7.翌日
今朝の太陽は眩しく温かく、けれど空気はまだまだ冷たい。
昨日の夜更かしが響いて、いつもより遅めの登校になってしまった。幸い、遅刻になることはなさそうだ。近いというのは素晴らしい。
あくびを噛み殺しつつ、住宅街をぽつぽつ歩いていく。学校に近づくにつれ、同じ制服の姿が少しずつ増えていく。
自動車の通りが多い交差点で、人の流れが止まった。赤信号だ。
「んー」
待っていると寒い。眠気覚ましも兼ねて、歩道橋を使おう。
そう意気込んで階段を上り始めたところで、歩行者信号が青に変わった。そういうものだ。
「ほっ」
疲労のぶん、橋の上の見晴らしはけっこう良い。車道が橋の下、その真ん中を突っ切っていくから、整然としてすっきりした感じを与えてくれるのだ。あとは単純に、高さが変わると自分の権能がちょっとだけ向上したような気分に浸れる。
心なし胸を張って、悠々と向かいの歩道へと繋がるスペースを進む。途中、なにやら黒いものが視界に映った。
もぞもぞ動いたそれは、上体を反らしたようだった。そこでようやく、黒色が主に背中であることに気が付いた。対して、おなかは真っ白。つまりこれは……。
「ペンギンか……」
見た目から類推すると、確かアデリーと呼ばれる
そのアデリーは、右翼を丸めて、器用に傘の柄を握っていた。どうやらこの歩道橋に捨てられていたものらしいけれど、状態は
結びを解き、傘を開く。ばっと軽快な音を鳴らして、空に緑青の生地が広がった。
くるくると傘を回して、使用に問題ないことを確かめたらしいあと、アデリーは傘を閉じようとして……閉じ……られない。背が足りないみたい。
「ちょっと貸して」
言葉が伝わるかは分からないものの、一応断ってから柄を取り上げ、傘を閉じてあげた。きちんと生地の部分をまとめ、結び目のボタンを留めて、アデリーの左の翼に手渡した。
彼(彼女?)はじっとわたしの顔を眺めたかと思うと、やがて興味を失ったのか、傘を紳士(もしくは淑女)然として持ったまま、ぺたぺたと足音を鳴らして行ってしまった。
行き先が気になるが、あいにく進行方向が反対。面倒なことに、わたしには学校が待っている。
人助けならぬ鳥助けを徳の糧として、急な階段を下っていく。
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