第10話 渦中
セイドの入隊が決まった次の日、セイドは王城前まで来ていた。
というのもセイドは前日宿まで送ってもらう過程でそういう指示を受けていたのである。指定の時間に王城の前に来れば、王家直属部隊の騎士が迎えに来る、と。
だが予想外の人が迎えに来た。虎狼騎士団の副団長で、昨日模擬戦の審判をしていたルイスである。
「やあ、セイド君。待ったかい?」
手を振りながらさわやかな笑顔でこちらに近づいてくる。だが俺は気づいていた。俺がブロート第二王子に話しかけられたあたりから俺に向ける視線に負の感情がのっていたことを。そしてそれは今も。
「まだわからないことだらけだろうからね。ここについてそれなりに詳しい俺が案内させてもらうよ」
傍から見たらさほどわからない微弱な感情。上手だとは思うが俺が上手だと気づいている時点でばれている。どうやら俺のことが憎たらしいらしい。今体の力みが出ているということはそういうことだろう。
ちょっとした雑談をしながら到着したのは虎狼騎士団王家直属部隊の拠点。扉も内装も虎狼騎士団の本部と似たような見た目をしているが、さすがにこっちのほうが清潔感がありお酒の匂いもしない。奥には綺麗に整地された訓練場らしき広場も見える。
扉が開き副団長のルイスの姿が見えたことで中にいた騎士たちが集合する。そこで俺が自己紹介をする流れになる。
「今日付けで虎狼騎士団王家直属部隊に所属することになりましたセイドです。よろしくお願いします」
別に特別慣れあう気もないためごくごく無難な自己紹介となった。それでもパラパラと拍手の音が響き渡る。これが俺の王家直属部隊の騎士としてのスタートだ。
セイドによる不愛想というべき自己紹介を聞いていた騎士たち。その中で一人、目を輝かせる男がいた。ボサボサの藍色の髪のその隙間から覗く目がセイドを捉える。身に着けているものもとても戦闘を生業にしているとは思えないほどラフな格好。騎士というよりも商人のほうがまだ納得がいく見た目だ。
(あれが噂の新人君かぁ。これは多少面白くなりそうかな)
その男はセイドとシロカの模擬戦のときにはいなかった。というよりも普段からあまりいない。給料をもらっている身としてはありえないほど不真面目だ。
だが彼はそれが許されている。理由は単純。強いから。逆に言えば腕っぷし以外は期待されていないともいえる。
王家直属部隊に所属する身でありながら雇われ用心棒のような立場なのだ。だからというべきか部隊の中でも浮いており、誰からも話しかけられない。
そんな彼が初めて隊員、正確にはこれから隊員になろうという人間に興味を持った。
「セイド君だっけ?俺はアドラー。一応君のお仲間ということになる」
自己紹介のあと、数々の視線の中で一番熱を持っていた男から話しかけられる。俺の勝手な想像では自己紹介後もルイス副団長から追加でいろいろ説明されると思った。
が、その前に目の前のアドラーという男が「このあとは俺が引き継ぎますよー」とかいって今に至る。そのとき「普段ほとんど来ないやつがか?」とかなんとか聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにする。
そんなわけでアドラーからいろんな説明を受ける。
まずは虎狼騎士団王家直属部隊の業務内容について。王家の剣ともいわれるこの部隊は、一言でいえば王家の使い走りだ。
具体的には王家の人間からの調査依頼や王家を害する者に処罰を下すといったものだ。依頼の幅が広く、騎士側が依頼を断れる条件もあいまいであることから、ほかの騎士団から下に見られている。
ちなみに虎狼騎士団以外には王家の人間の身辺を守る王家の盾、
仕事の依頼は不定期であるため、特にノルマはない。だからこそアドラーは自由でいられるともいえる。またこれに伴い給料も基本給+歩合制となっている。王家の名前が入っているだけあってそういうところはきっちりしている。
ここで余談だが給料が安定したことで長いこと利用していた宿を出て、新しく一括で買った一軒家へと引っ越した。
「まあとにかく気楽にいろってことだ。あ、でも君確かうちの団長に喧嘩売ったんだってね。だったら忙しくなるかもね」
そんな一言を残してアドラーが去っていく。
今の言葉を額面どおりに受け取るなら、5年後に向けて鍛えるので忙しくなることを指していると考えられる。だが去り際のアドラーの含み笑いがそれだけではないことを予感させた。
セイドの案内をアドラーに任せ、その場を出たルイスはある場所に向かうため王場の廊下を歩く。すると前からある人間が近づいてきた。
日に焼けて全身が褐色になった女性。位の高そうな青ローブをさらしの上から直接羽織り、ダボついたズボンを履いている。背中にはあまりにもミスマッチな三叉の槍を携える姿は限界まで飾りつけたアマゾネスという印象を与える。
「今日も悪そうな顔してるねえ、ルイス」
会って速攻失礼ムーブをかましてきたこの女性は鯨月騎士団の団長、レイア・ペンテシアーガである。
代々海の戦士を数多く輩出してきたペンテシアーガ家の中でも天才と謳われる女性で、海に隣接する王都を海の脅威から守り続けてきたことから英雄視されている。
王都内の話でいえばアカツキ・シロガネ以上の人気を持つ存在で、さらにはオラクル王国の第一王女アンリとも交流が深いことも有名である。まさに人々が羨むステータスをすべて詰め込んだような存在だ。
「…あなたには関係ありませんよ、レイア殿」
「…どうだかね。まあ、あまり新人いびりはやめときなさいよ。いじめるくらいならあたしがもらっちゃうからね」
これがこの女の厄介なところである。ずぼらに見えて長として抑えるところはしっかりしている。第一王女の助けも大きいのかもしれないが、その第一王女の存在こそ厄介だ。情報源を断つことができないからだ。
「さて、お互いずっと駄弁っていられるほど暇じゃない。じゃあな」
そういって立ち去ろうとするところでルイスは突発的に思いつく。
「うちの新人に興味があるんですよね?なら一つ提案があります」
この提案によってセイドは入団から数日で早速振り回されることになる。
アドラーからの説明が終わった後、セイドは暇になっていた。ほかの騎士団員は訓練場で修業をするか仲間内で雑談をしている。アドラーと話す様子を見られていたためか、あれから話しかけられる様子がない。
「帰るか」
誰にいうでもなく独り言ちると、拠点を出るのだった。
王城を出た俺はアカツキの元に向かった。着くとそこで俺はアカツキに頼み、『錬気』の拡張の修行をする。前回は手掛かりも掴めなかったが、今回は『錬気』を薄く延ばす感覚がなんとなく掴めた。だが感知するためにはまだまだ時間がかかりそうだ。
ルイスと別れたレイアが向かったのは鯨月騎士団の拠点。王城と海との中継地点に構えるそこは常に所属の人間が忙しなく動く。自然を相手にする騎士団だからこそトラブルは四六時中舞い込んでくる。また海は貿易の拠点にもなっているため人的トラブルも起こっており、その度に騎士たちが仲裁のために駆り出される。
「第3波止場で貿易商同士がトラブルを起こしているそうです」
「仕事を片付けてきたばかりで悪いが、第8部隊に向かってもらう」
「了解です」
そんな声が多方面から聞こえる。
だがそんな声もレイアがきたのを皮切りに止み、団員たちが一斉に近づいてくる。
「お前ら、忙しいところすまないが明日手が空いているやつはいるか?」
「すみません、動けそうなのは新人のアルマ・イルマ兄弟くらいです」
「ちょうどいい、明日そいつら借りてくぞ」
そこで理由を聞かれたので答える。
「うちで長年抱えていた依頼があっただろ?あれをそろそろ消化しようと思ってな」
鯨月騎士団に舞い込む依頼の中にはずっと未解決のままの依頼というのがある。それが船着き場に
目立った被害はないがただただ邪魔くさい。しかも何度追い払ってもやってくる。危険はないが面倒な依頼だからしばらく放置されている。依頼してきた貿易商たちも半ば諦めの境地だ。
「虎狼騎士団のルイス副団長から面白い提案をされてな。ついこの前入った虎狼騎士団王家直属部隊の新人とうちの団員と合同でこの依頼を解決しようって話になったんだよ。どうやらあの第二王子に気に入られたらしいからな。あたしもどんなやつか気になるし、場合によっちゃ引き抜くのもありだろ」
これには部下たちから猛反発される。いわく「団長ほどの人がなぜそんな些末なことに首を突っ込むんだ」ということらしい。しかしそんな反対意見など知ったことではないといわんばかりにごり押し。明日アルマ・イルマ兄弟を連れて、セイドと一緒に水鳥たちの駆除をすることになったのだった。
百年剣聖のセカンドライフ 荒場荒荒(あらばこうこう) @JrKosakku
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