しゃーねーな、聞くだけ聞いてやる
そうしてコンビニからパンを買って出てきたのだが。
律儀というかなんというか、出入り口付近に小島さんが立っていた。店内まで追いかけてこなかったのだけは褒めてやる。
おかげで、小島さんとどう向き合うか考えられたからな。
「……とりあえず、退学はしないことにした」
「!」
コンビニの有料ビニール袋を右手に持ちながらそう言う俺は、地球にやさしくない男である。
「あ、ああ、ほんと、ほんと……?」
だから、ここで小島さんが涙をこぼしても、気に留めないでおく。
地球にやさしくない男が
これでも、不感症の恥丘にやさしくない中出し本出し挿れ子出しをした義理の兄よりまともだと自負しているぞ。堂々と胸とテント張って生きられるよな。
「いちおう家族と話し合って決めたからな。ま、そういうわけだけど、思い出したくもない過去を思い出させる人間と関わり合いにならないほうがお互いにとってもいいことだろうから、今後は他人でよろしく。じゃ」
「ちょ、ちょっとまってちがう!」
「何がよ」
「ね、ねえ、一生のお願いだから、ちょっと、話を聞いて……」
「この前聞いたじゃん。まだなんかあるの?」
「あ、あれから、あたしも考えたの。雄太に言われたことを」
「……なんだっけ」
「死ぬなんて最悪な逃げを選ばずに済む未来、のことを……」
「……」
そう言われては弱い。
たとえ俺のことをこれ以上なく傷つけた相手だとしても、腕に隠せない傷を持つ小島さんをほっといて、もし自分で死を選ぶ未来が待っていたら。
俺はオカンやアンジェという家族に救われたけど、家族から傷を受けてる小島さんが救いを失って、どこかのあの世へ、いや地獄へ自分から飛び込んでしまったら。
俺はざまあみろ、と思うか。それとも後悔を強く残すことになるか。
明らかでもある。
はあ、自分で言うのもなんだけど、甘ちゃんだな、俺。
『雄太がこれから先、過去のNTRというものに縛られたくなければ、乗り越えたければ、何かしらやるべきことは絶対にあるはずよ』
あああ、こんな時にオカンに言われた言葉思い出しちゃったわ。
「……俺、まだメシ食ってねえんだわ。食うついででいいなら、消化が悪くならない程度に話くらい聞いてもいい。もう場所知ってるだろうから、俺んちでいいだろ?」
不機嫌さにほんの少しの慈悲を混ぜて俺がそう言うと、小島さんは一層激しく泣き叫び始めた。
あのー、このままじゃけーさつかん呼ばれそうなんですけど、泣き止んでくださいませんかねえ?
困るのは小島さんでしょ?
何がそんなにうれしいのさ。
―・―・―・―・―・―・―
なんとか通報される前に俺のアパートに到着。
まだ目は赤いが、小島さんは落ち着きを取り戻してはいた。
…………
玄関のカギを開けつつ、考える。
高校時代は俺の家にあがりすらしなかったってのに、皮肉なもんだ。
つきあってた頃から月日が経った今は、俺様の憎悪を抑えろ、的な感情の540度回転。つきあってて勃ってた時に俺様の象を
……この前の訪問は、結局玄関先で逃亡しやがったからノーカンでいっか。
ガチャ。
「狭くて何もないけど、どう……」
「!?」
しまった!
昨日の夜、無造作にアンジェのぱんつを放り投げたまま片付けもせず買い出しに来ちまったから、ぱんつが部屋の真ん中で堂々と自己主張をしてるじゃねえか!
おはガチャが妹のぱんつなせいで小島さんも固まってるよ!
「ま、ま、さか、きのう、一緒にいた女の子……の……?」
「ち、違うわ! いや違わないけど昨日一緒にいたのは妹だ! 半分だけだがちゃんと血はつながっているからな!」
「……え? あんなに、見た目が違うのに、妹?」
「腹違いなんだよ! アンジェは義理の母親の子供! 前にちらっと言ったことあるだろ!?」
……ん?
冷静になれ。別に小島さんに誤解されてもなんということはないのか?
慌てて弁解する必要なかったわ。
「え、ま、まさか、妹さんと……」
「ああ、昨日遊びに来ててな」
「そっか……雄太も、あたしとおんなじ、だったんだ……」
「……ん?」
「そ、そうだよね、年頃の男女が一緒に暮らしていたら、そういう関係になってもおかしくないんだよね……」
「……んん?」
いやな予感。なんだかすごい勘違いをされてる気がする。
「あ、安心して雄太! 妹さんと血縁の壁を超えて、一晩中、超持久兄妹セクロスしてたなんてこと、あたし、誰にも言わないから! 」
「愛ってもんをおぼえてねえのか小島さんは! 俺とアンジェの尊い兄妹愛をすぐさま性欲に結び付けるんじゃねえ! 帰れ!!」
「あ、あ、うそ、うそだから! 墓場まで持って行くから!!」
いや困った。身の潔白証明できねえぞ、これ。
やっぱ
……ま、今さらだけどな。先が思いやられる。
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