第19話 帰らずの森混成魔物部隊掃討戦②
遠距離夜襲部隊Aが森に入って十数分。
”夜目”を持つ冒険者の先導で目的の場所を見つけることに成功した。
事前に偵察に出た冒険者から地図を作って貰っていた。夜道であることを考慮してもかなり早い到着だ。
近づくにつれ強くなる悪臭。
間違いなく近くに魔物はいる。
確信を持つ面々。
枝葉を分け目的の座標に着いた一行は固まった。
そこは人工的に切り開かれたエリア。
事前情報では種類問わず魔物がごった返している場所だった。
はずなのだ。
「いない… どういうことだ?」
先導を務めていた盗賊職の男が声に出した。
静かな森で男の子声はよく通った。
周囲の冒険者は盗賊職の男の疑問を訝しむ。
居ないわけ無いだろうと。
600体もの大群が森の中で隠れるのはさすがに無理がある。
洞窟でもあれば隠れられるだろうが生憎と見当たらない。
そもそも混成魔物部隊というだけあって体格も様々。全ての条件を満たして隠れられる場所を見つけるのは至難の業だ。
夜襲部隊はどうするか相談する。
夜襲部隊の攻撃をもって掃討戦は開戦となるはずだった。
モンスターが見当たらない。これでは開戦を知らせることも出来ない。
誰かが言った。
「見間違いでは? そもそも600もの大群、それも混成部隊が一箇所に集まって大人しくしているというのがおかしいですよ」
では我々は白昼夢でも見ていたというのか。
冒険者たちは頭を抱えた。
「取り敢えず皆の元に戻って報告しましょう。班を2つに分けます。ここに残り状況の推移を見守る班。報告に戻る班です」
夜襲班リーダーの女性が意見する。
相談の末リーダーを含めた2班――キャスター班と呼称(10人)はこの場に残ることになった。
盗賊を含めた残りの1班――アサシン班と呼称(5人)が報告へ戻る。
アサシン班が報告に森の出口へ向かう。
夜襲班には夜目持った冒険者が2人配属されている。
アサシン班に1人付けているのでキャスター班にも1人。
全ての範囲を1人で網羅することは出来ないが何かあれば逸早く気づくことは出来るだろう。
「リーダー。ちょっといいですか?」
「何ですか?」
若い魔術師の男が怪訝な顔で訊ねる。
「魔物がいないなら僕達も戻って良かったのでは? わざわざここに残ってリスクを背負う必要はないと思います」
「そうね。でも念の為よ」
男はリーダーの真意を理解できない。
リーダーの女性はこの場にただならぬ違和感を感じていた。
魔物はいない。なのに強烈な悪臭が漂う。
先程まで存在していた名残と言われればそれまでだが。
女性は直感で感じていた。魔物は近くにいると。
その直感は正しかった。
「おやおや。お早いご到着で。お出迎えが遅れてしまい申し訳ありません」
夜闇に混じり響いた声。
粘性を持ったかのように纏わりつく。気色が悪い。
鳥肌が立つ肌を擦る。
月明かりに照らし出されたのは青年だった。
右目にモノクルを掛け薄気味悪い笑みを浮かべている。
タキシードに身を包む姿は紳士にも見える。気味の悪い笑みさえ浮かべていなければ。
冒険者は青年に武器を構えた。
気配なく現れた存在。それだけで相当の実力者であることは自明の理。
「少々準備に手間取ってしまいましてね。お詫びと言ってはなんですがご存分にお楽しみ下さい」
胸に手を当て恭しく頭を下げる。
冒険者たちは息を呑んだ。
青年の背後に突然大量の気配が出現したから。
赤く光る2対の目。
数えるのが馬鹿らしいほどの数。
今までどこにいたのか。
どうやって隠れ仰せていたのか。
疑問が浮かぶが意識を切り替える。
「総員応戦準備!」
リーダーの女性が叫ぶ。
青年の横をものすごいスピードで駆け抜けるモンスターたち。
戦端は開かれた。
◇
一斉掃射部隊、掃討部隊は夜襲部隊の合図を待っていた。
中々合図が来ず弛緩した空気が漂う。
地響きかと思うほどの振動が伝わってきた。
直後。
森の奥で爆発音が響いた。
夜襲部隊が魔物に魔法を打ち込んだ合図だ。
弛緩していた空気は消え去り誰もが気を引き締める。
緊張感とやる気を綯い交ぜに落ち着かない雰囲気の冒険者達。
そこへ予期せぬ自体が起こった。
森から上空へ向けて色とりどりの魔法が飛び出している。
鳥でも狙うかのように狙いが何度も切り替わっていた。
「何だ? あんなの作戦にはなかったはずだが」
冒険者の集団がザワつく。
飛行型の魔物は確認されていない。
森から慌てて夜襲部隊の面々が駆けてくる。
数は3人。
2人減っている。
「どうした!?」
アーサーは先頭の盗賊の男に問いかけた。
息を切らす男。
息を整えるのも惜しいとばかりに一気に話した。
魔物の姿が見当たらなかったこと。
報告に戻る最中背後からいきなり戦闘音と魔物の進行音が響いてきたこと。
仲間が魔物に食われたこと。
思わず舌打ちするアーサー。
先程見えた爆発や魔法は予定通りに行われたものではなく、予期せぬ事態にやむを得ず応戦したということになる。
そして、報告に来た者たちまで襲われたとなれば残った斑の生存は危うい。
再度舌打ちしたアーサーは大声で指示を出す。
「総員構えろ! 来るぞっ!」
戦意を高めた冒険者。その直後に戦意が削がれた。
森から出てきた魔物はまるで軍隊のように規律だった姿でやってきた。
全員が武器を持ち、落ち着き払っている。
魔物であることを疑ってしまうレベルだ。
「撃てぇ!」
アーサーの怒号が響く。
一斉掃射部隊から魔法の雨が降り注いだ。
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