第14話 復讐
アルドの店を出ると辺りは既に暗くなっている。
月は10月。季節は秋だ。
肌寒い日が増えてきた。
道を歩く者の多くは1枚羽織っているものが多い。
そろそろ衣替えしないとと呑気に考えるセリム。
足を止めた。
路地から出ようとしたがまた路地に戻りどんどん暗い道を進んでいく。
そうして行き止まりに着くと振り返る。
セリムの前方に立ちふさがる2つの影。
冒険者パーティー剛力丸。オードとジャンだ。
「よぉ。ルーキー。逢いたかったぜぇ」
「俺は会いたくなかったがな。で、要件は何だ?」
尋ねずともセリムには分かっていた。
二人共街中だというのい場違いなガチガチに装備をしているのだから。
オードは戦士職。
身を包むフルプレート装備は陰気な場所にあっても輝きを失っていない。相当な業物だ。
背中には身の丈ほどの大剣。腰には両刃のロングソード。
ジャンは盗賊職。
革鎧に腰にはポーチがいくつも付いている。
足には短剣を差し込んだベルトホルダーが巻かれている。
「この前の借りを返しにきたんだよ」
「そうだそうだ。あの時はオードの兄貴が油断したからお前は勝てたんだよ! 勘違いすんな!」
CランクがFランクに熨されるという話はまたたく間に広がった。
元々娯楽が少ないこともあった。
何よりも興味を引いたのは普段威張ってるオードが無様にやられたことの痛快さだ。
”訓練”以降オードたち剛力丸は嘲笑の対象になった。
メッツとメルの指導員からも外され今では低ランク冒険者にさえバカにされている。
その状況を作ったセリムに日々復讐することだけ考えて生きてきた。
「アーサーが指導員に付いたって聞いた時は諦めるしかねぇと思ったが運良く1人になってくれて助かったぜ。その上こんな襲って下さいと言わんばかりの場所… お前馬鹿だろ?」
「そうですぜ兄貴。兄貴があんな馬鹿に負けるはずがないですぜ」
セリムはこめかみを押さえそうになるのをこらえる。
オードはともかくジャンは盗賊職。
正面から戦う職ではない。
物陰から奇襲するのに向いた職だ。その利を生かさないのは稀に見る頭の悪さだ。
こんな連中に馬鹿と批難されるのは癪である。
黙ったセリムに怖じ気づいたと勘違い。勢いづく2人。
「この前の借り、返してやるぜ!」
オードが腰のロングソードを抜き構える。
ジャンも足の短剣を抜き両手で構える。
セリムを挟むように左右から襲いかかる。
路地故に回避出来る範囲は狭い。
剣も先程預けてしまっている。
セリムは素手での迎撃を余儀なくされた。
「オラオラオラ!」
オードの一撃は先日よりも重い。
ジャン攻撃は素早い。
パーティーなだけあって連携の取れた動きにセリムは防戦一方。
ジャンの一撃に腕が持ち上がる。
右脇を晒したセリムにオードの突きが迫る。
「死ねガキがぁ!!!」
確実に殺った。
ニヤリと浮かべた笑みが驚愕に変わった。
セリムは左手を犠牲にすることで突きを防いでいた。
剣幅7cmほどの剣を受け止めた左手は完全に貫通しており、血が止まらない。
オードが剣を引き抜こうとするが抜けない。
筋収縮という言葉がある。
筋肉が神経の刺激により収縮する現象だ。
外部から電気信号を与えても同じ現象を起こすことが出来る。
セリムが行ったのはその応用だ。
刃物が刺さったことで筋肉がしまり、刃を筋肉で抜けなくした。
とはいえ、剣幅が7cmもある剣を引き止めるのは普通は無理だ。
だが、ここは異世界。
ステータスと言う超常の力がある。
高められた力を用いて無理矢理に引き止めている。
セリムは筋肉で絞めた剣を手元に引き寄せる。右手に”雷魔法”をまとわせ剣を握り折った。
驚愕に染まるオードの脇を抜けジャンが壁を駆けてくる。
掌から突き出た剣をジャンに投げつける。同時に血も飛び散り視界が塞がる。
「こんなものっ」
剣と血、その死角に隠れ接近したセリムはジャンの心臓めがけて抜き手を放った。
再度雷魔法を右手に発動させ貫通力を上げる。
「がはっ…」
骨を折り、心臓を貫いた。
ジャンは途中で力を失い壁から足が離れた。
ジャンの血が頬についたオード。
「何だよ、お前… 何なんだよ!」
加減せずに戦った。その結果ジャンが死んだ。オードの脳に恐怖がちらつくのは必然。
「今更怖気づいたのか? だったら最初からこんな真似してんじゃねぇよ」
「うるせぇ! テメェに何が分かるっ!?
テメェに負けて以降俺の人生は全てが狂った。テメェのせいでな!
どいつもこいつも俺を見下して笑いやがる。ついこの間までペコペコしてたゴミどもがだ!納得出来るわけねぇだろうがっ!」
ジャンの荷物を漁り持っていた包帯を巻くセリム。
包帯は直ぐに血に塗れ意味がない。気休め程度の効果だろう。
「知らねぇよ。それがテメェの人生なんだろ。責任転嫁してんじゃねぇよ」
「クソがっ! 殺してやる!」
背中の大剣を抜くオード。
引きずりながらセリムの元へ走る。セリムを真っ二つにしようと振る。
しかし刃は壁に阻まれ届かない。
「クソが。こいつまで俺を馬鹿にすんのかよ!」
「冷静に考えればそんな大物がこんな場所で使える訳ねぇだろが」
壁に悪態をつくオードを殴る。
地面に倒されたオードはセリムの追撃を避けようと回避に専念する。だが、訓練の時と同様体の言うことがきかない。
(またかよっ!)
オードは自分の迂闊さを呪った。
動けないでいるオードに馬乗りになる。
殴る。殴る。殴る。
玩具を与えられた子供のような笑みを浮かべて。
「ここじゃ以前のように助けは来ねぇぞ。いつまで耐えられるか我慢比べといこうか」
その日辺りが完全に夜闇に包まれるまで鈍い音が鳴り響いた。
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