第12話 帰らずの森の異変

 セリムに襲われた冒険者パーティー。

 状況の推移を眺めていたがまったく理解できない。


「えっと、アーサーさん? どういう状況ですか?」

「無事なようで何よりだ。俺はちょっと用が出来たから行かせてもらうわ。悪いな」


 ピューと風の如くアーサーは立ち去った。

 間抜けな顔の冒険者2人組はその姿をただ眺めていた。


 

 アーサーは都市アルスに戻るとレイニーの許を訪れた。

 セリムとの間にあったことを説明する。


「そう。あの子そんなことを…」

「驚かないんだな」

「もしかしたら…予感みたいのはあったから」


 オードとの戦いで見せたセリムの凄絶な笑み。

 人を人と思わぬ獣のそれはレイニーに危うさを抱かせた。

 

「でもね。まさかそこまで堕ちてくるとは思わなかったけどね」


 アーサーが指導員として付いていたからこそ今回は未遂で終わった。だが、毎度未然に防げるわけではない。

 目撃者だっている。

 いつか致命的な事になりかねない。

 そうなればセリムは犯罪者として切り捨てる必要が出てくる。


「今日相対してみて実感したよ」

「…」

「あいつは周りなんか見ちゃいない。いや、見ようとすらしていない。世界を自分以外全て敵だとでも思ってるような目をしてた。ひたすらに力だけを求めて… あれは獣だ。いつかそう遠くない未来に破滅が約束された、な」


 レイニーは否定しなかった。

 長命種故に数多もの人間を見てきた。その勘がセリムは破滅型の人間だと告げている。


「そう。あなたとセリムは似てると思ってたのよ。だからあなたならどうにか出来るんじゃって思ってたけど… どうやら私の目は節穴だったみたいね」

「期待してくれんのは嬉しいけどよ… 俺とあいつじゃ立位置が違いすぎる。あれは俺よりも深いぞ」


 アーサーも過去に力だけを求めて無茶な戦いをしていた時期があった。それでもセリムのように無闇矢鱈に人を襲うことはしなかった。

 分別だけは持っていた。

 

 聖騎士時代に先輩聖騎士から言われた言葉があったからだ。


(あいつにも心の支えになるような奴がいればいいんだけどな)


 目をつむり考えこむレイニー。

 ゆっくりと口を開く。


「もしもの時はお願い、出来る?」


 神妙な空気漂う部屋にノックが響いた。


「マスター。帰らずの森の調査に赴いていたパーティーのみなさんが至急報告したいことがあると」

「入ってちょうだい」

 

 入ってきたのはフィーネと先程森で会った男女の冒険者2人組みだった。


「じゃあ俺はこれで行かせてもらうわ」


 退出しようとするアーサー。レイニーが待ったをかけた。

 

 

 

 重苦しい雰囲気が部屋を漂う。

 セリムのことで重くなった空気だ。


 フィーネはお茶を入れ退出した。

 報告に来た冒険者はレイニーの対面に腰を下ろす。

 アーサーは部屋の隅で壁により掛かる。


「結果から言うと森の異変は情報通りでした」


 重苦しい空気に重くなる口。ゆっくりとした口調で冒険者は告げた。


 冒険者が調査していたのは数ヶ月前ほど前から起こっている帰らずの森の異変について。


 森外縁部で湧くはずのない強力な魔物が湧いていると言う報告があったのが始まり。

 これだけなら龍連山脈から下ってきた魔物がいたのだろうと片付けられた。

 

 問題は――

 森の中に居るはずのモンスターの数が急激に減ったことだ。


 どれだけ仕留めようと魔物は全滅するとは考えにくい。

 それがここ最近は滅多に見なくなっている。

 まるで魔物が一斉にどこかに移動したかのように。


「魔物が移動したと思わしき足跡を発見し追跡しました。その結果、森の奥深くに500近くの魔物が群れを作っているのを確認。ゴブリン、コボルト、オーク… 種類問わず作られた群れには確認出来ただけでBランクの魔物も数体いました」


 顔色悪く告げる冒険者。

 

 魔物に分け与えられたランクと冒険者のランクは同戦力という意味ではない。

 

 例えばBランク。

 これはBランクに絶対勝てるのではない。Bランクの魔物と戦う権利を得た者のことを言う。


 魔物は人間を遥かに凌ぐ力を持つ。

 1人で勝つのは難しい。

 Bランクの魔物を倒すならば同ランクの冒険者が最低でも2人、ないし3人は必要になるとされる。

 

「それと正直未だに信じられないのですが…」


 言いよどむ男性冒険者。

 後を継いだのは女性冒険者だ。


「モンスターを取りまとめていたのは人間だと思います」


 調査結果を信じるならば今回の異変は人間が起こしたことになる。


 表にこそ出さないもののため心内で溜息を吐くレイニー。


「調教師などの職に付いた者の仕業だと思います」

「取りまとめてたのは1人? 他にもいたかしら」

「いえ。確認できたのは1人だけです」

「なら調教師じゃねぇな」

「どういうことですか?」


 アーサーが口を挟み女性の意見を否定する。


「調教師ってのは魔物と契約ないし隷属させる職だ。従える数はそいつの魔力量によって変わるが500なんてありえねぇんだよ」

「ですが私はこの目で見ました」

「なら術者が複数いたかはたまた別のスキルか」


 レイニーはアーサーの意見を支持した。

 200年以上生きた彼女でも調教師がそれほど多くの魔物を従えたという話は聞いたことがない。


 それに。

 Bランクの魔物も居るのだ。

 小さな都市ならば複数いれば陥落させられると言われる戦闘力をもっている。

 そんな魔物を複数従えられる訳がない。


 話し合いは終始暗い雰囲気で続いた。

 結果として都市に侵攻される前に叩くといことになった。


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