15 第二王子の独白
ロッティー義姉様が小さくなっていた!
いや、正しくは僕も子供に戻っていたのだけれど。
あの日、自分の人生の終焉を覚悟したが、目覚めると幼い子供の肉体になっていた。
はじめは地獄にでも来たのかと混乱したけど、周囲の者たちと関わるにつれて現実味を帯びてきたのだ。
本当に時を遡ったのだ、と。
僕がまず気を付けたことは自身が過去に戻ったという記憶を保持しているということを周りに悟られないこと。
特に兄上だ。
兄上は過去でロッティー義姉様を蔑ろにしたどころか有らぬ罪を着せて愚かにも彼女を処刑台へと送った。僕は必死で抗議したが兄上は全く聞き耳持たずに、あろうことか僕を盲言を吐く狂人だと軟禁したのだ。
そして、いつの間にかすべてが終わっていた……。
僕は二度とあのような悲劇を繰り返すわけにはいけない。
ロッティー義姉様とヨーク公爵家をまた没落させるわけにはいかないのだ。
僕は父上にロッティー義姉様と婚約したいと申し出た。自分は立場的にも不安定だから名門出身のしっかりした令嬢に支えてもらいたい、とかもっともらしいことを言って。
だが丁度そのとき、兄上の婚約者候補たちとのお茶会の話が出ていて、しかもロッティー義姉様はその最有力候補だと聞かされた。
ショックだった。
神様は今回もまた彼女を苦しめるのかと。
僕は自分もお茶会に参加したいと駄々をこねて……既に精神年齢は成人の自分にとって慚愧に耐えなかったが……母上も味方に付けて無理矢理にお茶会の参加権を手に入れたのだった。
小さなロッティー義姉様は物凄く可愛かった。
零れ落ちそうなくらい大きな瞳と、控えめな小さな口。頬がぷにぷにしていて思わず触りそうになってしまった。淡いエメラルドグリーンのドレスを着て、まるで妖精さんみたいだ。
僕は一瞬で心奪われた。
……いや、前回の記憶のときから既に奪われてはいるか。
ロッティー義姉様は小さな身体でお手本のような綺麗なカーテシーをしたと思ったら……はじめに失敗したときは笑ったけど……チェリーパイを前にしてキラキラと瞳を輝かせて、とっても美味しそうにぱくついていた。その姿が愛らしくて僕も自然に頬が緩んだ。
気になったことは、ロッティー義姉様が兄上との婚約を辞退しようとしたことだ。
たしかに自分としてもそのほうが都合がいいけど、前回の記憶のときは義姉様は兄上に一目惚れしたと聞いた。それからずっと兄上だけを心から慕っていた。
ちょっと……かなり悋気で過激なところはあったけど、それほど兄上のことを愛しているのだと思っていた。
なのに今回の対面では義姉様は兄上に好意を寄せる様子はなく、拒否の姿勢をとった。前の彼女を知る僕にとってありえないことだ。
もしかすると義姉様の心の中に無意識に前回の記憶が残っているのだろうか。
それとも、過去の出来事をはっきりと覚えているのだろうか……?
いずれにせよ好機だ。
二人が近付かないことが破滅を回避する一番の方法なのだから。
僕はお茶会のあと、父上のもとへ行って改めてロッティー義姉様と結婚したいと伝えた。
しかし、タイミング悪く兄上も父上に公爵令嬢と婚約の話を進めたいと言ってきた。
前回の兄上の義姉様への仕打ちを覚えている僕は頭に血がカッと上って兄上を殴りそうになったが、寸でのところで理性を働かせて我慢した。
だが、最悪なことに父上は兄上の希望を優先すると言ってきた。
兄上は次期国王だし、なによりヨーク公爵家の令嬢を王妃にするのは政治上でも都合がいいからだ。
僕は粘ったが、駄目だった。
僕は政治的な理由でなくロッティー義姉様のことを本気で好きになったんだと主張したが、父上に一蹴されてしまった。母上だけは僕の味方をしてくれたが、国王である父上を二人でどうこうすることはできなかった。
今日は兄上とロッティー義姉様の二回目のお茶会だった。
このまま順調に行けば二人の婚約は決まってしまうだろう。
まだ成人もしていない非力な第二王子ではどうすることもできない……。
でも僕はロッティー義姉様を救うと決めた。
そう遠くない未来に兄上と男爵令嬢が彼女を陥れて断罪する。
そうならないために僕は力を付けて絶対に阻止してやろうと心に誓った。
兄上たちの計略を全部暴いて、逆に処刑台へ送ってやる。
そして……今度こそロッティー義姉様を僕が幸せにするんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。