第23話 帰らずの森混成魔物部隊掃討戦 終
理性こそないが圧倒的な力を感じる。
アーサーはその姿のセリムを脅威とは感じていなかった。
力は強くなったのだろう。だがそれで負けるわけがない。怪物を葬ってきたのはいつの世も人間なのだから。
「世の中は弱肉強食と言われるがそれが全てじゃない。確かに力が弱ければ奪われるしかないんだろう。でもな、どんなに力が強くても全てを手に入れられるわけじゃないんだよ」
セリムが腕を振るう。
覚醒前に比べ威力は段違いだ。
腕を払い除け斬りかかる。そこに尻尾が迫った。
咄嗟に弾くがすぐに腕が。足が。絶えず連撃となって襲い来る。
たてられた爪が剣の表面に傷をつける。
片手では押し切られる。かと言って両手で受ければ手数の差で押されてしまう。
防御に専念すれば捌けないこともない。それではセリムを救済できない。
負傷前提の戦法をとった。
わざと隙を晒し攻撃してきた所を一気に叩く。
(俺の体… 保ってくれよ)
一撃受けるごとに細かなヒビがいくつも出来る。
同じところを叩かれ鎧が砕ける。
魔力での補修と破壊が拮抗していた。
アーサーは上段の構えを取り胴を空けた。
狙い通りセリムの尻尾がアーサーの脇腹を叩く。爆弾が爆ぜたかのような衝撃。
痛みに堪え構えた剣を振り下ろす。
――剣技
一点集中型の攻撃を受けた尻尾だが断ち切れず驚きに目を見開く。
致命的な隙を晒した。
防御が間に合わない。
理解したときには遅かった。
アーサーは胸部に掌底を受け吹き飛んでいた。
正常な呼吸できない。
肋骨が肺に刺さったようだ。
地面に剣を刺し威力を殺す。
セリムは容赦なく襲いかかってくる。
「がはっ
血を吐きながら叫ぶ。
地面から光の鎖が伸びセリムを拘束するべく舞う。
獣よろしく木を駆け地面を駆け避けていく。
全ての鎖をすり抜けアーサーに迫る。
アーサーまであと1mもない。
アーサーは2本目の剣を抜き地面に刺し込む。
先程と同じ聖剣技――
セリムは真下から生まれた鎖に囚われた。
光の鎖が触れた闇は心なしか薄くなっているように見える。
(悪魔付きなの、か?)
異次元の彼方に存在するとされる悪魔。
悪魔に絶大なダメージを与えるのが聖騎士だ。
聖騎士は悪魔を滅する為に存在するといってもいい。
アーサーはそこに活路を見出した。
地面を削り衝撃を殺したせいで剣はボロボロ。
ただでさえセリムに削られてヒビが入っていた。
2本目の剣は拘束中で使えない。
無茶な使い方をしたことを剣に詫び、もうひと踏ん張りだと励ます。
剣を支えにして立ち上がった。
(ふらつくな… 体が重い。さっきのがかなり効いたか)
両手で剣を持ち上段に構える。
「セリム。これがお前のせめてもの救いにならんことを」
剣に光が集まりだす。
鎖から逃れようと暴れるセリム。徐々に鎖にヒビが入り壊れるのも時間の問題だ。
光が全て剣に収束する。
剣を包んだ光は1本の柱のように天を裂き、全てを照らす。まるで神が降臨するための道標のよう。
セリムにもそう見えたのだろう。
一層強力に暴れ出す。
アーサーが一歩踏み出す。
「
光の奔流がセリムを飲み込んだ。
辺りを煌々と照らし森を切り開く。
光が収まると完全に鎖はきえていた。
全身に傷を負ったセリムが地面に落ちる。
まだ生きてはいるようだが満足に動けないようだ。
アーサーはふらつく足を叱咤し歩き出す。
体を覆っていた闇は殆どが払拭され元の姿に戻っている。
目だけを動かしアーサーを見るセリム。
言葉にならないうめき声を発する。
「み、い…お、は…こ、せ…」
アーサーにはそれがなんとなく分かった。
「そう、か…
けどこれが結果だ」
セリムは聞き終えることなく目をつむっていた。
完全に意識が落ちている。
剣を構える。
先の一撃で完全にガタがきている。
あと1度振れば折れてしまうだろう。
それでも一撃触れれば問題ない。
別れの一撃。
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