まさかのはいぼくっ!!(フ〇キタル風味)

 プラス要素。

 ・人を裏切った女なんぞにもうかかわりたくない。

 ・実際、もうかかわるな、とはっきり伝えた。

 ・何が入ってるかすら怪しい。というか暮林さんの料理の腕前を全く知らない。


 マイナス要素。

 ・また悲観して入院されたりしたらそれなりに良心が痛む。

 ・おれの良心だけじゃなく暮林さんの両親、特にオカンの存在が未知数。

 ・今の俺は金欠。なおかつ腹は減っている。

 ・このまま弁当を食べずに腐らせてしまうのは地球にやさしくない。

 ・KYOKO、いや飛鳥さんに合コンをセッティングしてもらうため、暮林さんと話をすることはそれなりに必要。



 俺は折れた。中折れとはだらしないが、仕方ない未経験だもの。


 というわけで、中庭に来ている。

 今日は春らしい陽気で、表にいるのは全く苦痛じゃないのだが。


「……朝から早起きして、頑張ったんだ。自信作だよ、どうぞ召し上がれ」


 隣からワクワクした目で暮林さんに見られるのが苦痛である。

 しかしどこかでオカンが偵察してたりしないだろうか。


「……どうしたの雄太くん、きょろきょろして」


「あ、い、いや。暮林さんひとり?」


「え、どうしたのいったい。もちろん一人で作ったよ?」


 いやそういうことじゃない。

 しかし、腑に落ちないことはほかにもある。


「あのさ。なんでいきなり弁当なんて作ってきたの?」


「え、えーと、雄太くん、昨日のお昼、新興食堂のカレーだったでしょ?」


「……そうだけど」


 見てたんかい。見られてたんかい。俺の許可も取らずなんで見てた。


「それで、ひょっとすると雄太くん、お昼とか用意してないのかなー、って思って……この前、迷惑かけちゃったし、お詫びもかねて……や、やっぱりめいわく、だったかな……」


「……いや、迷惑というならば確かに……」


 その通り。暮林さんが、今さら俺に対してこういうことをしてくるのが迷惑な話なんですけどね。お詫びのつもりでも、お悔やみになっちゃう。

 とはいいつつ弁当をごちそうになる身でそんなこと言うのも礼儀に反する。言葉を飲み込んでとりあえず食っちまおう。食わないと解放はされないし。


 では、ご開帳。

 おお、恥ずかしい赤裸々なアワビが……いや入ってないけどさ、弁当には。


 ちなみに弁当の中身は。


 唐揚げ数個。

 卵焼き。

 タコさんウインナー。

 コールスローみたいなサラダとトマト。

 ゴマ塩が振られたご飯。


 これを早起きして作ったというのは、どうとらえればいいのだろうか。わりと地味。


 しかし残念なことに、唐揚げは俺の大好物である。

 ジーっと見られているのはちょっと落ち着かないが、とりあえず食べてみることにしよう。


 ぱくっ。


「! ……おいしい」


「ほ、ほんと!? よかったぁ……」


 悔しいが、唐揚げは冷えてはいるけどうまかった。ニンニクと香辛料の使い方が俺好みである。

 そして卵焼きは、甘い味付けになってないのがこれまた俺好み。

 コールスローの味も学食のそれより美味い。これは自分でドレッシングを作ってるんだろう。


 ……唐揚げが俺の好物だって、一応覚えてたんだな、暮林さん。


「……ごちそうさまでした。おいしかった、ありがとう」


「ど、どういたしまして。よかったぁ、喜んでもらえて……」


 ごちそうになったからには礼は言わねばなるまい。

 しかし、暮林さんがこんなにうれしそうなのはなんでだろうか。


「……実は、家族以外のためにお弁当を作ったのって、初めてなんだ」


「はぁ?」


 そこで飛んでくる暮林さんのヤバそうな発言。

 いや、付き合ってるとかならともかくさ、俺の立場でこの初めてをもらってもあんまりありがたみないよ?


 とはさすがに言えんわな。嫌味でお茶にごしとこ。


「あんd……じゃなかった、奥津には作ってあげたことないの?」


「あ、あはは……」


「?」


「え、えーとね……そういうことは、一度もなかったの。というよりも、二人きりになると……その、ね」


 ああ、なるほど。

 そういうことをしてやる暇もなくヤリまくってたってことね。

 ま、中学生の性欲なんてそんなもんだと理解してはいるが、恋人同士ってやるとき以外の過ごし方ってのが大事なんじゃないのか?


 いや違うな。建前的には恋人同士じゃなかったからこそそういうことをしなかっただけかもしれん。


 なんかその発言を聞いてむかつきが込み上げてきたので、少し罵倒してやろうかと思ったが。


「……でも、お弁当作ってて、本当に、あの頃のわたしは、全部が間違いだったって思った」


 出鼻をくじかれた。まあいい、聞くだけ聞いてやる。


「あのね。本当に、誰かのためにお弁当作るの、今日が初めてで。でもね、早起きしてお弁当作ってて、すごく楽しかったの。迷惑かけたお詫びのつもりで作り始めたはずなのにね」


「……」


「なんでこんなに楽しいこと、今までしなかったんだろうって。できなかったんだろうって、そう心から思って。やっぱりわたしは、雄太くんのことが大事なんだなあって、好きなんだなあって。そして中学時代のわたしはこの世で一番愚かだったんだなあって、改めて実感したんだ。今さらだよね……」


 本当に。

 自分から進んで9センチ砲快楽堕ちしたくせに、勝手すぎませんかね。


「錯覚にもほどがあると思いますがいかがでしょうか」


「ううん、絶対に錯覚じゃないよ。中学生の時のあたしはそうだったかもしれないけど。こんな気持ちになったの、初めてだもん」


 だから違う初めてをな? 彼氏じゃなかった奥津にな?

 まったく、彼氏じゃないやつにいろいろな初めてをあげまくってどうする。


「……俺だってな。一応は彼氏だった中学生のころに、暮林さんの初めてをもらいたかったよ」


 あ、やべ、思わず口から出ちゃった。イラっとしたんでつい。

 だが本心だ、反省はしていない。


 問題なのはこれからのことじゃなくて、これまでのことなんだからさ。

 どこかのいい年こいた大人が『昔はやりらふぃーだった』なんていうのと同じ感じで、勝手に過去のことにされても困る。


 さあ、暮林さんはどうくるか。

 ここで中学時代のように泣いてごまかす真似をしてきたら、もう暮林さんにかかわるのは極力避けたほうがいいな。


 ……合コンは惜しいが。



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