第6話 職業選択

 翌朝。

 新人ビギナー育成ギルド亭――ビルド亭にて朝食を済ましたセリム。

 

 全ての都市にある時計塔が示す時刻は7時。

 活気溢れた大通りを通り冒険者ギルドへ。


 冒険者の朝は早い。

 報酬の良い依頼を取るためだ。

 

 冒険者は言ってしまえばゴロツキの集まり。より楽に稼ぐために努力を惜しまない者が多い。

 努力の方向性はともかくだが。

 

 セリムが訪れた時間帯には既に依頼の取り合いは終わっている。

 出遅れた冒険者が依頼ボードの前で唸っている。その後ろを通り過ぎ受付に向かう。

 受付にはフィーネがいた。


「セリムくん。おはようございます!」

「どうも。昨日言ったとおり職業選択の件で来たんですが」

「わかりました。少し準備してきますのでお待ち下さい」


 奥に引っ込んだフィーネが鍵を持って戻ってくる。


「職業選択できる部屋は2階にあるので案内しますね」




 2階奥の部屋。

 部屋の前には警備員として兵士が控えている。

 フィーネは軽く挨拶して鍵をあけて部屋に入る。続いてセリムも入った。


 部屋の中は殺風景な場所だ。

 中央に机が置かれ水晶玉が1つ置かれている。それだけだ。


「手短にですが職業のことについて説明しますね」


 職業は5次まであるとされるが実際には4次までしか確認されていない。

 

 職業を取得するとその職業専用のスキルを得る。ステータスの上昇効果もあり、冒険者になるには必須の事柄。


 職業に就くには条件が存在する。 

 本人の適性や能力によって選択できる職業が変わってくる。


 1次職。

 条件など無く誰でも選択できる。

 転職するとレベルは1に戻る。ステータスはそのまま継承される。


 2次職。

 1次職状態でレベル50まで上げること。

 レベル1からのスタートになる。


 3次職。

 2次職をレベル70まで上げること。

 レベル1からのスタートになる。


 4次職。

 3次職をレベル90まで上げること。

 レベル1からのスタートになる。


 5次職。

 条件不明。

 レベル1からのスタートになる。


 転職するごとに強力なスキルを獲得出来る。

 ステータス上昇効果も大きくなる。


 フィーネはざっくりと説明した。


「以上です。職業は一度選ぶと変更は出来ませんのでよく考えてから選んでくださいね。それと選んだ職業は下でタグに記載いたしますので終わり次第声をかけてください」


 部屋の中央、机の上に置かれた水晶玉に触れる。

 脳内に職業候補が浮かび上がる。


 1次職。

 槍使い。弓兵。戦士。モンク。魔術師。異端者。


(他のはなんとなく分かるが異端者? なんだコレ?)


 脳内で”異端者”に焦点を合わせると詳細が表示される。


 異端者:神に異を唱えるもの。神の敵。

 専用スキル:正統破壊ルールブレイカー


 正統破壊ルールブレイカー

 一定時間一定範囲内で全ての魔法及びスキル、魔力を使った行動を無効にする。


 説明を見たセリムは迷うこと無く異端者を選んだ。

 

 職業を選択した瞬間、体に何かが流れ込む。

 体が熱くなり、力が湧いてくる。

 数秒ほどで感覚は戻った。


 フィーネに声をかけ1階に戻るとタグに職業を記載する。

 今回はステータス計測板を使う。


 凹み部分に手を置きタグをカードのような差込口に差し込む。


 名前:セリム

 種族:人族

 年齢:15歳


 1次職業:異端者


 スキル

 剣技 LV8

 筋力強化 LV7


 「これで手続きは完了です。職業は冒険者にとって今後の戦闘スタイルを決めていく上で重要なものですので、同じ職業を持つ方がいたら情報交換などしてみるといいかもしれません」


 頭を下げるフィーネ。

 踵を返しギルドを後にしようとするセリム。


 ギルド全体に怒声が響いた。



 

 怒声の主は鎧を来た男だ。

 昨晩セリムが知り合った男女の冒険者――ラッツとメルに向けて怒鳴っていた。


「冒険者になってもねぇ奴がゴブリンを数十匹も倒せるわけねぇだろうが。オメェら馬鹿だろ! そんなんだからいつまで経ってもEランク底辺なんだよ」

「オード兄貴の言う通りだぜ。仮に倒せたとしてもだ。お前らは冒険者になってないやつにすら劣るゴミだってことだ。ったくいつまでも兄貴の手を煩わせてんじゃねよ!」


 2人共悪戯がバレた子どものように縮こまり叱責に耐えている。

 拳を血が出るのではと思うほど握るラッツ。

 目尻に涙を溜めつつも必死に堪えるメル。


 周囲の冒険者は我関せず。もしくは見てみぬふり。


「ジャンの言う通りだな。どうやら俺様の鍛え方が足りなかったようだからな。だからゴブリン風情に負けるんだよ」

「そーだそーだ。オード兄貴の言う通りだ」

「てことでよ。今日からたっぷり鍛えてやるからよ。後で俺の部屋に来いよ」


 下卑た笑みを浮かべ舌なめずりするオードとジャン。

 舐めるようにいやらしい視線を女性冒険者メルへ向けている。


 立場を利用してレイプまがいの行いをする気だ。


 講義の声を上げようと顔をあげるラッツ。

 オードに睨まれ顔を伏せた。


 ギルド内の雰囲気が最悪な中。

 セリムは素知らぬ顔でギルドから出ていこうとする。

 

 誰でも良いから助けを求めていたラッツ。

 見覚えのある姿に思わず視線を動かした。それに気づいたオード。セリムを呼び止めた。


「もしかしてお前か。昨日こいつ等を助けたガキってのは?」

「結果的にそうなっただけだ」


 セリムの容姿を確認したオードは嘲笑を浮かべた。

 

 セリムの身長は170cm弱。15歳にしては高いほうだ。だが、ラッツと比べれば低く体躯も細い。

 低身痩躯とも言える体格でゴブリン数十匹を倒せるわけがない。オードはそう感じた。


「ゴブリン数十匹を倒す? 誰かに手伝ってもらったんだろ。それをまるで自分だけの手柄のように語るのはよくないぜ」

「何が言いたい? はっきり言えよ」

「イキってんじゃねぇって言ってんだよ」


 オードはギルド内に居る冒険者を見渡す。


「お前らもそう思うよな。こんなガキが他人の手柄を自分のものみたいに言っておかしいと思うよな」


 周囲から小声だが賛同する声が上がる。

 大半の者たちはオードに目を付けられたセリムを哀れに思った。


「ってことみたいだぜ。ほら、謝れよ。人様の手柄を取ってしまってすいませんでしたってな!」


 セリムの頭を掴み無理やり下げさせようとするオード。

 中々下がらない頭に眉をしかめる。


(何だこいつ動かねぇ…)

「おっさん。いい機会だから教えといてやるよ」

「あぁ?」


 オードの手を払いのける。


「こんな時間から管を巻いたゴミが何言ったって説得力なんかねぇんだよ。人に謝罪要求する前にテメェが騒いだ謝罪しろや」


 セリムとオード。

 二人の間に流れる険悪な雰囲気。

 

 周りの冒険者は誰もが止めることをためらう中。


「ふ、2人共やめてください!」


 受付から走ってきたフィーネが両者の間に立ちはだかった。

 

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