3.会話
次の授業が始まるまでの休み時間。休憩として、眠れない代わりに、眠ったふりをしていたら。
てしてしと、手の甲が頭を撫でる感触がある。おっかなびっくり、といった風だ。
「……?」
いったい誰がわたしを起こそうとしているのか。
考えられるとしたら、
好奇心に負けて、枕代わりにしていた腕から顔を上げた。
「あ」
先に声を上げたのは向こうの方、居田さんだった。間近で見ると、思ったより柔らかな印象を受ける。もっとこう、とがっている雰囲気を想像していた。
そもそも、もしそんな孤高を意識するひとだったら、くしゃみをしただけの人間に「おだいじに」などと声をかけないか。
ぼけっとしていたら、居田さんが申し訳なさそうに、再び口を開いた。
「具合、悪い?」
「んえ?」
想像だにしない心配が飛んできた。健康を気遣われている可能性なんて、一ミリも思いつかなかった。おかげで間抜けな返事が出てしまった。
「以前見かけたときも、くしゃみしてたし。昨日の授業も、なんだかぼうっとしていたみたいだから」
「風邪、引いてなければいいなって」
うむむ。なんて良いひとなんだ。この世の誰かにとっては余計なお世話と突っぱねる事柄かもしれないけれど、わたしは素直に嬉しかった。
「ううん、ぜんぜん大丈夫だよ。むしろ元気」
……ん? 待てよ。
「以前見かけたとき、"も"?」
問い
「あなた、よくくしゃみしてる」
そして、妙に片言めいたダメ押し。
彼女の言っていることはつまり、それだけわたしが常にさみしがっている可能性があるというわけで。
しかし、孤独を感じるとくしゃみが出るという法則は、結局のところ自分にしか判断できないものだ。だから、居田さんはわたしがなにか無理をしているのではないかと推測したのだろう。
いずれにせよ、恥ずかしいことには変わりない。
「あー」
「どうした?」
「いや、自分の愚かさを噛みしめていたというか、なんというか……」
不思議そうに見つめてくる丸い瞳から、逃げるように日差しのある窓の外へと目を逸らした。
とにかく、今後気をつけなければ。
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