なんだかんだ
さて、まず状況を整理してみよう。
つまり、ここにいるデルモのKYOKOは、昔オナチューで生徒会長をやっていた剣崎飛鳥さんで。
飛鳥さんは奥津や暮林さんと幼なじみで、なおかつ幼いころから暮林をヨコシマな目で見ていたクレイジーサイコレズ、と。
…………
うん、関わり合いになっても、俺に利はまるでないな。
「というわけでダッシュムラ、あんたはアタシが美衣とくんずほぐれつになるために協力を」
「くんずほぐれつだかク〇ニお下劣だか知らんけど、お断りします」
「なんでよ! アンタまさか美衣のことをまだ……」
「あのさあサイコレズさん、逆に聞きたいんだけど、それやって俺に何かメリットあるの?」
俺はまともな女と一刻も早く巡り合って突き合いたいんだよ。邪魔すんな。
「実はアタシの事務所の後輩に、高学歴で将来有望な大学生と知り合いたいってのが数名いるんだけど」
「じゃあ話を聞こうか」
「手のひら返しも甚だしいわねあんた。頭逝かれてる?」
「出会いってのは自らの努力で引き寄せてこそ運命になるんだから仕方ないだろ」
というか今知り合ったばっかりで暮林さんとの仲を取り持て、とかお願いしてくる方が頭逝かれてないか?
ま、暮林さんのことは別にどうでもいいんだけどさ。
『やっぱり、これって……恋だと思うんだ』
うん、まあ、どうでも……いい。
だいいちあんなの、消えない罪悪感を何か別の前向きなものに変換して、自分の心の自己防衛をしてるだけに違いないし。
もし兆が一、それが本物の恋心だったとしても、遅すぎる。
そう、もう遅いんだ。
消えない過去の過ちを上書きできるほどのものでは、決してない。
だから、飛鳥さんが暮林さんにアプローチするのに、何も問題はないのだが。
「というかですね飛鳥さん。別に暮林さんは幼なじみなんだし、いくらでも連絡取れるでしょ? 好きなだけ本性表せばいいじゃない」
「……それが簡単にできるなら、こうやって張り込みしてないわよ」
「ん?」
「いろいろ手を尽くしてようやくここの大学に進学したって情報はつかんだけど、なんだかんだ言ってアタシも美衣を傷つけた一人であることには違いないんだし」
「ああ……」
なるほど。それは確かに。
暮林オカンが黙っちゃいないだろうしな。俺に状況説明したくらいだから、オカンも全部承知してるはず。
やっぱり娘を守る親は強いし怖い。
「……ま、飛鳥さんが暮林さんをアイナメ一本釣りしようが、二人で双頭ディルドーランドのハレンチパレードしようが、俺にはどうでもいいんだけどさ」
「あんたの下ネタもたいがいね」
「それを言う資格が飛鳥さんにあるのかどうかが疑問だけど、まあそれはおいといて。間違いなく、飛鳥さんは暮林さんを傷つけたことを理解してるんだよね? それがたとえ、安藤の腐りきった性欲から暮林さんを遠ざけるためだとしても」
俺の声色がいきなり真面目になったせいか、飛鳥さんはそれ以上ちゃかしては来なかった。ただ俺の言葉にうなずくだけ。
「ならさ。当然だけど、オカン様の目を盗んで飛鳥さんが暮林さんと会ったとしても、くんずほぐれつどころか嫌悪感丸出しにされてまともにコミュニケーションすら取れない状態になる可能性、バリカタじゃない?」
「……うん、その通りだとは思う」
「それでも、暮林さんに会いたいの?」
俺の問いかけに、飛鳥さんは少しだけ考えて。
「……もちろんよ。時間が経っても、お互いのことを思い出さなくなっても、美衣の苦しみもアタシの罪も、決して風化なんてしないから」
キッパリと、こう言い切った。
「もちろん一生許されることなんてないかもしれない。でも、それならそれで受け入れるし、償えるものなら償いたい。どんなに罵倒されようがなじられようが、距離をとってハイ終わりじゃダメなの、向き合わなきゃいけないの」
「いやだから、肝心の暮林さんのほうがもう会いたくないと思ってるんじゃ……」
「……ふーん。それは、美衣と同じような立場にいたあなたの気持ち?」
「ま、そんなとこ」
正直、俺としてはこのまま一生会わないほうがいいんじゃないかなあ、なんて思うんだけど。わざわざ思い出したくない記憶をほじくり返してもいいことなんてない。
しかし、飛鳥さんはやはり口が回る。
「そっか。でもあんたは美衣と会って話とかしたわけだよね。それで? 何も変わらなかったの?」
「……」
改めてそう言われると、何も変わらなかったわけではないので、さすがに口ごもっちゃうよね。いい方向に、でないことだけは間違いないにせよ。
「そういうこと。たとえ動機が不純だろうが正当だろうが、会ってみなけりゃどう転ぶかはわからない。そう思ってるよ、アタシは」
「……自己中な思いでも?」
「許してもらえなくても謝罪したい、って気持ちだけは本物だもの」
良くも悪くも、自分が納得する形でケリをつけないと前へと進めない。
確かに自己中と言ってしまえばそれまでだが、おそらく、飛鳥さんも、そして暮林さんも、そんな人種なんだろう。
ま、当然ながら。
「……かっこいいこと言ってますけど、その裏にはあわよくば百合ルート突入、なんて下心がありますよね?」
「大事な人相手に下心持ってない人なんていないわよ。叶うかどうかは置いといて、未来に希望もないのに行動する人間がどこにいるのさ」
やっぱり。
「そのくらい大事な人なら、もっと他にやりようあったんじゃないかなあ……」
「肉欲におぼれた人間の目を覚ますのは、容易じゃなかったってことよね。ま、アタシも若かった、なんてのは言い訳にならないけど」
「……9センチの肉欲か」
うん、平行線。
ここで押し問答する内容ではないことは確か。
ま、今後俺に付きまとわれるよりかは、飛鳥さんに任せるほうが助かることは事実だ。
共通の敵は奥津。このコンセンサスだけは成立した、ということにしとこう。
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