第20話 帰らずの森混成魔物部隊掃討戦③
魔法が一斉に放たれ魔物の数を減らす。
掃射部隊の面々は歯噛みした。
減らしたら同等の速度で後から後から湧いてくる。
これではいくらやってもきりがない。魔力が先に尽きてしまう。
戦闘はまだ序盤。
ポーションを消費することに躊躇が生まれても仕方ない。
魔物は仲間の死体を盾として使い魔法を防ぐ。
中には鎧を着ている魔物まで居る。
ゴブリンなどはそういった魔物の後ろに隠れて徐々に冒険者サイドに迫っていた。
「今だっ!」
魔術師が叫ぶ。
魔物が1番密集している箇所を起点に地面にヒビが入る。
クモの巣状に割れた地面は
事前に仕掛けていた落とし穴だ。
各戦場に同様のものがいくつも仕掛けられている。
迂回するが間に合わず何匹も落ちていく。
100匹近くは削ることに成功しただろうか。
ここからはもう罠はない。
正真正銘真正面からの戦いになる。
やはりというべきか掃討部隊の中で最も戦果を上げているのはアーサーだ。
唯一のAランク冒険者。他の冒険者に比べ頭2つ分は抜けている。
圧倒的な殲滅速度で魔物を切り裂く姿は仲間を活気づける。
それでも戦況は好転しない。
アーサーの快進撃が止まる。止められた。
ズシンと。大地を揺るがす振動と共にやってきた巨躯。
額から天に向かい伸びる湾曲した2本の角。口元にはあらゆる物を削ぐだろう牙がずらり。体を血で赤黒く染めた姿はまさに鬼。
Bランクモンスター。オーガだ。
「こんなやつまでいんのか…」
髪をかき上げ嘆息する。
アーサーの目前に立ちはだかったのはオーガだ。
だが色が違う。
通常のオーガは赤色をした巨漢の鬼。関取のような姿をしている。
目前にいるのは長身痩躯で青色の姿だ。
自然界で力をつけ条件を満たした魔物が進化することは確認されている。上位種と呼ばれるそれらは総じて戦闘能力もタフさも何もかもが跳ね上がる。
オーガは元来Bランクモンスター。
上位になればランクが1つ上がる。
青色のオーガは変異種。
何かしら特定の条件下で進化とは違った変化を遂げた種。
上位種同様全てにおいて元の魔物とは異なる。
つまりこいつはAランクモンスター。
掃討戦に参加しているAランク冒険者はアーサー1人。
青オーガの相手はアーサー以外には出来ない。
「あぁぁ ぐぅぅが」
変異種オーガは握っていた冒険者の死体を投げた。
地面に付くほど長い腕から繰り出される一球。
地面を転がり避けたアーサー。
背後の地面が爆弾でも使われたように爆ぜた。
痩せこけた見た目とは裏腹なパワー。加えて腕の長さもあって近づくことは容易ではない。
変異種オーガが腕の鞭のように操る。
(硬てぇ…)
腕を切り落とそうとしたが刃が食い込まずに跳ね返された。
直後関節を無視した動きをする腕。
アーサーは腰の2本目の剣を抜いた。
弾かれた長腕が宙を泳ぐ。
もう一歩の腕をアーサーに向ける変異種。
腕に沿うように剣を滑らせ一気に肉薄する。
――剣技
一点集中型の一撃。
逆袈裟の一撃はオーガの胸を切り裂いた。
だが傷は浅い。僅かに血が垂れる程度。
オーガは不気味な笑みを浮かべた。
腕が別の生き物のように動きアーサーと自身を纏めて縛り上げようとする。
――剣技
迫りくる腕を剣で殴り弾く。
この剣技は反射する物体がある限り効力を失うことはない。
何十回目かになると変異種の腕の中にポッカリと空間ができあがる。
オーガが口を開く。
最後の悪あがきとしてブレスを放った。
とっさに剣を十字に構えてガードする。
ブレスは液体を収束させたものだった。
剣を伝いアーサーの手に落ちる。
手に焼けるような痛みが奔った。
毒だ。
(毒々しい見た目にぴったりな攻撃だなクソが!)
ブレスが止むと再度腕の包囲網が狭まる。
アーサーは剣を1つ手放した。
両手で1つの剣を掴み上段に構える。
剣に光が集まっていく。
光が限界まで達すると一気に振り下ろした。
「
聖なる光の奔流。
光は前方にいた魔物のことごとくを飲み込む。
影さえも消し去り全てを聖なる一撃が浄化する。
騎士の派生職業――聖騎士王。
第3次職の専用スキル。
3次転職だけあり威力は桁違いだ。
後に残ったのはえぐり取られた地面だけ。
アーサーを囲んでいた腕を残し変種オーガは消滅した。
焼けた手をポーションで治す。
体が熱くなるのを感じる。
レベルが上った証拠だ。
「思ったより速くなくて助かった」
もし変異種オーガの速度がもう少しあったら1人では勝てなかった。
そうじゃなくても切り札の1つを使わされた。
改めて魔物のデタラメさには呆れる。
Aランクは始末した。が魔物はまだまだいる。
アーサーはため息を着いた。
まだまだ休めそうにない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます