第10話 Aランク冒険者
オードとの訓練によって生じた処罰。
納得はいかないが逆らうデメリットを比べ受けざる得なかった。
セリムが請け負った清掃業務は下水道設備だ。
都市や街レベルになれば下水道設備が整っている。とはいえ、地球のようなしっかりしたものではない。
レンガ造りの下水道が街の中に張り巡らされている。
各家庭から出た汚水や雨水がそこを通る。
スラム街付近に全ての下水が集合する箇所があり、集まった下水は壁の外側まで続く道を通って川へ流される。
下水処理として”浄化”と呼ばれる光魔法が施されている。
何もしないよりかは環境汚染を抑えられる仕組みだ。
ひと月に1度、浄化の魔法が掛けられた魔石の交換が行われる。
都市内部にある下水道は基本的に専用の者が掃除する。だが、壁の外にある下水はそう行かない。
都市からそう離れていないとはいえ魔物が出る領域にある。
結界により魔物が近寄りにくくなっているがまったく近寄らないわけではない。
セリムは下水道に続く岩の板ををずらし中に入る。
縦横2mほどの空間だ。
中はそれほど臭いはない。
壁の内側で一度浄化されるためだ。
「めんどくせぇ」
サボりたいセリムだがそうはいかない。
レイニーから処罰を受けた後。
新人育成カリキュラムとしてセリムに上位冒険者が付けられた。
Aランク冒険者。アーサー=ソリッド。
元聖騎士という少し変わった経歴を持つ人物だ。
金髪碧眼。整えればイケメンになるだろう容姿を持っている。
本人は見た目に興味がなく無精ひげを生やし着崩した服を来ているが。
アーサーが監視に付いたためサボろうにもサボれない。
「おらぁセリム。しっかりやれよ」
「そう言うならあんたも手伝えよ」
「嫌だね! 誰がそんなクセェ場所に入るかよ。そもそもそりゃお前の罰だろうに。俺はただの新人教育で付けられただけだ。手伝う義理はないんだよ」
鼻ほじほじ。
鼻くそポーイ。
せっかく掃除した下水道に鼻くそを落とすアーサー。
舌打ちしながらもセリムは掃除を行った。
夕方。
掃除が終わりギルドに報告に戻る。
「セリム。お前風呂入れよ。臭いやべぇぞ」
「るせぇよ」
鼻をつまむポーズのアーサー。
(これが
自身のことは棚上げだ。
今日半日アーサーと一緒に居たがAランク冒険者のような威厳は1ミリもない。
鼻をほじり、鼻くそを飛ばす。
腹を掻きながら屁をこく。
挙げ句には昼寝をする。
魔物がめったに近寄らない場所とはいえ、緊張感の欠片もない。
セリムとは真逆の人間といえる。
何をやるにもマイペース。自由奔放。その割に顔が広く市民に受け入れられている。
セリムはアーサーと言う男をたった一日で嫌いになった。
冒険者ギルドで報告を終えたセリムは銭湯に行くことにした。
平民は基本湯を溜めた風呂に浸かることはない。
湯を張る、温度を保つのに手間がかかるからだ。
銭湯は国営であり、清掃業に従事する者向けに作られた。
だから金さえ払えば誰でも入ることが出来る。多少割高なのか仕方ないが。
番頭に銅貨5枚(日本円換算500円)を払い脱衣所で服を脱ぐ。
15歳(正確には11歳)とは思えぬ引き締まった体。力を求めて無理な鍛え方をした体には裂傷、刺し傷、咬傷と外傷の痕が多い。
清掃を生業にする者はガタイは良いが傷を持つものは少ない。
年齢にそぐわぬ傷はセリムの存在を目立たせる。
耐水のコーティングがなされた木扉を開け、臭いが落ちるまで丁寧に洗っていく。
「お前、随分傷だらけだな。相当無茶な戦い方してきたろ?」
アーサーだ。
いつの間にかセリムの隣に越し掛け体を洗っている。
アーサーの体にも相当な傷がある。ひと目見ただけでセリムのように無茶な戦いをしてきたのだと分かる。
「だったら何だよ? やめろとでも言うつもりか」
「好きにすれば良いんじゃねぇの。ただ、それで他に迷惑かけんなよ」
「知るか」
体の泡を落とし湯船に浸かるセリム。アーサーも続いてやってくる。
ストーカーされてる気分を覚える。アーサーから距離を取った。
「オードを
「見てたのかよ」
「最後の方だけだがな」
あの日、アーサーはセリムの指導カリキュラムの説明でギルドに呼ばれていた。
「2つのスキルだけしか報告してないんだってな」
「何の話だ?」
「冒険者ギルドの登録時の話だ。
手の内を全て明かす必要はないが、聞いてたお前さんの情報とオード戦で見せた情報が違ってたから驚いただけだ。
魔法と一口に言っても人気のあるものとないものがある。
人気なのは治癒系統を扱う光の魔法。
攻撃力に優れた火魔法と雷魔法。
生活に便利な水魔法などだ。
土魔法は土木工事系には使われる。戦闘面でも地形を利用した戦闘に活用出来たりと応用が効く。のだが、冒険者には承認欲求が高い者が多い。目立ちたがり屋なのだ。
地味な土魔法はそういった理由から好まれない。無論、使う人は使っているが。
「何、驚いてんだ?
土魔法が最小限の威力で瞬間的に発動されたのに気づかれないと思ったのか? 俺はこれでもAランク冒険者だぜ? あんくらい見えるさ」
オード戦で見せた魔法は周囲に気づかれないように最小限のものだった。
魔法を発動すれば必ず出現する魔法陣さえ出さないように警戒していた。
それを見破ったのだからさすがはAランク冒険者と言うべきだろうか。
嫌いという感情の他に侮れないと認識した。
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