淫がおーほぉぉぉぉ・1

「お話って何ですか? すぐ終わりますか? 俺は悪くないですよ、何も関係ないですよ!? でもごめんなさい、俺が原因かもしれません!」


 めんどくさいことになりそうな先読み余裕だったので、会話も先手必勝を試してみることにした。


「……美衣の件、ご存じでしたか。雄太様は悪くありません。その節は、美衣がご迷惑おかけしました……」


「へっ?」


「美衣の代わりにもなりませんが、あの、今回は雄太様に謝罪を、と……」


「な、なんだってー」


 すまんな棒読み。俺がアク〇ージュの主役になることは不可能だと悟った。

 知らない振りしといた方がいいよな気もしたんだけど、取り繕ってもたぶん無駄よね。


「暮林さんの具合は、大丈夫なんですか? 命に別状は?」


「ちょっと衰弱しているだけで、命に別状はありません。ご心配いただきありがとうございます」


「あ、いいえ。おr……私の思慮不足で、暮林さんをあんな目に遭わせてしまい、改めて申し訳ありませんでした」


「本当に気になさらないでください」


 一応マナーみたいな感じで暮林さんの容態を尋ねてみたが、さっき木村さんから聞いた内容通りで、まあいちおうほっとした。

 俺が無視して放っておいたらまさかそのまま一晩中いるとは思わんかったけど、そのせいで命にかかわるような事態を招いたら寝覚めが悪くなるもん。


「それにしても、暮林さん、なんかおかしくなってないですか?」


 ただ、自己弁護するつもりはなかったが、そう聞かずにいられなかった。


「……」


「おr……わたしも至らないところがあったといえ、さすがに一晩中誰もいないところで土下座したまんまっていうのは、さすがに……」


「……あの子は」


 思い出したくないとばかりに、つらそうな顔をするお母さん。


「あ、別に話したくないのであれば無理しな」


「強迫観念に、とらわれているんです」


「……は?」


「その件で、実は、雄太様にも知っておいていただきたいことが……」


 せっかく気を遣おうとしたのに、やっぱりめんどくさいことは回避できないのね。あきらめた。

 ま、しゃーないか。暮林さんとはできるなら関わり合いになりたくない、っていう気持ちは変わらんけど、お母さんにまでこんな顔させたままってのも気分悪いしね。


 それにおそらく。

 お母さんは、つらくて思い出したくないことではあるけれど、俺に話しておきたいんだろう。


 ──なぜ暮林さんが、おかしくなってしまったのかを。



 ―・―・―・―・―・―・―



 とりあえず窓口には退学届けを廃棄するようお願いだけして、俺たちは場所を変えた。


 勝手知らない大学内大冒険の末、大学構内にある喫茶店、Aegi CAFEアエギカフェまでやってきたのだが、まだ時間が早いためオープンしてなかった。仕方なしに店舗前にあるオープンスペースに座る。


 そうしてお互い座るやいなや。


「……心からお詫び申し上げます。中学時代に、美衣が、雄太様を、これ以上なく、傷つけ……」


 いきなり深々と頭を下げてきた。

 ちょっと待ってどこまで知ってるのお母さん。


「あ、あの、いきなり謝られてもよくわからないんですけど、いったい何のことを?」


「美衣は愚かにも、雄太様と付き合っておきながら、中学生にあるまじき行為を含む二股をした挙句、雄太様をこれ以上なく傷つけたうえで捨てましたよね?」


「あっはい何でも丁寧に言えばいいってもんじゃないとは思いますがその通りです」


「それが……すべての間違いだったのです」


 あれれー?

 なんで暮林さんの性事情も含めた恋愛事情をお母さんが知ってるんだ?

 まさかそんなことまでお母さんに相談したとかだったら、牛乳もびっくりするレベルなんだけど。


 お母さんがリアクション待ちみたいなそぶりを見せてるので、ここは乗っかろう。ベッドの上で乗っかると不倫行為になっちゃうけど、今ならたぶん許される。


「どういうことだってばよ?」


「美衣に、幼なじみの男の子がいたことは、ご存じですよね?」


「いやまあそりゃもちろん。だって暮林さんは、たしか安藤あんどうでしたっけ? そいつを選んだわけですし」


「はい……では、幼なじみとして、もうひとり。一つ年上の、女の子の先輩がいたことは、ご存じですか?」


「はぁ!?」


 ここにきて五年前の事件についての新たな情報が出てくるとは思わなんだ。


 しかし……えーと。

 確かさ、暮林さんの件では。

 幼なじみの彼氏が、なかなか振り向いてくれなくて、あきらめ半分で俺の告白を受け入れてくれたって流れだったよね。


 ひょっとすると、その幼なじみの彼氏は……


「安藤のやつ、その幼なじみの先輩のこと、好きだったんですか?」


「……その通りです。でも、その先輩の子は、安藤君のことは眼中になかったの。他に好きな人がいたから」


 なるほど。まさしく一方通行トライアングルだ。だから、あきらめようと半分ヤケクソで俺と付き合ったわけか、暮林さんは。


「腑に落ちました。でも、安藤が突然暮林さんにコナかけたのはなんでですか?」


「……安藤君は、ただヤリたかっただけだと思う」


「ですよねー」


「その当時の安藤君、一日二回が日課だったみたいだから。恐ろしいわよね、中学生男子の性欲って」


「いや確かに安藤も侮れないけど、なんで娘の幼なじみ男子の自慰事情をお母さんが知ってんですか!?」


「親同士のネットワークを侮ってもらっては困ります」


 みんな侮れないことだけはわかった。

 なんで母親ってのは、揃いも揃ってファンキーな性格してるのやら。


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