第18話 帰らずの森混成魔物部隊掃討戦 作戦開始
深夜2時。
壁門前には多くの人の姿がある。
壁門前を照らすように篝火が焚かれ明るく照らす。その周りには多くの人が集まっている。
暖を取っている訳だが明かりに集まっているようにも見える。
さながら誘蛾灯に集まる虫と言ったところか。
季節は秋。
10月。
肌寒く上にローブなどを羽織っている姿が多い。
全身鎧を着用している者はサイズ的に無理なので着ていない。それ以外はほとんどの者が羽織っている。
持っていないものはギルドが用意した安物を羽織っている。
セリムがそうだ。
カルラの許を旅立つ時に持っていくか聞かれたのだが断っていた。
嵩張るものを持っていたくなかった。だが今になって持ってくればよかったと後悔している。
(冬になる前に服を買わないとだな)
今回は冒険者ギルドが用意してくれた。それでも一時的なものだ。
今作戦が終われば回収される。
貰えないかと聞いたセリムだがすげなく断られた。
支給された物資は緊急事態などが起こった際に使用を予定された物なのだ。
魔物が都市を襲撃してきたときなどがそうだ。
今回は防衛戦ではない。が、掃討戦が失敗すれば防衛戦に移ることになる。
なんとしてでも成功させるため都市として手を抜けない。
提供される物資はローブを含めた防寒具一式。
怪我及び毒などを治療する薬。
魔力回復薬。
予備の武器。
数に限りがあるためにいくつも渡すことは出来ない。それでも薬類は1人1本は配られるだろう。
「勝てると思うか?」
セリムと同じ班でリーダーを務める戦士職の男――ガイ。
もしもの為に壁門前で武装する兵士を見て問うた。
「んなもん俺が知るか」
「…それもそう、だよな」
ガイの顔色は悪い。
ガイだけでなく集まった冒険者の多くがそうだ。特に低ランクは。
ギルドで作戦説明を受けた時は実行まで時間があった。
心に余裕を持つことも出来た。
作戦決行間近になり怖気づいているのだ。
冒険者の数は100余り。対して魔物は600体。
アルス最高戦力であるレイニーは参加できず総指揮はアーサーが取ることになっている。
「怖いなら今からでも帰れよ。ビビって動けないなら邪魔でしかない。居ないほうがマシだ」
セリムの辛辣な言葉にガイは唇を噛んだ。
怒りよりも悔しさがあった。
年下の少年にこうも言われて情けない。
(でも、ビビるなって言う方が無理だろ)
セリムは何故怖気づかないのか。ガイには不思議でならない。
ランクで言えばガイのほうが上だ。
オードとの戦いを見て実力はセリムが上だと認識している。
だがそれでビビらない理由にはならない。
「セリム。君は怖くはないのか?」
「さっきも言ったよな。怖いなら帰れよ」
「…そりゃ怖いさ。でも今はそういうことが聞きたいんじゃない!」
大声を出すガイに眉を顰めるセリム。
周囲から何事かと注目が集まってくる。
「何で君は倍以上の敵がいるのに平気で居られる? もしかしたら死ぬかも知れないんだぞ」
「それがどうした? 生きてれば死なんて何れ訪れる事象だろうが。今日死のうが明日死のうが同じ死。時期が違うそれだけの問題だろ」
セリムの言葉は命を軽んじていると感じられた。
当然セリムに死ぬ気などない。
目的がある。
それを成すまではどんなに手を汚そうとも生きると決めている。
心が変質して以降忌避感は薄まった。
おかげで気を病む事態にならない。
「俺は、君のようには考えられない」
経験の差と言うやつだろう。
境遇の差とも言う。
セリムと同じ考えに至るには心が壊れる必要がある。
「俺からも聞いてやる。震えてそれで何になんだ? 震えてれば敵は逃げるのか? 震えてれば敵を倒せるのか? 違うだろ。震えた結果力を発揮できずに無様を晒す。それこそお前の恐れる死だ。
敵は殺さなければ安全になれず安心を得られない。死を遠ざけたければ敵を殺せ」
セリムは苛立ちを覚えた。
震えて恐怖して逃げて――失う。
村を終われた時の自身のようで見ていて吐き気がしてくる。
「それが出来ねぇなら失せろ」
射抜くような視線。
ガイは無意識に1歩下がった。
どれほどの経験を積めばこれほどの意思を宿せるのか。
今までに積んできた経験が天と地ほども違う。
ガイはセリムが過酷な人生を歩んでいるのだと理解した。
物資の配給が終わると今回の総指揮を取るアーサーが先頭に立つ。
「物資は行き渡ったか?
これから行われるのは防衛戦じゃない。こちらから仕掛け魔物が都市に侵攻してこないようにするのが目的だ。事前の班分は覚えているな? 各班にはそれぞれ役割がある。それをしっかり果たしてくれ」
いよいよ森へ向けて出発する。
先人を切るのは遠距離夜襲部隊Aだ。
この部隊の成否如何によって今後の展開が大きく変わる。
次に待ち伏せからの一斉掃射班B。
最後に最も人数の多い近接掃討班。
夜闇の中を進むが松明などは持たない。
魔物に気づかれるリスクを減らすためだ。
壁門を照らす篝火が遠ざかると冒険者の顔がやけに青く見える。きっと寒さのせいだけではないだろう。
スキル”夜目”を持つ者が先導し10分。
森の外縁部に到着した。
月明かりだけの森はひどく不気味だ。
未知の生物の口に飛び込むような勇気がいる。
森の中も当然松明は持てない。”夜目”スキル持ちが先導していく形になる。
A部隊が森の中に入ると残りの班は準備に取り掛かる。
神に祈る者。
己を鼓舞する者。
戦闘統一する者。
セリムは「早く来い」と森の中を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます