第4話 巨大ロボットとディセアグリッパ車両センター
「何でアレがあそこにあるんだ!」
オスカーを押しのけテレビの画面にテルは張り付いて狂ったように叫んだ。
「ど、どうしたんだテル」
「昨日の宮殿での厄介ごとはこいつの処理だったんだよ! この巨大ロボはカエソニアとアントニアが作っていたんだよ! 昨日、宮廷で見つけて危ないからスクラップ工場へ送ったんだよ!」
「あれ妹殿下が作ったの?」
「そうだよ! <皇太子の武威>とか名付けて作り出した魔力炉を動力とするロボットだよ」
「こっちの名前もひどいな」
テルの姉妹と共産主義者のネーミングセンスの酷さにオスカーは呆れる。
「てか何でそんな物を」
「僕が非力だからどんな魔物、例えドラゴンが来ても安全に一撃で倒せるアイテムをプレゼントしたいから、だと。皇太子として強いことを帝国民に見せつけられるようにって」
「まあ、そう思うことは仕方ないけどさ」
特殊な能力は無くても才能においてテルが常人離れしているし皇太子として適任なのはオスカーをはじめ、テルを知っている人間はよく分かっている。
常識人で技術に詳しく、凡人の中では身体能力が良い。人当たりも良いし、好人物だ。
しかし、勇者の力を持ち、ドラゴンを単騎で葬るなど数々の武勇を示しているクラウディアに比べてテルは非常に地味で存在感が無いのも事実だ。
会ったことのない人間、報道などで目にする機会のない一般大衆には皆無と言って良い。
魔物を一撃で葬る姿をクラウディアが何度も撮影されていては仕方ないのだが、やはりそうした場面がないのはテルが支持を受けないし人に顔を覚えて貰えない原因だ。
「で、存在感を増すべく、例えドラゴンが出てきても攻撃にも耐えて、どんな相手も一撃で倒せる物として、あのロボットを作り出したんだよ」
テルはうんざりしながら答えた。
「兄思いの姉妹で良いと思うが」
「重すぎるよ」
慰めるオスカーにテルは、返す。
「レールや地面がめり込むくらいに」
工場から現れた巨大ロボットは工場の壁を蹴飛ばし、踏みしめたレールをその自重でねじ曲げながら前に進んできた。
そして胸甲部分を開くと、はめ込まれた宝石を輝かせビームを打ち出した。
ビームは機動隊の前に着弾し爆発を起こし、機動隊を下がらせた。
「見ての通り、運ぶだけでも大変で、動かそうものなら、あんな風に町を破壊してしまう。あんな物騒な武器も持っているし。使ったら攻撃力がありすぎて大変な事になる」
ドラゴンさえ一撃で撃破できる代物など異常なくらいの攻撃力だ。
「そんなものを帝都近くに置いておけないから――今みたいに悪用されたら困るから速攻でスクラップ工場へ運ばせたんだよ。空いているダイヤの筋を見つけて車両を手配して、部品単位にばらして運び出したのに、どうしてあんなところに」
昨夜の苦労は何だったのだろうと、テルの瞳から一筋の涙が流れた。
「てか、あんな物が出てきたんじゃ、治安維持のために憲兵どころか陸軍とか出て行く必要があるんじゃないか?」
警察はあるが、数メートルを超える魔物が普通に出没し、盗賊や異民族の襲撃がある帝国の治安維持には軍隊が出てくるのは普通だ。
都市部でも魔物が紛れ込んできたり、貴族の反乱鎮圧、最近の過激なデモを抑えるために軍隊が出てくるのは珍しくない。
「いや、あんな巨大な物を相手に出来ないよ」
絶望的な声でテルは答えた。
ロボットの全長は数十メートル。
今の帝国軍の装備だと広大な敷地にあるとはいえ町中に現れた分厚い装甲を打ち破れる装備などない。
八〇サンチ列車砲なら打ち抜けるが流れ弾が万が一発生すれば都市部に多大な被害が及ぶ。
「じゃあ、どうするんだよ」
「……こういうときに出てくるよ。英雄が、勇者が」
テルが半目でテレビを見ていると、カメラがロボットの背後の建物に立つ人物をうちし始めた。
プラチナブロンドの髪を風になびかせ、すらりとした長身ながらメリハリがあり美しい曲線を描く身体をアーマーに包み片手には大剣を持つ女性。
「クラウディア殿下」
テルの姉にしてユリアに次ぐ単体戦闘能力を持つ勇者だ。
「確かに殿下なら倒してくれる」
すでにドラゴンを下したり多くの巨大な魔物を倒した実績を持っており、倒してくれるという期待があった。
『クラウディア殿下だと。いやだとしても我々は負けはしない! 労働者の権利を守るために労働者の楽園を作るために前衛として我々は<労働者の怒り>を以て一歩も引かぬ! それでも阻むというならかかってこい!』
労働者のリーダーの言葉にクラウディアはひるまなかった。
だが、クラウディアも切れ長の瞳は険しく、眉もつり上がって深刻な表情をしている。
見たこともない巨大なロボットとの対戦など恐れてはいないだろう。
民間人の多い市街地での対戦を前に周りに被害が出ないか憂いているように見えた。
「なんか、どうでも良いことを考えているな」
だが、実の弟であるテルはバッサリと切り捨てた。
「なんてこと言うんだよ」
恐怖の巨大ロボットを相手に険しい顔をするクラウディア殿下をこき下ろしたテルにオスカーは言う。
いくら実の弟であっても言いすぎだろう。
「だって、あの顔しているときのクラウディア姉さんは、大抵どうでも良いこと考えているから」
しかし、テルは理は此方にあるとばかりの態で証拠を挙げて反論する。
「この前も久方ぶりに僕と姉様の休暇が合ったから、どこか遊びに行きましょうかと姉様に尋ねたら、あの顔でデートスポットの本を読んでいたし、出発直前も服を選ぶのにあんな顔していたもの」
「お前が愛されていることはよく分かったよ」
テルののろけをオスカーはバッサリと切り捨てたとき、クラウディアが動いた。
一直線にロボットに向かって飛び出し、突っ込む。
……かに見えて横を通り過ぎると先ほどまで大声で叫んでいた労働者のリーダーの元へ近づく。
『ひっ』
ロボットではなく自分を殺しに来たと思ったリーダーは怯えた。
『ま、待て、殺さないでくれ。とりあえず話し合いの環境さえ整えば良いんだ。俺は死にたくない。労働運動なんてどうでも良いんだ。俺が人の上に立つ踏み台なんだから』
言い訳を始めたリーダーも無視してその横をクラウディアは通り過ぎ、その後ろにある公衆電話の受話器を取りコインを入れて電話をかけ始めた。
「って、こんな時に電話をかけるなよ!」
オスカーが突っ込んでいる間にもクラウディアはダイヤルを回す姿がテレビに映っている。
「姉さんってたまにこういうことするから」
慣れているテルは、突っ込んだら負け、ということが分かっているので静観した。
「てか、こんな時にどこに電話するんだよ。非常識すぎる。相手先もきっと碌なところじゃないな」
さすがのオスカーも呆れて電話先含めて文句を言っていると、テルの部屋の電話が鳴り出した。
「って、ここかよ!」
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