真打は遅れてやってくるもんだ
「すまないね、こんな狭いところに二人もお邪魔して」
「他人の住んでるアパート、さらっとディスらないでもらえます?」
部屋にあげるんじゃなかったと本気で後悔したが、時すでにやすし。このおさわりまんの息子の名前はきっと一八だな。
「で、事件性がないってどうすれば信じてもらえますかね?」
「あ、ああ。まずキミと暮林美衣さんの関係を教えてほしいのだが」
「赤の他人です」
もう一度はっきりと断言。
「そんなわけなかろう? キミの名を錯乱しながらうわごとのように繰り返すなんて、何かしら事情があるとしか思えない。アレは病んでるぞ、心が」
「……」
まあ、俺が何も言わなくても、詳しく調べればわかってしまうかもしれないし、その間ずっと俺が疑われるのも嫌だな。
しゃーない、ゲロすっか。
「……五年前に別れた彼女です」
「は?」
「五年前に別れて、そこからずっと音信不通だったんですけど、大学で偶然再会して。昔のことを謝られたんですよ」
「……なんで、そんな昔のことを今さら謝罪したんだ、彼女は? 別れたのはお互い様じゃないのか?」
「お互い様じゃなかったんですよ。俺は浮気されたんですからね」
「……」
あああもう!
過去のトラウマよみがえっちゃうわ!
「……お気の毒です」
「しゃべったぁぁぁぁ!?」
そこで、今まで一切しゃべってなかったもう一人のけーさつかんがそんなことを口走ってきたので、思わず俺も瞬時に返しちゃった。
「あ、すいません。気遣ってくださったのに」
「……いいや。わかるぞ。浮気されるのって、心が死ぬよな……」
「ま、まさか……おまわりさんも、ひょっとして過去に……?」
「……コクン」
ガシッ!!
ここで俺は無口なほうのおまわりさんと腕を交わした。
お仲間か、お仲間だ! ひょっとしてこのおまわりさん、彼女がNTRされて脳破壊されちゃったから、無口キャラにジョブチェンジしちゃったんじゃね?
…………
……
「……そうですか。お巡りさんもつらかったでしょうね」
「ああ……まさか、彼女が自分の家に間男を連れ込んで四十八手チャレンジをしているとは思わなかったよ……」
「で、どんな制裁したんですか?」
「……四十七手目で浮気に気づいたので、四十八手コンプリートは阻止できた。それが制裁と言えば制裁だった」
「それだめなやつぅぅ!! そんな制裁、精彩を欠いてますよ! やるならもっとド派手に!!」
なんだか知らんが、サレ男同士でなぜか話が盛り上がった。ふしぎ!
一方、おさわりまんのほうは。
「……笑えねえ」
この上なく退屈そうにしている。
「すいませんね滑って!! でもですね、好きだった女が浮気してりゃ、ギャグも滑るような壊れた頭になりますよ! だいいち俺は中学時代だけじゃなく、高校時代にも彼女に浮気された、筋金入りなんですから!!」
「自慢できることか……?」
「……ほう、それはどのくらい悲惨な体験だったんだ?」
もうおさわりまんのほうは無視しよう。
「そうですね、実はその子も同じ大学に……」
ピーンポーン。
俺が不幸自慢を同類の前で披露しようと思ったら、チャイムの邪魔が入った。
……ん?
ちょっと待て、今度は冷静に。
ここに俺が住んでることを知る者は……
『あ、あの、遅くにごめんなさい……亜希、です』
呼ばれてないのに、噂をすれば浮気女登場だよ!!
というか住所知って即押しかけてくるか、普通!?
…………
あ。
ちょうどいい。公開処刑してやる。
「ん? お友達の訪問かね?」
「いいえまったく。というか紹介します、彼女は……」
俺はお巡りさん二人にそこまで言ってから席を立ち、玄関に向かって扉を開けた。
ガチャ。
「あ、突然ごめんね。雄太に話したいことが……」
夜の訪問ガチャも
だからこそ紹介せねばなるまい、それは課金したプレイヤーの義務だ!
「お巡りさんたちに紹介しましょう! ここにいる彼女が、高校時代に俺を裏切って浮気してくれちゃった元カノです!!」
「……え?」
「俺と付き合っておきながらも、義理の兄と俺を比べて、結局俺は捨てられましたー! アレは俺にとってめでたい最悪の出来事でした!」
「え、え、え……えええ!?」
ぱんぱかぱーん! とファンファーレを脳内で幻聴の如くかき鳴らし、浮気した罪人を紹介いたしましたが。
お巡りさん、二人とも茫然。
小島さん、なぜか一人で狼狽。
「え、え、ええ、ちょっとまって、なんで雄太のアパートに警察官がいるの? なんで? ひょっとしてわたしを捕まえるために? でもわたし捕まるようなこと何か……浮気? 浮気のこと? それとも竜一兄さんと散々ツイスターどころかツイストアンドシャウトしてたこと?」
ゲロりやがった。ゲロリアンめが。つまりツイスターゲームでシャウトの如くあえいでたってわけだな。だな。
「……ご、ごめんなさぁぁぁぁい!!」
どんな最悪の事態を考えたのか知らないが、脱兎のごとく小島さんは逃げ出した。
「……なんだったんだ、今のは」
「さあ? なんか心にやましいことでもあったんじゃないすかね。今度街中であの女を見かけて挙動不審だったら、遠慮なく職務質問してやってください」
「……もう帰っていいよな」
「……長居しすぎましたね。事件性は皆無ということで」
お巡りさんたちはそこで我に返ったようだ。
ま、義理の兄とのセクロスが条例に引っかかって犯罪になるかどうかはわからんが、けーさつかんを見るたびにキョドればいいさ。
これに懲りたら、むりやり俺のアパートに押しかけてくることもないだろうし。
よかったよかった。これにて一件落着……
……何も解決してないのは気のせいだと思いたい。うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます