夫。すぐ取りに行くよ』
……はい? しばらくレスが返ってこないと思ったら、時間差でなによその内容。
『また来るのかおまえ。そうそう来る余裕なんてないだろ』
『大丈夫、ジョーンズさんについていくだけだから』
おう。
そういうオチか。まあジョーンズさんもアンジェに弱いからな。
叔父と姪は、どう考えても『なしよりのなし』だけどさ。
……そんなに淋しいのかね、アンジェは。
―・―・―・―・―・―・―
そうして水曜。
アンジェが来るとすれば週末以降だろうから、まあまだ心の余裕はある週半ば。
しかし一方で、フトコロの余裕はなくなっている。
まーたアンジェが来たらなんかごちそうせなあかんのかなあ。もしジョーンズさんが一緒だったら、俺もたかろうっと。
……まあそれはそれとしても。食費を削らなければならないのは大問題だ。
しばらくは160円のカレーでしのぐしかないかな……学生新興食堂のカレー、まずいんだけど背に腹は代えられぬと言うかお腹と背中がくっつくというか。
「あ、あの! 雄太くん!」
「……ん?」
下を向きながらため息とともに学食に向かう途中で俺の名を呼ばれ、思わず振り向く。
「……暮林さん?」
「あ、あの、突然ごめん。これから、学食に行くの?」
「……そのつもりだけど」
暮林さんの顔色は、少しだけ健康的になってるように思う。割と元気そうで何より。
というかあのあとに奥津がどうなったのか聞きたい気もするが、なんかめんどくさいことになりそうなので触れないほうがいい、と瞬時に判断した。
一緒に学食に行こう、というお誘いだろうか。
悪いが俺はオシャンティなカフェテリアではなく、女子が避ける学食ナンバーワンの、汚シャンティな新興食堂に行く予定なのだ。ざーんねんでしたー!!
「あ、あの、もしよかったら……」
「いや俺は今月苦しくて、一般的な昼飯を食うことができないんだけど」
「……え? 苦しい?」
「マネー的な問題」
だから食事のお誘いには乗りませんよ、という遠回しなお断りの態度を表明したのだが。
暮林さんはそれを聞いて、やったぜといわんばかりの笑顔になった。しまった、俺の対応が間違いだったか。俺はイワン並のばかだ。
「そ。それなら! 月曜日のお礼ってわけじゃないんだけど、雄太くんの分も……お弁当、作ってみたんだ。よ、よければ……食べてもらえない、かな?」
「……はい?」
そう言って暮林さんは、手に持っていたトートバッグから、弁当らしきものを取り出して、俺の前に差し出す。
毒、入ってねえよな。
まず思ったのはそれだった。
いやだってさ、短い期間だけど付き合ってた時にこんな展開一切なかったじゃないの。
しかし、差し出された弁当は、とてもじゃないけど新興食堂の背水の陣カレーよりははるかにうまそうに思える。
これが
さあどうしたもんかな。
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