第8話 地下訓練場2
地下訓練場内は2人の行く末を見ようと多くの冒険者が集まっている。
どちらが勝つか賭けてちるものも多い。
大方の予想はオードの圧勝。
大穴狙いでセリムだが、圧倒的に少ない。
冒険者ランク、転職回数から見た戦力からオードが圧倒的に有利だと判断されている。
ゴブリンを数十匹仕留めたセリムには驚くが、Cランクともなれば余裕で出来る。
周囲を見物客に囲われた中。
セリムとオードが中心で向かい合う。
「兄貴! そいつステータスを隠蔽してやがります。何をしてくるか分かりませんから気をつけてくだせぇ」
オードと同じパーティーのジャンが言う。
本来は助言行為は禁止だ。
オードたちは冒険者ギルド内でも素行が悪いことで知られている。そのためルールを守るとは誰も期待していない。
「生意気に隠蔽スキルか。スキルを見られなきゃ勝てるとでも思ってんのか?」
セリムに隠蔽系のスキルはない。
カルラの許を旅立つ時に以前貰ったのと似た指輪を貰ったのだ。
「さっさと構えろよ。それとも負けた時の言い訳にでもとっとくか」
舌打ちしたオードは貸与された木剣を構えた。
審判を務めるレイニーがルールの説明をしていく。
「訓練の制限時間は5分。それ以上を過ぎた場合は力づくで止めさせてもらうから、そのつもりで。
相手に回復不可の傷を与えることも禁止します。
――では始め!」
先に動いたのはオードだ。
鍛え上げられた筋肉に物を言わせた一撃。
「っ…」
ガードしたセリムは僅かに足が地面に沈む。
歯を食いしばって耐える。
セリムには相手の力量を測る手段として”彩色”と言うスキルがある。
相手の魔力をオーラとして識別できる。
オーラの量から大凡の強さが測れる。
オードの魔力量はセリムより少ない。
セリムは”彩色”の情報から楽に倒せると踏んでいた。が、それは間違いだった。
彩色はあくまで魔力をオーラとして視るスキル。
魔術師などの魔法職ならともかく、戦士職のオードの戦力を測るには向いていない。
(脳筋が…)
予想以上のパワー。
接近戦は危険だと距離を取った。
「あんだけ吠えた割には雑魚だな。詫びるなら四肢の骨折だけで勘弁してやるぜぇ」
突っ込んでくるオード。
セリムは”土魔法”を使った。
瞬間的に最小限の威力で。
オードの足の地面が僅かに隆起する。
セリムに勝てると余裕を見せていたオードは判断が遅れた。
2センチほどの突起に躓く。
体勢の崩れたオードの顔面を容赦なく殴り抜く。
ひっくり返ったオードは直ぐに立ち上がろうとするがふらつく体が言うことを効かない。
(なん、だ。これ…)
脳震盪を起こしていた。
セリムの一撃が顎を捉えていたのだ。
誰もがこの自体に驚愕した。
誰が予想できたか。Cランク冒険者がFランク冒険者に熨されるなど。
動けないオードに木剣を振り下ろすセリム。
オードは両腕を潰された痛みに呻くが動けない。
馬乗りになりセリムはオードを殴り始めた。
「戦いってのは強いやつが勝つんじゃねぇ。勝ったやつが強いんだよ」
顎などを撃ち抜かれ脳振盪が続く。
執拗なまでに殴られ続けたオードの顔はパンパンに腫れている。
殴り続ける間、セリムの顔は狂気的な色を宿していた。
最後の一撃。
セリムは引き絞った腕を振り下ろす。
誰もが驚愕に動けずにいる中レイニーが介入した。
「それ以上は認められないわ」
レイニーの介入、それはセリムが勝利したことを物語っている。
レイニーの手を振りほどく。
観衆に奇異の視線を向けられる中、地下訓練場から出ていった。
夜。
レイニーはギルドマスタールーム内で大きなため息を吐いた。
セリムとオードの訓練。
(便宜上訓練と称してはいるけどもあれは完全に処刑よ)
勝敗が着いて以降ギルド内ではその話でもちきりだった。
Fランク冒険者がCランク冒険者を熨した、と。
それだけであれば有能な若者が出たと喜べた。
問題は――
(セリムはオードを殺るつもりだった。何かしら処罰を与えなないと…)
回復不可の傷ではなかったがセリムの行為はやりすぎだ。
これを黙認したとなれば訓練場は荒れてしまう。
「性格と実力が一致しないとは言うけど、あの子はその典型ね」
オードを殴打する中で見せた狂気的な笑み。
人間と言うよりは獣という言葉がしっくりくる。荒々しさだ。
一体内面に何を抱え込めばあそこまで非情になれるのか。
再度盛大なため息を吐くレイニー。
処罰を与えなければいけないと思うものの具体案が浮かばない。
冒険者になったばかりのセリムの冒険者資格を剥奪しても大したダメージはない。
それを行った場合に他国へ出奔するデメリットのほうが大きいように思える。
何か良い案が浮かばないかとレイニーは唸った。
唸り声は深夜まで響いていたとか。
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