ラウンドワン、ファイッ!
思わぬ訪問者がやってきた次の日の朝。
早々にオカンからメッセージが入った。
『今日の夜に、ジョーンズがそっちに行くから、それまでアンジェのことよろしく』
どうやら叔父のジョーンズさんがアンジェを迎えに来るらしい。
ジョーンズさんと会うのも久しぶりだな。話せる時間があれば愚痴を聞いてもらいたいもんだ。
一方、まわりを振り回した張本人のアンジェは。
「……ん、んん……んっ」
俺のベッドでいまだ寝ている。
パジャマ忘れた、とか言って、こいつは下着姿で寝やがった。布団から昨日ペンペンしたケツ出てんぞ、まったく。
……それにしても、アンジェもケツでかくなったよな。さすが育ちざかりは違う。
身長もチン長も止まった俺からしてみればうらやましい限り。
ガバッ。
「……おはよ、お兄ちゃん」
「のわっ!!」
しみじみと妹の成長を喜んでいたら、いきなりアンジェがガバッと起き上がってきたので俺はビビった。
「びっくりしたわ! なんだよ突然!」
「……なんだか知らないけど、お兄ちゃんからヨコシマな波動を感じたから、目が覚めた」
「……あ、そ。よく眠れたか?」
「おしり痛い」
「それがアンジェの罪だっつーの」
「……ん」
まあ悪いが、妹の下着姿でムッシュムラムラするようじゃ、兄として以前に人として終わってしまう。
俺はアンジェに服を無言で手渡し、さっさと動くよう促した。
「オカンからメッセージがあって、今日の夜、ジョーンズさんが迎えに来るってさ」
「……」
「……アンジェ? どうした?」
「なら、夜までは余裕あるよね」
「は?」
「せっかくだから、久しぶりにお兄ちゃんとお出かけしたい。だめ?」
天使のおねだりである。
兄ってもんは弱い生き物だ。なついてくれる妹がかわいくないわけがない。
―・―・―・―・―・―・―
「……とはいっても、俺も住み始めたばっかだし、街のことなんて全然知らんぞ」
「そうなの? まあ行けば行ったでなんとかなるよ」
結局、まあせっかくこちらへ来たのだから、ということで。
アンジェを連れて知らない街へ繰り出すことにした。探索もかねて。
「確かこっちに行けばバルコがあったはずだが……」
「この街のバルコはこの前閉店したんじゃなかったっけ?」
「……何でアンジェが知ってるんだ」
「お兄ちゃんの住む街のことくらい、調べ済み」
そう言ってアンジェはしれっと腕を組んできた。
まあ別に拒絶する気もさらさらない。
「……これで、デートらしくなる」
「いやどこから見ても兄妹だろ」
「今まで、初見の人に兄妹だって思われたこと、あったっけ?」
「そうでなかったら、俺がJC連れてるアブナイ大学生になっちまうじゃねえか」
「……アンジェって、そんなに見た目ガキっぽい?」
「……」
周りの視線が結構いたい。これは嫉妬か羨望か。いやひょっとするとSHIT! かもしれんし、死っと! かもしれん。
確かに私服のアンジェはチューボーには見えないにしても。
たとえ見た目が成長しようが、泣きながら俺の後をくっついてきたころのアンジェと何にも変わっていない。俺の中では。
しかしここで新たな問題勃発。
「……道に迷った」
「お兄ちゃん……」
アンジェがあきれ顔である。珍しい。
仕方ないだろ、今まで住んでた街と違ってやたらと人は多いし道は入り組んでるし。
背に腹は代えられぬ。
田舎者丸出しになるのを避けたくて今まで封印してきたが、ここはスマホアプリの力を借りるしかあるまい。
と、胸ポケットからスマホを取り出そうとしたら、ちょっと離れた先で何やら男女が揉み合い……いや、言い合いをしているのに気づいた。
『ね? ここで偶然会ったのも何かの縁だしさ』
『……だから、その気はない』
『これから同じ学科で四年間過ごすわけだから、仲良くなっておくのもいいでしょ?』
『しつこい……』
うわ。なんだあれ、ナンパしてる感じにしか見えないけど、今時こんな街中でナンパするような奴がいるのか。どれ、どんな奴だ……
…………
なんかどこかで見たことあるなあ、二人とも。
……まさか。
『……いいかげんにして』
『あっ! 待ってよ、小島さん!』
攻防の末、女のほうが逃げるようにこちらへ駆け足でやってきた。
そこで、不覚にも俺と目が合う。
「!」
ああ、やっぱそうか。
決して目と目で通じ合ったわけじゃない。目と目でお通じの停滞、宿便状態な俺の
小走りでこちらへ逃げてきた小島さんは、俺と目が合った瞬間に、ぴたっと動きが止まった。
そうして俺の隣──アンジェのほうへ目を向ける。
バチバチッ!!
アンジェはアンジェで何を思ったか、小島さんの視線を感じてから、俺の腕に抱き着くように身を預けてきやがった。
「……っっ!!」
数秒だけ固まった小島さんだったが、またすぐに勢いを増して、早足で俺の横を通り過ぎて行く。今のは何だったんだろう。火花散ってた気もするけど。
「……小島さん、ガード堅いなあ……あれ? 上村君じゃん?」
それから走り去った小島さんの後を追ってきた男は、新歓コンパで少しだけ話をした
いちおう知らないやつじゃないし、社交辞令くらいしとくか。
「……偶然だな真方くん。何してたん?」
「いやさ、たまたまそこで小島さんと出会ってね。同じ科の仲間なんだし、仲良くなりたいと思って『食事でも一緒にどう?』って誘ったんだけど、袖にされた」
「……ああそう」
いや確かにこっち来てからポンコツっぽく感じられた小島さんなんだけど、基本的にはクールだからな。言い換えればコミュ障。そのあたりは変わってなかったのか。
去る者は追わずのごとく、小島さんの話題はそこで終わって、次。
「というか上村君! なんだい君は、こんなかわいい彼女がいるなんて知らなかったよ。だから同じ科の女子に興味がなかったんだな!」
「いや、彼女ではないけど」
「照れなくてもいいじゃないか! 彼女じゃなかったらこんなふうに腕を組んで歩いたりしないだろ?」
「いや、だから妹……」
おい真方クンよ、身を乗り出してぐいぐいくんな。アンジェが怖がるじゃねえか。
ギュッ。
「……あ、いや悪い悪い、デートの邪魔したか。俺は消えるよ、じゃあな!」
「お、おい」
アンジェが怖がって、俺の腕に一層強くしがみついたのを勘違いしたのか。
真方君は俺の話もろくに聞かないまま去っていった。
「……なんだったんだ、いったい」
ぼやきつつも、嵐に巻き込まれなくて済んだ、そう思ったのもつかの間。
「……お兄ちゃん、あのさ」
「ん?」
ジト目で俺に問いかけてくるアンジェから、何かしらの圧を感じる。
あに は たじろいだ!
「今の女の人……お兄ちゃんの、昔の彼女さん?」
「え゛」
何でアンジェが小島さんのことを知っているんだ。確か面識なかっただろ。
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