第7話 地下訓練場訓練1
セリムとオード。
両者の間に割って入ったフィーネ。
「オードさん。セリムくんを挑発するのはやめてください。彼はまだ冒険者になったばかりなんです」
「その言い方だとまるで俺がこのガキを虐めてるみたいに聞こえるんだが? 俺は親切に冒険者のルールってやつを
「それは…」
冒険者にはいくつかの不文律が存在する。
獲物は見つけた者勝ち。
他の冒険者が戦っている最中に割り込むことの禁止。助けを求められた場合のみ許される。
他人の手柄の横取り。(止めだけを刺して討伐実績を積むなど) etc…
オードが言っているのは3つ目のことだ。
セリムが他人の手柄を奪って自身の手柄のように振る舞ったと考えた。
「それは… ですがその時は彼もまだ冒険者ではなかったわけですし。それにルールだって知らなかったでしょうから…」
「ルールを知らなきゃなんだってやって良いってことになるぜ?」
「うぅ。 それは…」
旗色が悪く言いよどむフィーネ。
セリムに向き直り謝るように促してくる。
「私も一緒に謝りますから。一緒にオードさんに謝罪しましょう」
「意味がわからん。何で俺がこんなおっさんに謝るんだ? そもそも謝るべきはこいつだろ。碌な証拠もないくせに人を疑って無理やり謝罪をさせようとしたんだ。
まずはテメェが謝罪しろ」
オードから放たれる怒気。
フィーネはあわわと慌てだす。
「何でそんなことを言うんですかっ! オードさんは
「さっきも言ったが先にそいつに謝らせろ」
「もう! なんでそんな…」
セリムはフィーネを横に退けた。
オードに視線を向ける。
「性格と実力が一致しないってのはあんたの為にある言葉かもな。
大声で周りを威圧して賛同を求める。典型的な小物のやり方だな。
セリムの的確な物言いに周囲から小さな笑いが起こる。
オードは額に青筋を浮かべる。
セリムの胸ぐらを掴み持ち上げる。性格はともかく実力はそれなりにある。僅かにセリムが中に浮く。
「どうやらぶっ殺されねぇと分かんねぇようだからな。今すぐその頭かち割ってやるよ!」
腕を引き絞りセリムへ向けて放つ。
この後起こるであろう惨劇を想像し悲鳴が上がる。
――起こることはなかった。
オードの拳を止めた者が居るからだ。
都市アルス冒険者ギルドギルドマスター レイニー=グレイシア。
「マスター… もぅ遅いですよっ!」
「ごめんね。ちょっと仕事が立て込んでて」
目尻に涙を溜めたフィーネの批難に笑って返すレイニー。
視線をオードに向けた。
「オード。冒険者ギルド内での私的な武力行使は禁じられているはずよ。知らないわけがないわよね?」
舌打ちしたオードはセリムから手を 離す。そのままギルドを出ていこうとする
安堵の空気が流れる中、空気を壊したのはもちろんセリムだ。
「おい。謝罪がまだだろ。さっさと地面に額こすりつけろ」
――え? ちょ! おぃぃぃぃ!
――あの子何言ってんの?
――あ、死んだわ。
せっかくレイニーの介入によって収束した空気が凍る。
オードは当然額に青筋を浮かべた。
「ガキ。何勘違いしてんだ? マスターが出てきて命拾いしたのかテメェだろうが。実力差も分かんねぇカスが。そんなに死にてぇなら殺してやるからかかってこいよ」
腰の剣に手をかけるオード。
「やめなさい。そんなにやりたいなら死闘ではなく、地下の訓練場で”訓練”という形でやりなさい」
レイニーの元により地下訓練場での”訓練”が決まった。
オードを含めた多くの冒険者が物見遊山に行く中。
セリムははレイニーとフィーネからジト目を向けられていた。
「はぁ。知り合いを助けるためとはいえ代償は高くついたわね」
「助ける?」
フィーネはレイニーにことの経緯を説明していた。
ラッツとセリムが知り合いで叱られていた2人を助けるためにこんなことをしたのだと。
「なんか勘違いしてんな。別に助ける目的があってやったわけじゃない。あのおっさんが俺を否定したからだ。碌な証拠もないくせにフザケたこと抜かすから謝罪を要求したのはついでだ」
あれ、俺達の為にやってくれたんじゃないの?
その場に居たラッツとメルはしょんぼり。
「随分冷めた考えなのね」
「いつもいつも誰かが助けてくれるほど世の中は甘くない。それを知ってるかどうかの違いだろ。誰かが助けてくれる、それにいつまでも甘えてたら一生弱者のままだ」
「その考えは素晴らしいと思うわ。でもね、彼我の戦力差を見極められないならあなたはただの愚者、弱者と大差ないわ」
睨むセリム。
涼し気な表情で受け流すレイニー。
「それと忠告してあげる。オードたちは仮にもCランク冒険者。間違ってもFランクのあなたが勝とうなんて考えないこと。訓練に制限時間を設けるから逃げることだけ考えなさい」
レイニーの忠告を聞き流し地下訓練場へとセリムは向かった。
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