おさわりまんこっちです
「はい、オカンが何か送ってくれたんかな……なんの荷物ですか?」
扉を開けた隙間から真っ先に目に入ってきたのは、紺色の制服だった。
「ざーんねんでしたー! けーさつでーすけどー!」
バタン。
「ちょ、ちょっと!?」
「こんな時間にコスプレするような変態に用はありません、どっかいって」
「違う、違うんだ、誤解だ! ついついキミの顔を見て、調子に乗ってしまったんだ、すまない!」
おまわりさんのくせに、なんで痴漢で捕まった時の弁解みたいな言い訳してるんだろう。思わず反射で扉閉めちまったけど、正解だったな。以後、脳内でおさわりまんって呼んでやる。
「えー? じゃあ本物のけーさつかんなら、証拠になるもの見せてくださいよー。手帳とか」
「扉を閉められたままだったら、何も見せられないじゃないか」
「……」
それもそうだ。
仕方ないので扉を三分の一だけ開けると。
ガツッ。
「ほら、これで信用してもらえたかな? まごうことなき本物の警察手帳だ」
「……いや確かに手帳は本物っぽいですけど、なんで扉のスキマに靴先を突っ込む必要があるんですかね? けーさつのコスプレした新聞勧誘員とかじゃないんですか?」
くっそ、失敗した。ちゃんとインターホンの確認だいじ。こんなめんどくさい訪問者だったら居留守とか使っておくべきだったわ。
だいいち、けーさつに連行されるような真似した記憶ねえしな。
…………
つーかね、オカンが小島さんにここの住所を教えちまったってことは、ひょっとすると小島さんが同じようなまねをする可能性無きにしも非ず。
以後気を付けよう、最大級の警戒をもって。
「そんなわけなかろう。キミもやましいところがないならば、いいかげんドアを開けてくれないか? 少しだけ話を聞かせてほしいのだが」
「……」
そう言われちゃ開けるしかねえわな。
というわけで扉を全開にすると、外にはアラサーっぽい年齢のけーさつかんが二名ほど突っ立ってた。
おい、二人で来てるなら、悪乗りしたおさわりまんを止めろよもう一方。
「……ところで、キミは上村雄太君、で間違いないね?」
「同姓同名がそんじょそこらにいられたら困ります。そうですけど……何を聞きたいんですか、俺に」
なんかこの状況を近所の人間に見られたら、俺が悪いことしたような感じに見えてしまう。とっとと答えて帰ってもらおう。
そう判断した俺は、素直に協力する態度を表明したのだが。
「実はな……今朝、キミが通っている大学の正門近辺で、倒れていた女子学生が救急車で運ばれるという事件が起きたんだが」
「あ、はい、それはちょうど大学行ったときに救急車とすれ違ったんで知ってますけど」
「その運ばれた女子学生の命に別状はなかったのだが……意識が戻ってから、うわごとのように『雄太君に謝らなきゃ、上村雄太君に』……と繰り返していてな」
「はぁ!? ちょっと待った、なんでそこで俺の名前が出てくんの!?」
「キミは、暮林美衣、という女子学生に面識はないのかね?」
「知りません。赤の他人です」
キッパリ。事実だから堂々と言えるわ。
「嘘をつくな! じゃあ、赤の他人だったらなんでピンポイントでキミの名前を繰り返してるんだ!」
「同姓同名の可能性考えてください」
「さっき、そんじょそこらに同姓同名がいられたら困るとか言ってたじゃないか! しらばっくれるんじゃない、
「いきなり犯罪者扱いしてんじゃねえよこのファンキーポリスが! あんた名前教えろ、けーさつの上のほうに、善良な一市民としてあんたの名前を挙げて抗議の電話してやるから!!」
「まあ落ち着こうか。とにかく少し話を聞かせてくれ、事件性がないか確認したいだけなんだ」
「手のひら返しやがったよこいつ」
もう一人のほうが全くしゃべらないで突っ立ったままなので、俺とファンキーおさわりまん(仮)しか話してない。ま、怒鳴り合いが正しいけどな。
そこで不意に、隣の部屋の玄関扉が開いた。
「うるせえぞ!! 何時だと思ってんだ! 近所迷惑も考……え……」
「ようコウイチくん」
「……」
俺の部屋の隣に住むコウイチくん、苦情に登場、でもすぐ退場。波乱万丈、人生劇場。
ここにいるのがけーさつかんとは思わなかったんだろう。よかったなコウイチくんよ、けーさつかんに怒鳴るというレアな体験ができて。
「あ、そうだおさわりまん。隣の部屋に住むコウイチくん(仮)なんすけど、泊まりに来る女の人が夜な夜な『コウイチ!! コウイチ!! ああっ!!』って繰り返してすごくうるさいんすよ。これって近所迷惑じゃないですかね?」
「……は?」
ついでにコウイチくんの性事情も巻き添えにしてやろう。これでビヨンドザウォールから聞こえる怨念にも似た愉悦の喘ぎを聞かされなくて済むようになるならば。
というかついつい『おさわりまん』とか言っちゃったけど気づいてないな。セフセフ。
「まあそれはそれとしてだ。われわれは民事不介入だから、恨み
「ぶん投げやがった……」
「とりあえず早く本題に入りたいんだが」
「誰がややこしくしたと思ってんですか。まあいいや、ここで話してると近所迷惑になる可能性が絶大ですので、入ってくださってけっこうです」
こりゃ、退学云々にかかわらず、このアパート引っ越すことになりそうな予感がする。敷金礼金ゼロのところ選べばよかった。
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