兄の召喚精霊・アンジェ
さあ、どうやって取り繕うべきか。
まあ、ふつうなら正直に「疲れてて、アンジェにメッセージ送るのも忘れて寝落ちしちゃった」って伝えるもんなんだろうけど。
……
うむぅ。
ここでアンジェに素直に言ってしまって、怒りマックスくらいであればまだいい。なだめられる自信はあるから。
しかし、最悪なアンジェの反応は、「お兄ちゃんに忘れられてた、アンジェなんていらない子なんだ」と落ち込まれてしまうことである。もしそういう反応が返ってきたら、一筋縄ではいかないことは過去の経験から明らか。
仕方ない。ここは大人の優しいUSO800でごまかそうか。
『あ、アンジェ、すまない。じつは昨日食べた刺身に中ってしまったらしく、おなかが痛くて身動き取れなくてさ』
メッセージでよかった。通話ならあっさり見抜かれると思う。脂汗が止まらん。
『……ほんと?』
『あ、ああ、本当だ。今も腹がゴロゴロと』
『大丈夫なの?』
アンジェ、その言葉をそっくり返したい。朝なのに学校行く準備しなくていいのか。メッセージが即レスばっかだぞ。
『つらいけど死ぬことはないから大丈夫。というかアンジェも学校行かなくていいのか?』
『・・・』
お。即レスが止まった。登校準備してるようだな。
ごめんなアンジェ。罪悪感がパネェっす。
『……行くね』
『おう、いってらっしゃい。今日の夜までには復活してると思うから、また夜にな』
『うん、また夜に』
よし、アンジェへの懸念はこれで
―・―・―・―・―・―・―
なんとかアンジェ問題を無難に解決した俺は、朝飯もそこそこに大学へとやってきた。
土日を超えれば、本格的に講義がスタートする。とりあえず、どの講義を選択するか、早いとこ決めなければならない。
どうすべきかを悩みつつ、学部入り口の掲示板前まで来たら。
「……あっ」
そこでばったりと、
おいちょっと待て、なぜこちらを見たままおびえて後ずさりする。
「た、逮捕しないで……」
「するか!」
前のめりになりつつ即ツッコミ。小島さんはただの阿呆でしたか。
…………
いや俺も俺だ、なんでかかわる必要がない人間にかかわる。
くそぉ、ツッコミを入れないと気が済まないこの血が恨めしい。
というか、タイーホというパワーワードのせいで、まわりにいる学生から注目されてんじゃねえか、ちっ。
このままここを離れたら、陰で何言われるかわからん。仕方ないから取り繕っておこう。
「つーか、逮捕されるような心当たりあるんか? 小島さんは」
「……」
はい、取り繕い完了。じゃあ移動しよ、と思っていたら、小島さんが引っ掻き回してくる。
「あ、あの!」
「……なによ」
「……本当に、逮捕しない?」
「だから心当たりあるのかっつってんだよ! これ以上余計なこと言ってんじゃねえ!」
「……」
なんで逮捕されると思っているのか。ようわからん。
俺を裏切ったことを犯罪だと思ってるのか、それともアポなしで夜に俺の部屋を訪ねてきたことがうしろめたいだけなのか。
…………
でもここで、『もう夜に俺のアパート尋ねてくるな』とか言っちゃったら、ギャラリーたちにあらぬ誤解をされそうだよね?
「……まあとにかくだ。もう俺を引っ掻き回すのはやめてくれ」
「……」
「じゃ」
臨機応変を発動させたのちに口から出た言葉は、結構無難だった。これでよし。
とにかく、ヘタにかかわると泥沼になる可能性大だ。どこかほかの人間がいないときに、もうウチくんな、って釘さしとくしかねえわ。
小島さんの棒立ちを横目で確認しつつ、風と共に去りぬ。
さっすがビッチは、得意技だけあって、
―・―・―・―・―・―・―
その後なんやかんやを経て、大学内でやることも終わり。
晩飯は外食で済ませ、そのあとちょっと寄り道して本屋で時間をつぶし、暗くなってから帰宅する。
明日から二日間は休みだ。ここ数日、NTRとかに引っ掻き回されたせいで落ち着いて休めなかったから、素直にうれしい。
さて、気分上々のまま玄関の鍵を開けて、と。
みっひまるー。
「ただいまー……ってもだれもいないか、はは」
「おかえり、お兄ちゃん。お腹もう大丈夫なの?」
「……」
バタン。
おかしい。
なんでデイリーガチャでアンジェが出てくるんだ。ここは実家じゃないよな、玄関がどこでもドアなわけもないよな。
さあ、リセットしてもう一度やり直しだ。
ガチャ。
「おかえり、お兄ちゃん。なんでいったんドア閉めたの?」
バタン。
おっと、またまたドアを閉めちまった。
なんかさ、ドア開けた先にあり得ない光景が広がってたら、思わず閉めちまうよな、そのドアを。
なんだろうこれ。アンジェの呪いが見せる幻覚か。それともアンジェにウソをついた俺の罪の意識からくる幻覚か。どっちだ。
ガチャ。
「なにしてるのよ、お兄ちゃん」
「……なんでアンジェがここにいるんだ」
残念なお知らせだが、どうやら現実らしい。
「ちゃんと朝に『行くね』って伝えたじゃない。大家さんにお願いして、鍵開けてもらったの」
「……学校は?」
「明日から土曜でしょ。それに学校なんかどうでもいいよ、お兄ちゃんがぽんぽんペインで苦しんでるんだから」
「……オカンには?」
「……」
あ、これ許しちゃダメなやつだ。
そう思った瞬間、スマホに着信がやってくる。
『ちょっと雄太ぁ! アンジェがまだ家に帰ってきてないんだけど、アンタのスマホにメッセージか何か届いてない!?』
はい、ここにいます、お母様。
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