第11話 アーサー=ソリッドの実力

 オードとの訓練によって生じた処罰。期間は一週間。

 下水道の掃除は昨日終わった。

 

 手持ちのお金はほぼ無い。今日から依頼を受けることに決めていた。

 

 Fランクが受けられる依頼はEランクのものまで。

 どちらを受けても報酬は雀の涙。


(さっさとランクを上げねぇとだな)


 ため息を吐くセリム。

 依頼ボードに張られた用紙とタグを受付嬢に渡す。


「おはようございます、セリムくん。初めての依頼ですね。Eランクの依頼ですか?」

「問題が?」

「セリムくんはFランクですよね?」


 タグを確認するフィーネ。


「一応、Eランクの依頼を受けることは出来ますが事前に確認を取るように言われているんです。

 その…オードさんを倒すほどの実力があるので問題ないとは思いますが」


 途中から顔を近づけ小声で告げる。

 ここ最近では1番デリケートな話題だ。


 下剋上といえば聞こえは良いが、上のランクのものからすればたまったものではない。

 下が活気づいて調子に乗られるのは面倒。偽らざる本音だ。


「ならさっさと受理してくれ」

「わかりました。それではアーサーさんの注意を聞いて危ないことには首を突っ込まないようにして下さい」

 

 フィーネの言葉に頷くセリム。

 当然、守るつもりはない。


 依頼を受けると都市の出入り口から外へ出た。


「1人で勝手に行くなよ。俺はもうおっさんなんだぜ? 走るの結構辛いんだからよ」

「ならせめて息を切らすくらいはしたらどうだ?」

「おっと… はぁはぁ まじきちぃ」


 セリムはアーサーを無視して森に入った。


「ちょ、待てよっ!」




 セリムが受けた依頼はゴブリン退治。数は5匹。

 報酬は銅貨7枚+ゴブリンから取れた素材。


 しょぼい依頼だと思いつつこなすセリム。当然のように付いてきたアーサーは何もしない。


「何もしねぇなら邪魔だから失せろよ」

「おいおい。前にも言ったが目上の者にそういう言葉使いは良くねぇぞ。それと俺は何もしてねぇわけじゃねぇ。お前の安全を見守ってんだよ。こう愛しの子を見守るようにあっ〜い情熱的な目で」


 パチリとウィンク。

 おぇ。


 セリムはゴブリンの死体をアーサーに向けて投げ飛ばした。


 


 依頼を終えいざ都市へ帰還する時にアーサーが提案する。


「丁度良い機会だからよ。セリム、お前の力を見せてくれや」


 直接戦って実力を確かめるつもりだ。

 セリムにしてもAランク冒険者の実力は知っておきたかった。


 森の外縁部、平地になったところで相対する。


 彩色ーー相手の魔力量をオーラとして認識する。

 オーラの量で相手の力量を測る。


 セリムの頬を汗が伝った。


 今まで見た中で3番目の魔力量。

 1番は大戦の大英雄ーーカルラ=バーミリス。

 2番目はアルスギルドマスター、レイニー=グレイシア。

 次がアーサーだ。


「さすが元聖騎士ってとこか」


 力量に、ステータスに天地ほどの差がある。

 勝てない。

 意識したセリムは戦う気をなくした。

 

 剣を納めるセリムにアーサーは躊躇なく斬りかかる。


「俺があまりに強くて戦う気を失ったか? いつもの不遜な態度はどうしたよ!」

 

 なんとか防御には成功した。

 一撃で剣にヒビが入り大きく吹き飛ばされた。


「この程度でやる気をなくすくらいなら普段の態度を改めろよ。お前さんの今の姿は周りに敵を作るだけだ」

「るせぇよ。指導員だかなんだか知らねぇがほざくな」


 ひび割れた剣は師であるローウから貰ったもの。

 丁寧に鞘にしまうと構えた。

 剣相手に徒手だ。


 硬化ーー肉体の強度を上げる。

 魔力操作ーー肉体表面を魔力で覆い更に強度を増す。

 範囲拡張+気配感知ーー危険感知領域範囲を広げる。

 盗賊専用スキル、強奪プランダラーー相手のステータスを一時的に僅かに下げる。


(体が重くなった? 盗賊のスキルか?)


 アーサーに近づいたセリムは容赦なく急所を狙う。

 目。喉。心臓。足。

 数多ある急所でも胴体ーー心臓などは避けるのが難しい。

 

 背後から一気に心臓を穿つ。

 仕留めるつもりの一撃は容易に掴まれた。


「中々多彩なスキルに相手を一撃で仕留めようとする意識はいい。だがな、殺気が漏れすぎて狙う場所が丸わかりだ。それじゃ自分より弱いやつしか倒せんぞ」


 腕を掴まれたまま剣で殴り飛ばされた。

 森の中を転がる。

 強化された肉体であるにも関わらずセリムの口の中に血の味が広がった。


「くそじじいが…」


 力が足りない。

 現状アーサーに勝てるビジョンがない。


 セリムは周囲を見渡しモンスターの気配を探る。

 ゴブリンやコボルト(犬型の魔物)を見つけるとアーサーを無視して仕留めた。


 多少ステータスは向上したがまだ足りない。

 そこへ丁度いい存在が現れた。


 ――冒険者だ。


 低ランクの冒険者でも得られる経験値はモンスターとは比べものにならない。

 加えてスキルまで付いてくるのだから。

 セリムにとってはボーナスみたいな存在だ。


 口角を釣り上げたセリムは躊躇なく襲いかかる。

 

 依頼を終えたばかりの冒険者パーティーは完全に油断している。セリムの接近に反応出来ない。

 セリムの腕がそれぞれの冒険者の喉に向く。


 アーサーがセリムを思いっきり殴り飛ばした。


「何の真似だセリムっ!」


 先程の行為は確実に冒険者の命を奪う行為だった。

 同業、仲間であるはずの命をだ。


 状況を理解できない冒険者パーティー。

 目を瞬かせ成り行きを見守る。


「言ってる意味が分かんねぇな。そいつらの命がどうなろうと俺にとっちゃどうでもいいんだよ。知ってるか? 人ってのは魔物と同様に経験値があるんだぜ」

「お前…」


 セリムの発言は人を殺したことがあると自白したのと同義。

 

 いつも抜けた表情のアーサーもこの時ばかりは厳しい顔つきだ。


「だったらどうする。俺を殺すか?」

「これは冒険者ギルドが定める協定違反だ。この件はギルドマスターに報告させてもらう」

「勝手にしろ。別に冒険者資格が剥奪されようと興味ねぇからよ」


 興が冷めた。

 セリムはアーサーの制止を無視して都市アルスへ戻った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る