何が彼女を動かしている?

 衝撃のNTRネトラレア二連発だった次の日。

 天気ガチャは晴れ。うん、退学するにはいい日だ。


 というわけで、フトコロには相変わらず退学届けが入っている。おとこたるもの、覚悟が大事。念のため白いふんどしにしとけばよかったかもしれん。

 ポジティブなネガティブって大事なことよね。


 などと、いろいろな感情を巡らせつつ、大学正門前まで来たのだが。


 なんだか知らんが騒がしい……お、救急車が絶望のサイレン鳴らして走り去っていったぞ。あーあーあー、ってな。わりと重篤な容態っぽい雰囲気。


「あのよー、死人が出たんですか?」


 小市民な俺は何の騒ぎか気になって、正門前にいる人にそう尋ねてみたのだが、我ながら失言だった。いきなり天国の話されても普通の人は困るよね。

 心がささくれ立ってるときは、多方面に良くない影響が出るな。再度学んだ。


「ん? ああ、死んではいないようだが、そこの正門前の木の陰で、土下座の恰好のまま衰弱していた女子がいたらしくてな。救急車で今運ばれたところだ」


「……はぁ?」


 驚きの答え。


 土下座の恰好。

 女子。


 なんだか嫌な予感がする。

 というより、大学は夜に見回りとかしないのか。いや確かに24時間門は空いてるけどさ、衰弱してるっていうことはずっとそこにいたわけだろ?


 ……まさか、ね。


 まあいい、暮林さんもよっぽどのバカでない限り、家に帰宅しただろ。多分別人だな。それに死んではいないようだし、うん。

 無関係な他人にかまうより先に、とりあえず学部窓口に行って、退学届けを提出……っと、そのまえにいちおう昨日の電話の真意を小島さんに確認するべきなんだろうか。


「……あ」


 おっと、そんなことを考えていたせいなのか、大学に入ってすぐ、小島さんに遭遇しちまったじゃねえか。

 彼女ガチャはヒキ弱なのに、なんでこういうときだけ。


「お、おはよう……雄太」


「……おはよ」


「……」


「……」


 ってさー、なによ。昨日電話してきたのなら、何かしら用はあったんだろ? 今ならば強制終了もできないんだから、とっとと用件言えばいいのに。


「……」


「……じゃ」


 棒立ちフリーズした小島さんに付き合ってられんので、俺はその場を去ろうとしたのだが。


「ま、まって!」


 引き留められた。話をしたいのかしたくないのか、はっきりしてくれ。義理の兄と俺との間で揺れてた時のように、固有スキル・優柔不断を発動させんな。


「……」


「あ、あの、雄太はなんでこの大学に……」


 はっ。

 結局、昨日電話してきた用件ってそれか。ふざけろ。


「それはこっちのセリフだよ。俺を捨ててまで義理の兄貴を選んだくせに、どうして兄貴と同じ大学行かなかったんだ? この大学に合格できたんだ、地元の大学なんか楽勝だったろ?」


「そ、れ、は……」


「おまけになんだ、昨日の電話。聞きたいことってそれだったのか? ま、今さら何も話すことなんかないもんな。心配して損した」


「……え、えと」


に捨てられたあの日、これ以上なく打ちのめされて、だけどただただ幸せになりたくて誰も知ってるやつがいなさそうなこの大学に進学したっていうのに、また俺の幸せを邪魔するつもりなの?」


「あ……ごめん、な、さ……」


 おーおー、小島さん相手なら罵倒だけはすらすら口から出る出る。せめて高校時代に、このくらい勢いよく自分の分身を出したかったよ。


「じゃあ頼むから、用がないなら俺にかかわらないでくれ。じゃあ」


「あっ……」


 やっべ、涙がにじんできた。

 ごまかす意味でも、とっとと立ち去ってやる。


 ガシッ。


「ま、まって、雄太、ゆうたぁぁ!」


 しかし。

 小島さんに右手をつかまれ、罵倒後のすたこらさっさ計画は失敗した。

 思わず振り向くと、小島さんの顔が真ん前に。


 ……今にも泣きだしそうな顔だ。俺相手になんでこんな顔をする。わからん。


 本気でわからんので、思わず視線を下にそらしてしまう俺。弱い。


「……!」


 だが、すると、小島さんの伸ばされた腕に無数に存在する傷が、俺の目を奪った。


「小島さん……その傷」


「!?」


 しまった、とばかりに小島さんは腕を隠すも、時すでにお寿司。行動がトロかった、中トロくらいかな。


 ──ああ、そういや、小島さん自殺未遂してたんだっけなあ。優柔不断な態度に対し怒りのマエストロを発動させたせいで、きれいさっぱり頭から飛んでた。


 今さらながらそのことを思い出し、俺の怒りは少しだけ鎮まったようだ。

 ま、確かに殺してやりたいほど恨んだりはしたけど、それを知ってしまったからには、決してそのまま見殺しにしていいというわけじゃない。


 ため息をひとつ、ふたつ。


「……で、どうして小島さんはこの大学に来たの? 聞いてほしいんでしょ、それを」


 俺はそう小島さんに尋ねて、三つ目のため息をついた。


 ま、話聞くだけなら、いいか。下らん理由だったら水晶玉のサビにして差し上げるつもりだけどな。


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