5 放課後、ファミレスにて
そして、放課後である。
結局なんの話があるのか分からないまま、
途中で
のどかは姉とよく似た顔立ちをしているが、小柄で、目つきにも険がなく、なんだか小動物のような印象を受ける大人しい女の子だった。
(まるで覚えがない)
悪く言えば印象が薄い感じの子ではあるものの、だからといって一度でも会ったことがあれば、こうして面と向かえば思い出せそうなものである。
にもかかわらず、まるでピンとこない。完全にこれが初対面だ。
いったいどんな人物が現れるかと警戒していたのだが、まったくの拍子抜けだった。
「……マジで、誰? どういう用事?」
本人を前にしてこう言うのもなんだが、その時の貴緒は疲弊していたのである。
すると少女のどかはビクッと怯えた小動物のような反応を見せる。これには貴緒の方が戸惑った。
「こらこら
「――――、あ、ハイ。好きです。そしてごめんなさい。そんなつもりはなく」
「いやお前、春羽さんと何があったんだよ。そして年下女子をイジめるのが好きだって認めるなよ」
「和庭春羽が結成したのです」
なんだろう、和庭春羽って。運命共同体、お前の
「まあまあ、お茶しながら話しましょうよ」
そうしてファミレスに入り、窓際の席に着く一行。貴緒と
(告白なんてムードじゃないよな、これは。……中二か。俺が中三の時は中一。まあ接点がないでもないのか。でも覚えがない)
しかし、中学生――
「お前、ガチで注文するなよ。こっちが恥ずかしいわ」
「……いや、俺、滅多にこういうところ来ないから、珍しくて」
あと、今夜も
(さとりちゃんからの連絡はないが……)
それが気がかりだ。今頃は家に帰っているのだろうか。それとも今日もお泊まり継続なのか。
その辺りも春羽さんなら何か知っていそうである。ことがことだけに、このみちゃんの存在に言及する必要があるため、うまく聞き出せないのが困りものだが。
「で――お話というのは、なんでしょうか」
注文を済ませてから、貴緒は改めて野乃木姉妹に向き直る。姉の方は訝しげな、妹の方は若干怯えるような目でこちらを見ていた。
あたしはないけど、といった感じの顔をしていた野乃木姉であるが、先に口を開いたのは彼女だった。
「単刀直入に訊くけど、あんた、土日は何してたの」
「……土日?」
立希の方を見る。土曜は人生が変わるような出来事があった訳だが、それをどこまで話していいものか。そして日曜の件を春羽さん相手に正直に打ち明けてもいいものか。
立希にはさとりちゃんの友人の一人が春羽さんの妹だった、ということは伝えているが、その裏に流れる因縁については詳しく話していない。
「まあまあ、ののちゃん、順を追って話してあげないと」
「あんたはさっきからなんなの? 訳知り顔してるけど」
この二人、本当にマブなのだろうか。
ともあれ、春羽さんに諭され、野乃木は妹の方を示しつつ、
「このあいだ、和庭を呼び出したのはうちの妹じゃなくて、その友達だったらしいの」
「……お友達」
貴緒は知らず、姿勢を正していた。
何か、こう――直観が働いたのである。
「そう。姉であるあたしが和庭と同じクラスだったから」
「そのお友達とやらは、結局現れなかったけど。……だよね?」
春羽さんにも確認をとっておく。
「そうそう。だからその時に、和庭くんがその子を拉致した――という線はないんだなー」
「……拉致?」
なんだか不穏な話になってきた。
「そうなのです。順序を吹っ飛ばして結論を先に言っておくと――のどちゃんのお友達が行方不明になってるから、和庭くんがそれに何か関係してるんじゃないか説が出てるのね」
「……はい?」
「だから、土日のアリバイを聞きたいわけ」
と――野乃木の一言で、貴緒が自分が疑われているのだと気付いた。
「は、はあ……?」
「その友達……」
そこではじめて、野乃木の妹が口を開いた。か細い声で緊張を感じさせたが、どうやら初対面の時よりは警戒や怯えはなくなったようだ。
「和庭さんのことを、気にしてまして。一か月かそれくらい前から、なんですけど……」
顔を上げる。姉と違って、疑いや不信感のある目はしていなかった。
「最初は、『高校生の和庭という男子』を探してて。わたしも訊かれて、姉に確認をとって、そうしたら同じクラスにいるっていう話を聞いて」
横で頷く野乃木姉である。貴緒は理解が追い付かないながら、直感から姉の方を睨みたい衝動に駆られた。しかし話をしているのは妹の方である。そちらに向き合い、話の続きを促す。
「それから――先週の金曜、その友達に頼まれて、姉に和庭さんを呼び出してもらったんです。会うのは友達だけで、わたしは行ってないんですけど。わたしはてっきり、その子が和庭さんのことが好きなのかと……」
「…………」
「それからです。連絡が取れなくなって。……わたしたち、学生寮で同じ部屋なんですけど――週末はあの子、よく近くにある実家に帰るので、あまり心配はしてなかったんですけど――昨日、帰ってこなくて。今日も登校してないんです」
貴緒はなぜだかとても嫌な予感がした。
注文のドリンクが先に届く。それを待って、喉を潤してから、貴緒はのどかに訊ねた。
「その友達の名前、聞いても?」
「ゆかりちゃんです。
「!」
お前ー! お前らー!! ――と、貴緒は野乃木姉妹を指さして声を荒げそうになったが、寸前のところでドリンクとともにその叫びを飲み込んだ。
桐枝ゆかり――『黒幕』の名だ!
(ここか! ここから俺の情報が洩れてたんだ! そこが始まりか!)
最初は美聡から再婚の話を聞き、その相手に高校生の息子がいることを知って――
「和庭くん、大興奮ですなぁ」
「……だからあんた何なのよ。というか、和庭――やっぱり、何か知ってるんだ?」
やっぱり、とは。こちらは知らないことだらけだ、と反論したかったが、野乃木の眼差しは犯人を見るそれである。迂闊なことは言えない。なにせこちら、そのお友達とは浅からぬ因縁がある。だからこそ、ここは冷静になるべきだ。
「俺は、何も知らない。ただ、何度かニアミスはしてると思う。さとりちゃん関係で――」
「さとりちゃん……?」
と、野乃木妹に反応あり。
その時だった。
「んっふっふっふー」
春羽さんが意味ありげな声を上げた。
「ここからはこの名探偵・
「なんか知ってんならさっさと話しなさいよ」
「雰囲気台無しなんですけどー」
雰囲気も何もないが。
その時、注文した料理が運ばれてきた。
「……雰囲気ぶち壊しだな」
立希に揶揄されるが、貴緒が「お子様ランチ」を頼んだのは安かったとか子供舌とかそういう理由からではなく、こういうメニューを頼む年齢の子の感覚を知りたかっただけである。
まあそれはそうと、周りがケーキなどお洒落なメニューを並べている中、お子様ランチをつつく羽目になっているのは若干恥ずかしいものがある。
「まあ、これもアリだよね。今どきの女子高生探偵感ある」
と、春羽さん。何がアリなのかは分からないが、ケーキに舌鼓を打ちつつ、春羽さんは突然話を始めた。
「さとりちゃん関係の話は、ののちゃんもなんとなくは把握してるよね? のどちゃんのために説明してあげると――和庭くんのお父さんが再婚を考えていて、その相手の連れ子が、さとりちゃんという、つるペタ幼女」
野乃木妹が「あ!」といった感じの顔をするが、構わず春羽さんは話を続ける。
「和庭くんはさとりちゃんと仲良くなろうとあんなことやこんなことをしている訳だけど、」
「先生、語弊があります。……仮にも名探偵を自称するなら、正確性を心がけて説明していただきたいです。はい」
「どうやら、それをよく思わない人物がいるみたいなんですな。和庭家の幸せを妨害しようと暗躍する、第三者の存在――」
……ゆかりちゃんだぁ、とのどかが呟いているが、その通り。というか、友達に即犯人だと思われるゆかりちゃんとは、いったいどういう人物なのか――
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