ファンク・マザー
たぶん電話に出るまで延々とコールされることは目に見えているので、仕方なしに通話することを強いられる俺。
正直、気乗りしねえけど、仕方ない、出るか。
「しもしも~?」
『あの、ノラのヒラ様のお宅でしょうか』
「いや、俺だけど」
『こーーーーのすかぽんたーーーーん!! あんたねえ! 何考えてんのよもう退学とか! 夜なべをしてせっせと手袋編みした内職の稼ぎで入学金揃えてやったっつーのに、大学辞めるんなら腎臓でも肝臓でも睾丸でも売れるものは売っぱらって入学金含めその他もろもろちんちん全額返しなさい!!』
「ド〇ンジョ様を母に持った記憶はないんですけど」
『え、ツッコむとこそこなの? なの?』
「というかいつ内職してたよ、俺の記憶には残ってないぞ」
『まあ、正確には夜に手袋編み編みじゃなくて、夜の玉袋揉み揉みして稼いでたんだけどね』
「おいコラちょっと待てシャレにならねえことやってんじゃねえよ!!」
『うそです!』
この会話で聡明な読者様は大体悟ったとは思うが、これが上村家のファンキーマザー、上村・ビアンキ・クリスティーナである。
名前からわかるように、日本人ではない。が、日本で生まれ育ったせいで、日本語が母国語。
ついでに言うと、義理の母、な。
『というよりも雄太!! あんたアホなのバカなの死ぬの!? 入学して二日目で退学するなんて、お母さんは雄太をそんな包茎で短小でソーローに産んだ記憶ないわよ!?』
「産んでねえだろ」
『そういえばそうね』
「突然冷静になってんじゃねえよ!!」
『ソーローでもいい、
「し〇こーさくはソーローだったんか……」
時間と通話料の無駄なので、雑談はこのくらいにしとこう。
一応保護者だし、状況説明は義務だな。
………………
…………
……
『ギャーッハッハッハッ!! バンバン!! ウケるわ!!』
「息子の不幸をここまであからさまに笑う義理の母ってのも存在SSRクラスだな、おい」
『不幸ってのは笑い飛ばしてナンボでしょ。そんなことでいちいち落ち込んでたら、鬱勃起すらできなくなっちゃうわよ』
「……」
言ってることはむちゃくちゃなんだが、それでも今の俺にはしみる。
オカンにしてみれば、俺レベルの不幸なんて、実際その程度にしか感じないんだろうが。
『それにしてもすごい偶然ね。まさか雄太が失恋した相手が三人も……』
「そうでしょ? 何の嫌がらせかと思ったわ。絶対確率操作してるよなあ、神様」
『チンポな、いえ、陳腐な言い方だけど、もしかして運命だったりしてね』
「おいちょっと待てなんでそこ言い間違えた絶対わざとだろわざとに違いない」
『早口でまくしたてないでくれない? ドーテイの余裕のなさがバレバレよ?』
いや童貞関係ねえだろ。
このオカンと話してると、ため息はデフォルトだ。
ま、それでも、このファンキーさに救われることも多々あったんだけどな。
だからなんだかんだ言って嫌いになれねえんさ。
『とにかく。退学はショタのアラサー女が幼稚園児に唾つけるくらい先走りすぎです。もう少し冷静になって、運命にも似た再会にどんな意味があるのか、考えてみるべきよね』
「……意味なんて、あるんかな?」
『さあ? ないならないでもいいじゃない。でも、雄太とわたしが再会したときのように、長い人生で二度も偶然が起きるのには、たいてい意味があると思うわ』
「……」
『雄太がこれから先、過去のNTRというものに縛られたくなければ、乗り越えたければ、何かしらやるべきことは絶対にあるはずよ』
母親モードのオカンの声に押し黙るしかできない俺。
正直関わり合いにならないで済むなら、それに越したことないのに。
人生の先達の言葉はいちいち重くて鋭い。
『だから、さっき小島亜希さんって人から電話かかってきて、雄太の今の住所を尋ねられたんで、つい教えちゃったんだけどね。テヘ☆』
「何てことしてくれたんだよ脳みそファンキーマザー!! 個人情報保護法は我が家では施行されてねえんか!!」
こればかりはかわいく言っても許されない。というか自分の年齢考えろこの若作りBBA。
『まあまあ、別に悪用されるわけじゃないし、いいじゃないの』
「悪用されるというか、都合よく使われる予感しかしねえぞ」
『そうなったとしても、それも運命よ。まあ、あれだけたどたどしく聞かれたら、母さんじゃなくてもきっと答えちゃうわね。しかも裏切った相手の家族が住む家に電話するなんて、相当勇気が要ったはずよ?』
「……」
『とにかく! 退学はいつでもできるわ。アンジェは喜ぶかもしれないけど、まだ雄太がここに戻ってくるのは早すぎる。もう少し、いろいろ考えてみなさい』
「……アンジェは、元気にしてる?」
『いちおう元気にしてるわ。雄太がいなくなってまだ沈んでるけどね。夏休みには帰ってきなさいよ?』
「……わかった」
うまく言いくるめられたような感がしないでもないが、まあ、スポンサーの意向は従うほかない。
通話を終え、俺は改めて考えた。
確かに、いつでもできるよな、退学は。
関わり合いになりたくないのは間違いないけど、だからといってこのままあいつらを避けて退学しようとしたら、俺は尻尾を巻いて逃げ出した負け犬に他ならない。尻が脱げ出した
…………
否!
……よし。俺なりに、過去から今に至る
あと、飯を食ったら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます