第9話 心の在り方

 オードとの一件を終えギルドを出たセリム。

 心にはやりきれなさが渦巻いていた。


 ――あと少しで殺せたものを


 黒い衝動を自覚する。


 神敵スキル覚醒以降、セリムは内面が変化した。

 人に対する情が薄れたのはその最たるものだろう。

 

 覚醒以前から付き合いのある者に対しては変化が少ない。問題は覚醒後。

 どうやっても興味が持てない。言い換えれば全てが強くなるための経験値タンクに見えていた。


 人間社会でこの考えは危険。

 そう理解しつつも考えを変えられないでいた。


 憂さを晴らすようにその日は夕方までモンスターを狩り続けた。


 夕方過ぎ。

 都市に向けて森の中を歩くセリム。誰かが争う音が聞こえてくる。


 木陰に隠れながら様子を伺う。


 季節は夏。

 夕方でも視界は良好だ。


 音の原因は男女の冒険者とゴブリンの集団。

 ただのゴブリンではない。


 身長はセリムと同程度の170。

 小枝のような痩躯ではない。しっかりと筋肉が付き、統率の取れた行動をしている。

 ゴブリンの上位種ホブゴブリン。


「なんでこんな浅瀬にこいつらがいるのよ!?」

「そんなん俺が知るかよ」


 冒険者はホブゴブリン三匹に囲まれ滅多打ちにされた。

 

 冒険者ギルドが定めるモンスターの定義に上位種はランクが1つ上がるとある。

 ゴブリンは最低のF。ホブは1つ上がってEだ。


 Eランクの魔物が3匹。それに負けるレベルならば持てるスキルなどたかが知れている。

 セリムにとって興味は薄い。


 引き返そうとしたセリムの元に冒険者だったものが飛んでくる。


「た、助け…」


 腕は曲がり、目はえぐれている。元は綺麗な顔だったのだろうが今は見る影もない。


 セリムが隠れる場所よりも後ろに飛ばされた為にセリムを見つけることが出来た。


 セリムは舌打ちした。

 木陰から出て冒険者の元に行くと腰に刺してあった短剣を引き抜く。

 何をするのか、冒険者はセリムを見つめる。


 セリムは冒険者の心臓に短剣を突き立てた。

 

 人を殺すことへの忌避感は浮かんでいない。

 事務的に。

 神喰獣フェンリルで吸収するために殺した。


「助からないんだから潔く死んどけよな。メンドくせぇ」


 脳内に無機質な音声が流れる。

 魂を吸収した証拠だ。


 ホブゴブリンたちがセリムに気づく。弄ぶように甚振っていた男の冒険者を投げ捨てるホブゴブリン。次の獲物が現れたと醜悪な笑みを浮かべている。


 セリムは女冒険者の短剣を投げ捨て抜剣する。

 

 ホブゴブリンとも村の近くの森で幾度も戦ってきた。

 セリムにとって手強い敵ではない。

 ものの数分で片が付き無機質な音声が再度流れた。

 

《魂を消化。 魂に付随する情報の取得… 完了。ステータスを開示しますか?》


 聞き慣れた音声に答える。

 ステータスを見るスキルを持たない。

 ステータスを確認できる唯一の機会が魂の吸収直後にある。


 名前:セリム=ヴェルグ

 種族:人族

 年齢:11歳(見た目15歳)

 冒険者ランク:F

 1次職:異端者

 レベル:40

 体力:2400

 魔力:2100

 筋力:2100

 敏捷:1800

 耐性:1800


 常時発動型パッシブスキル

 神喰獣フェンリル LV1

 体力強化 LV5

 魔力強化 LV4

 筋力強化 LV4

 敏捷強化 LV3

 耐性強化 LV3

 反射速度強化 LV3

 跳躍力上昇 LV3

 命中率上昇 LV4

 知覚範囲上昇 LV2

 見切り LV2


 任意発動型アクティブスキル

 剣技 LV8

 拳技 LV4

 短剣技 LV3

 鑑定 LV3

 硬化 LV2

 夜目 LV3

 彩色 LV2

 火魔法 LV2

 水魔法 LV2

 風魔法 LV2

 土魔法 LV2

 雷魔法 LV2

 光魔法 LV1

 闇魔法 LVを1

 魔力操作 LV3

 範囲拡張 LV1

 気配遮断 LV2

 気配感知 LV3

 気配欺罔ぎもう LV1

 遅延発動 LV2

 二重発動 LV2



 職業専用スキル

  ――異端職。

  正統破壊ルールブレイカー LV1

 

 ――盗賊職(暗殺系統)

  強奪プランダラ LV3


 先程の冒険者は盗賊職だったようだ。

 専用スキルが増えている。

 それ以外にも鑑定や夜目などの便利なスキルが増えている。


 思わぬ拾い物に少しばかり浮かれる。


 冒険者登録さえ行っていれば魔石をギルドが買い取ってくれる。

 魔石は生活に欠かせないほど浸透したエネルギー源だ。


 投げ捨てた短剣を拾い心臓付近をほじり返す。

 小指より少し大き目の紫色の魔石を回収する。その後男の冒険者を生死を確認する。


「っち…」


 男の冒険者はすでに事切れていた。死んでいては神喰獣フェンリルのスキルが発動しない。


 オードとの戦いでのストレスを払拭できた喜びと多少の疲労を覚える。

 ゆっくりとした足取りで都市アルスへ帰った。




 翌。

 昼。

 セリムがギルドに行くとマスターであるレイニーに呼ばれる。

 ギルドマスター部屋に入る。


「昨日の”訓練”見事な勝利だったけどやりすぎたわね」

「やりすぎ? 死んじゃいないだろに。大袈裟なことだな」

「大袈裟? あなた、あのままやってたらオードを殺してたでしょう?」


 レイニーの言には確信があった。

 セリムはあっさりと認めた。


「あんなやつ死んでも誰も困らないだろ。聞けばあいつらは迷惑行為を繰り返す問題児。この際に処分したほうがギルドのためだろ?」


 新人育成を目的とした制度――新人育成カリキュラム。

 上位の冒険者が新人を育成する目的で設けられたシステムだがこれを悪用する輩がいる。


 指導を受ける弱い立場の冒険者に狩りをさせ、稼いだお金を巻き上げたり。

 立場を利用して肉体関係を強要したり。

 逆らったり、口超え耐えすれば暴力を振るったり。


 オードたちは隠れてこういったことに手を染めていた。

 噂でそういった話があるのはレイニーも知っていた。だが、確実な証拠ななかった。

 

 曲がりなりにもオードのパーティー、剛力丸はCランク。

 都市アルスにとっては貴重な戦力だ。

 

 セリムは言い分は

 ――ギルドが裁けないゴミをこっちで処分してやったんだから感謝されこそすれ、責められる謂れはない

 ということだ。


 清々しいほどのクズ発言。


(ほんと性格と力量が驚くほどに一致しないのは何故かしら? そういう呪いを受けてるのかと疑いたくなるわ)


 長い時を生き様々な経験を積んできたレイニーも呆れた。


「単刀直入に言うわね。

 あなたはやりすぎた。処罰を下します。

 ギルドでの依頼受注及び依頼発注の禁止、及び都市の清掃業務をやってもらうわ。

 期間は一週間。それが終われば今まで通りに普通に過ごしてもらって構わないわ。これが嫌なら残念だけど冒険者資格は1年間の停止ね」


 昨日悩みに悩んだ末に出した結論だった。

 セリムは断らずこれを受け入れた。


 冒険者資格を失っても正直問題はない。

 問題なのはレイニーだ。

 

 現状逆立ちした所でレイニーには勝てない。争うのはデメリットしかないのだ。

 

 「よろしい」


 素直な返事にレイニーは頷いた。


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