彼女ガチャに天井はあるのだろうか

 さて、退学を先延ばしにするとなれば、今後の身の振りかたを本気で考えねばなるまいよ。


 自分の長いような短いような人生を改めて振り返ってみよう。


 小学生時代から中学生時代にかけて、BSSRボクサキスキレア一枚。

 中学生時代と高校生時代に、それぞれNTRネトラレア一枚ずつ。


 この流れだと、大学生時代にもNTRの一枚や二枚来そうな予感がするよな。

 俺の彼女ガチャにはYDRヤンデレアとかTDRツンデレアとかDDRデレデレアとかは存在しないのか。やっぱ消費者庁に訴えるしかねえな、優良誤認。


 このまま彼女ガチャを引き続けて、いつか天井に到達して運命の目玉カードを引ければまだいいけど。

 最悪、天井に到達しないまま人生終了のお知らせがやってくることも考えられる。


 うーむ。

 これはもう、大学生活でKKKキムクレコジにかかわることは避けて、新しい彼女ガチャに課金するしかあるまい。NTRテロをまた起こされちゃかなわんし。


 でも、なんとなくだけど、俺がかかわりたくなくても、あっちから近づいてきそうな気もするんだよな……



 ―・―・―・―・―・―・―



 そうして次の日の朝。

 俺はとりあえず退学届を撤回しようと、大学窓口へ向かった。


 しかしそこでやはりエンカウントが発生する。


「あ、ゆうたくんおはよー! ねえねえ、昨日の様子がおかしかったけど、なにかあったの?」


「木村さんおはよう。今日も元気に抜き差ししてる?」


「……え?」


「ああごめん、まだ朝だったね。起き抜け一発とかしてなければオトナタイムはまだまだだよな」


「……??」


 俺が何を言ってるんかわからない様子のBSSRであるが。

 まあいい、ここでかかわるよりもまずはすべきことがある。


「じゃ、さいなら」


「え、ゆうたくんはどこ行くの? これから学部のカリキュラム説明が……」


「カリキュラムだかカリバキュームだか知らんが、俺はその前にすることがあるんで」


 俺は木村さんに背を向けて、その場を離れようとしたのだが。


「あ、じゃあわたしもつきあうよ。まだ時間あるし、せっかくだから一緒に行こうよ」


「……」


「ね? こうやって奇跡的な再会したんだしさ、小学生の頃みたいに仲良くしたいな……って」


 奇跡的、ねえ。

 木村さんは確かにかわいい。それは認めよう。髪型は昔と違って耳が隠れる程度のショートカットになったが、根本的なかわいさは変わっていない。


 そして、今も思ったけど、木村さんは結構素で思わせぶりだ。

 だからこそ悪ぶったオナチューの先輩とすらも、あっさりベロチューに進化余裕だったのかも。舌どころか暴れん棒将軍ソーニュー当選確実ではあるにせよ。


 いやまあね、べつに俺を裏切ったとか、そういうところまで行ってないから責めることはできないけど、そのあと道を踏み外して、不登校になったりとかパパ活してたとか悪いうわさは絶えなかったのがひっかかる。

 火のないところに煙は立たぬ、非のあるビッチにチソコは勃たぬ。


 というかチューボー時代にあれだけグレといて、よく大学に進学できたな木村さん。高校時代の木村さんは全く知らんけど、結構真面目に生活してたんかね。


 ──なんて小難しいことを瞬時に考察してた俺だが。


 はっきり言って、『奇跡的』という言葉には不快感しかなかった。

 なぜだろう、と言われたら、直感で、というあいまい理由だけどさ。


 そんな俺の不快感など知る由もなく、木村さんは俺の右腕に抱き着いてくる。

 まるで気の置けない友人に対する接し方だ。


「ね、ね! どこに行く用事があるの?」


「……学生窓口」


「そうなんだー! じゃあ全然余裕で間に合うよね。一緒に行こ?」


「……腕」


「……へ? あ!? ご、ごめんね、ついついゆうたくんに会えたことがうれしくなっちゃって抱き着いちゃった!」


「……」


「……迷惑だった?」


 いや、小学生時代と同じような感じで接されても困る。

 そう口に出すか出さないか、一秒ほど悩んで。


「……別に」


 俺は言葉を飲み込んだ。

 ま、NTRよりもBSSRのほうが一万倍ましだし。

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