第4話 入都
都市アルスに入都し最初に感じたのは冒険者や戦いを生業にする者の多さだ。
姦しいというよりは賑やかというのが合う。
大通りには出店がいくつも並び香ばしい匂いが漂ってくる。
地球ではもちろん、ソート村でも見たことがない数々の品。セリムの目は忙しい。
「あんまりキョロキョロしないでくれ。迷子になるぞ」
「あぁ。初めて都市なんて場所に来たんでな」
警備部隊総隊長自ら案内してくれるのはいいが、仕事は良いのか。
そんな思いを懐きつつメルクの後をついて冒険者ギルドへ向かった。
都市アルス冒険者ギルド。
剣をクロスさせたマークが特徴的な建物だ。
様々な種族が通うだけあって驚くほどに大きい。250センチはある木の門扉を開ける。
わっとした喧騒と酒臭さが漂った。
時刻は夕方。
丁度依頼を終えた冒険者が帰って来ているのだ。
冒険者ギルドは右手側が依頼の受諾場所。左手側には食事できるスペースが広がっている。
あまりの人の多さに驚くセリム。メルクに促され受付へと向かう。
メルクはアルスでは有名人だ。
周囲から視線を向けられる。
地球でも異世界でもここまでの多くの視線にさらされたことはない。
居心地の悪さを覚える。
メルクに促され、受付カウンターの列に並んだ。
列に並んだセリムの番になる。
「本日はどのような…ってメルクさん?」
営業スマイルを浮かべ問うた受付嬢がメルクの存在に気づく。
20歳ほどの女性の獣人だ。
腰まであるブロンドへア。頭頂部からは狐の耳が生えピコピコ動いている。臀部には同じ色の尻尾が揺れている。
「本日はどうなされたんですか?」
「今日はこの少年、セリムの冒険者登録の付き添いだよ」
メルクは掻い摘んでセリムとのやり取りを伝えた。
「そうなんですね。わかりました。セリムくん、こちらの用紙にご記入をお願いします。代筆が必要であれば仰ってください」
「…」
「あの〜どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
初めて見る獣人が珍しかった。
凝視していたのを誤魔化すようにそっぽを向いた。
フィーネと名乗った狐の獣人女性に貰った用紙にサラサラと記入していく。
項目は以下のものだ。
名前。
種族。
年齢。
スキル。
順に記入していくが、手が止まる。
(年齢はどうするか…)
実年齢は11歳だが、強制進化役によって15歳ほどの見た目になっている。
15歳と記入する。
(スキルか…)
セリムは
カルラからあまり表立って言わないほうがいいと忠言されている。
あまり多くのスキルを持っていると面倒事に見舞われる可能性があるから避けるようにと。
スキルは数を誤魔化すことにした。
最後に確認しフィーネに返す。
名前:セリム
種族:人族
年齢:15歳
筋力強化 LV7
剣技 LV8
「筋力強化7!? 剣技8!?」
15歳、冒険者でないにも関わらず高いスキルレベルに驚くフィーネ。
他人のステータスを見たことがないセリムには分からないことだった。
周囲に居た冒険者の視線が一斉にフィーネに集まる。
恥ずかしさ、申し訳なさからカウンターに身を隠し縮こまるフィーネ。
「あの、早くしてもらっても?」
容赦なくぶった切るセリム。
「あ、はい」
心配する態度を見せないセリム。メルクは顔を引き攣らせた。
フィーネは「何ってんだろ…」と正気に戻らされた。
セリムに謝り淡々と作業をしていく。
「では、冒険者登録を行ってきますので少々お待ち下さい」
「ステータスプレートで計測とかはしないのか?」
「冒険者登録には先程記入した用紙があれば問題ありません。計測自体は出来ますが銅貨1枚かかるのはご了承ください」
この世界での硬貨の価値は以下の通りだ。
銅貨1枚=100円。
銀貨1枚=1000円。
金貨1枚=1000円。
白金貨1枚=100000円。
虹金貨1枚=1000000円。
各々10枚ずつで1つ上の硬貨へ変わる。
(カルラの話じゃ登録時に測れるはずだが…)
大昔の人なので変わっていても不思議はないと割り切った。
フィーネが戻りドッグタグのような物を差し出す。
「こちらが冒険者登録情報を記載したものになります。以降は身分証としてもお使いになれます。
今回は初回ということで料金はいただきませんが、紛失などした場合は銀貨1枚での再発行となります。ご了承ください」
ドックタグと一緒に持ってきた一冊の冊子をセリムに見せる。
「冒険者ギルドについて説明いたしますね。
登録した方は全員が最低ランクのFから始まり、一定の功績を積むことでランクが上がっていきます。最高はSSです。
依頼を受ける時はここの受付に持ってきてください。ただし、受けられる依頼は現状ランクの上下1つまでです。
早くランクを上げたいからと言って無茶はしないようにお願いします。失敗した場合は違約金が発生する場合がありますので。
大まかな説明は以上となります。
細かな説明などはその都度聞いていただくかマニュアル本があるのでそちらを御覧ください。
質問等なければ登録はこれで終わりになります」
「フィーネさん。職業選択をさせていただきたいのだが今から可能だろうか?」
頭を下げるフィーネにメルクが問うた。
「今日の所は難しいと思います。明日以降でしたら」
「わかりました。では」
セリムも軽く会釈した。
受付から離れるとセリムは職業のことについて尋ねた。
「職業ってのは冒険者に限らずほとんどの者が持っている特性というか…説明は難しいな。簡単に言うと職業を選ぶことによって専用のスキルを覚えたりステータスが上昇したりと自身を強化出来るものだ」
(前々から思ってたがまるでゲームだな)
地球時代に一時期やっていたゲームに職業選択というものがあった。
強くなることに貪欲なセリムは職業選択が楽しみだった。
「俺は明日は一緒に来ることは出来ないから1人で来てしっかり選択するように。それからそのタグなくさないようにな」
「分かってる。あんたにも色々世話になったな」
「気にしなくていい。この都市に戦力が必要なのは確かだからな」
「助けが必要になったら呼んでくれ」
セリムはギルド前でメルクと別れた。
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